今日の成果と明日の予定
「あー、今日も疲れたな―」
「そうですね。ですが色々と得る物もありました」
夕食という名の地雷処理を終えた二人は昨日と同じく蒼一の部屋に集まっていた。
密度で言えば間違いなく昨日の方が勝っていたが、アイゼンとの交渉が非常に精神的に負荷が大きかったのか、蒼一は昨日と同じくらい疲弊した様子でベッドにぐったりと横たわる一方で、ブリ雄は現在手元に残っている硬貨を確認していく。
「解体及び依頼費を引いた五万八千円が今日の収益、そこから蒼一様の武器と弾丸の購入、その後に行った図書館の入館費に食費、etc……残金は一万九千円と、これは明日にでも早速モンスターを狩りに行かなければなりませんね」
「それなりの量を狩った筈なのにたった二日でもう底を尽きそうになるとは、実はこの職業って割に合わない?」
「新兵の懐事情は皆かなりカツカツだという話ですよ。リボルバーを購入した蒼一様なら分かると思いますが一番安い武器一つでも新兵のその日の稼ぎが丸々なくなってしまう程には値が張りますからね。かといって整備を怠ったり装備をケチろうものならそれこそ死に直結します」
「命あっての物種だからなー……。俺のリボルバーも一番安いので三万した訳だし」
そう言いながら蒼一は自分の手元にある固定式のリボルバーを見やる。
全てが金属で作られ可能な限り部品点数が少なく済むように設計された簡素な作りのおかげで値段は抑えられていたが、振出式や中折れ式となると途端に万単位で値段が上がり、同じ固定式の物でも中には蒼一の持つリボルバーの十倍はする高価なものだってあった。
ガルフから聞いた話では新兵のその日の稼ぎとしては三万、四万でもあれば上出来であり、その新兵としては上出来の稼ぎも仮に依頼で武器や防具を破損した場合、その購入や補修だけで折角の稼ぎが吹っ飛んでしまう事になる。
「等級が上がれば少しは楽になるんかね?」
「掲示板をチラっと見た限りでは戦士や術師で受けられる依頼となると報酬の金額は最低でも五割増し、中には一人頭十万を払うといった依頼もありましたよ」
「結構報酬額が上がるんだな。まぁその分危険も大きいって事なんだろうけど」
正直言ってそれが割りが良いのかどうか話を聞いてても蒼一には理解出来なかったが、先日にニーヴァを訪れた際の賑わいを思い返せばあれだけの人が居たのだから割に合わず稼げない仕事という事はないのだろうと一人納得する。
「それで?そんな依頼を地道に受けていくのか?」
「蒼一様がそういう下積みを経験なされたいと言うのであればそれでも構いませんよ。ただ我々の場合は新兵向けの依頼を受けて行動を制限されるよりも、自由に動いてモンスターを狩り続けた方が圧倒的に稼げる筈です」
依頼を受けてしまえば当然の事だが依頼達成の為に動かなければない。
そうなると新兵でも行ける比較的安全で強力なモンスターの出ない場所に行動範囲は制限されてしまい、また依頼目標が優先である以上は途中で何かを見つけても優先度を考え、諦めなくてはならない場面だって出て来るだろう。
それならば依頼を受けず好きな場所に行って素材としても高価なモンスターを狩りまくった方が金になるのは間違いなかった。
「前回狩ったモンスターは新兵でも狩れるようなモンスターが殆どでしたからね」
「金になりそうだったモンスターは俺が木端微塵に打ち砕いたもんなぁ……他にも駄目にした奴らも多いし」
初戦で戦ったアルマジロのような外皮を持つ猫科のモンスターの事を思い返しながら蒼一は言葉を零す。
今回の買い取り価格が安かった原因は丸のまま持ち込んだ為に無駄に掛かった解体費用、素材にならない胴体の処分費、並びにニーヴァへの依頼料が主だったが、蒼一が力加減を間違えて砕いてしまい素材として使えなくなったモンスターの死体もその原因の一つだった。
「そうしない為に武器を買ったのですから、次からは大丈夫ですよ。銃なら近接武器と違って力加減を気にする必要も無いですからね」
「……確かに、それもそうだな」
ブリ雄にそう言われて、力加減を気にしなくて良いという意味では銃はこれ以上ないと言って良いくらい最適な武器であるという事に今更ながら蒼一は気が付いた。
素手で殴るから駄目なんだと考えていた蒼一だが、剣であれ斧であれ、その馬鹿げた膂力で振るえば結果は変わらないどころかそもそも武器の方が蒼一の力に耐えられず壊れるのがオチだっただろう。
その点銃の威力は銃本体の性能と使用した弾丸に左右されるので安心だった。
「ただ戦闘中に力んでトリガー諸共グリップを握り潰すような事だけは気を付けて下さいね」
「そこは気を付けるよ。折角のリボルバーをうっかりで壊したくないし」
「でしょうね。それで明日の予定なのですが今日図書館の方で調べた結果と私の知識に齟齬が無かったので、"テンチェンド森"に向かおうと思います」
「なんだそのプロレスラーのリングネームみたいな名前の森は」
「翻訳のせいですね。恐らくテンチェンドという言葉に該当する日本語が見当たらなかった結果でしょう」
ミーノファルスの場合は"ミーノ"には狂気という言葉が宛てがわれたが、テンチェンドファルスの場合は"テンチェンド"に該当する日本語が無く、森を意味するファルスのみが訳された結果リングネームのような呼び名になってしまったのだろう。
「狂気の森は"狂気の"って付いてるんだから、せめてテンチェンド"の"森とか、助詞くらいは付けて欲しかったな」
「そのいい加減さも含めて仕方がないのかと、いくら神様とはいえこの世に無数に存在するであろう地名を一つ一つ違和感なく翻訳するなんて不可能ではないでしょうが相応に手間が掛かるのでしょう」
「まぁ俺らの為にそこまでやる義理も神様にはない訳だしな……そもそも翻訳してくれただけですげぇ有難い訳だし」
二人はそう納得しつつ、話し合いを再開する。
「それで話を戻しますが、明日は先程もあげた森に向かうという事で宜しいでしょうか」
「あぁ、俺の方は特に何も無いからな。ちなみにその森には何があるんだ?」
「私の新しい杖の材料になるモンスターと、それと蒼一様の好物が」
「俺の好物?」
好物という言葉から恐らく食べ物の類だろうと、蒼一は森の中で手に入りそうな食べ物を片っ端から頭に思い浮かべていく。
(んーキノコとか山菜は天ぷらにすれば好きだけど、多分ブリ雄の言い方からして調理法云々ではなく食材そのものが好物って感じだよな。とすると……タケノコか?)
ブリ雄の言う自分の好物とは何の事だろうかと首を捻る蒼一に、ブリ雄は悪戯っぽい笑みを浮かべながらそれは明日のお楽しみと暈すように言い、その正体を教えられる事はないのであった。




