テンプレ展開って実際辛い
誓約書の内容を一通り確認し終え、問題ない事が分かると蒼一とブリ雄の二人はもう一枚の書類の方に取り掛かっていた。
「何だろうな。こうして紙に名前とか年齢とか書いてると就活生の頃を思い出すわ」
「希望する依頼傾向、目指す等級、戦闘系の場合には得意とする武器は何か等、明らかに履歴書に書かないような項目が並んでいますがね」
「そこはまぁファンタジー版履歴書って事で」
「二人の会話を聞いてて思うけど、良く分からない単語が沢山飛び交ってるわね」
「こことは文化というか色々と変わった場所ですからね。単語なども少し違うのですよ」
ルドルフ達の時と同じように異世界転生やら孤島やら致命的な単語は避けつつも、他の単語は敢えてそのままに会話する事でトリシャにも蒼一達が自分達の住む場所とは違う所からやって来たのだという印象を植え付ける。
相変わらずそれを意図的にやっているのはブリ雄の方だけで蒼一に関してはただ単純に致命的な言葉だけは言わないように気を付けているだけなのだが、それは兎も角順調に書類を書き進める二人は新兵の次にどの種類の等級を目指すのかというところまで来ていた。
「等級か。ブリ雄はどの系統に進むか決めてるのか?」
「えぇ、私は術師を選択しようかと」
「まぁそれはそうだよな。となると俺はやっぱ戦士かねぇ……ところで戦士と術師って何方も戦闘系の等級だけど受けられる依頼に差異があったりするのか?」
「それは勿論あるわよ。モンスターの中には魔術が効かない奴も居ればその逆だって居る。そういうモンスターを相手にする時は同じ戦闘系でも依頼に制限が入ったりするわ」
「じゃあ戦士と術師で分かれてしまうとブリ雄と一緒の依頼が受けられない可能性が出て来るのか」
そう危惧する蒼一だったが、その不安は直ぐにトリシャによって解消される。
「その心配は無いわ。戦士系限定の依頼と言っても魔術による攻撃が出来ないだけで術師は戦士を補助する事は出来るし、反対に術師限定の依頼でも術師を守るために戦士が身を張って守るというのが必要である以上、パーティで参加する場合は制限が解放されるのよ」
「へー、パーティね」
違和感なくさらっと日本語の会話に入り込んでくる英単語に逆に違和感を感じつつ、基本的には蒼一達が理解し易い単語に変換されているというのなら部隊とか一行と訳されるよりはパーティの方が理解し易いのは間違いないので、一瞬浮上した違和感を振り払いパーティさえ組めば一緒に依頼を受けられるなら大丈夫かと蒼一は戦士を選択する。
「よし、俺の方は書けたぞ」
「私の方も出来ました」
「じゃあ二人共書類を頂戴、カードを発行するから」
「お、カードがあるのか?」
「当たり前でしょ。社員証の類が無いと偽り放題になるじゃない」
「社員証……うんそうだよな、会社だもんなぁ……」
油断してると飛び出してくる世界観ぶち壊しの単語に蒼一が遠い目をしていると、ドンとカウンターの上に何かが置かれる。
それは指針の付いた速度計のような代物でメーターの下側には人間の腕が入るような大きめの穴が開いていた。
「コイツは?」
「魔力測定器よ。戦士、術師、僧侶を選んだ人はそれで魔力の量を測るの」
「なるほど、模擬戦ではなくそっちのタイプか」
「何?」
「いや何でもない」
その呟きに反応したトリシャが書類から顔を上げて蒼一の顔を見るも、蒼一は適当に誤魔化し測定器を注視する振りをして視線を逸らす。
(来たぞ来たぞこの手のイベントが、これは圧倒的な魔力の多さで周囲の度肝を抜くパターンの奴だこれ!)
ようやくめぐって来たテンプレ的な展開に内心でガッツポーズをする蒼一だったがそんな事はおくびにも出さずブリ雄に話しかける。
「どっちからやる?」
「別にどちらからでも構わないと思いますが……そうですね、私からやりましょうか」
自分である程度場を温めておいてから更に蒼一が魔力の桁違いを見せつけるというのが蒼一好みの展開だろうと考え、ブリ雄はそう提案してから測定器の前に立つ。
(悪目立ちは極力避けたいところですが、今は人目も少ないですし、何より模擬戦をやるよりは圧倒的にマシでしょう)
蒼一に自重を促しつつも不満を溜めないようある程度はお望みの展開に持ち込んで憂さ晴らしをさせる。
裏で一人苦労するブリ雄は誰にも聞こえないくらい小さな溜息を零してから測定器の穴へと手を挿し込んだ、その時だ。
――ピシッ。
「え?」
グインとメーターが限界まで振り切ると同時に嫌な音が指針の根本から聞こえてくる。
「これは……」
「……やらかしたな」
「ん?どうかしたの?」
不安気な顔でメーターを見つめる二人の様子に怪訝な顔をしながらトリシャが尋ねると、ブリ雄は無言のままメーターの向けを反転させ、トリシャに見えるように測定器を向けて恐る恐る口を開く。
「すみません、測定器が最大値を振り切ってしまったのですが」
「え?」
言われた事を最初理解出来なかったトリシャは鳩が豆鉄砲を食ったようような顔で向けられたメーターを見つめ、数秒の間を置いてからハッと我に返ったのか測定器を弄り出す。
「可笑しいわね、壊れてたのかしら」
「いや壊れてたっつーか、ブリ雄の魔力で壊れたというか……」
後半部分はごにょごにょと消え入りそうな声で呟いた為にトリシャに聞こえる事は無く、蒼一のそんな呟きに気付く事も無くトリシャは測定器を弄る。
「ん-指針が元に戻らないわね。本格的に壊れたのかしら……ちょっと待ってて、予備の方を持ってくるから」
そう言って席を立ったトリシャの背中を見送った後、蒼一とブリ雄は何とも言えない顔で向かい合う。
「あれ絶対お前の魔力で壊れた奴だろ、どうすんだよあれ」
「どうしましょうよね……しかしこの手の展開は蒼一様好みなのでは?規格外の魔力で測定器を破壊する系、好きですよね?」
「それは大好物だけどいざ実際に物損が伴うとなるとちょっと元社会人としては会社の備品を壊すのは肝が冷えるというか申し訳なさが勝るというか……何か下腹部の辺りがキュッてなるんだよ」
ブリ雄が起こしたテンプレ展開にテンションが上がるどころか明らかに下がっている蒼一にブリ雄が次はどうするかと質問を投げる。
「それでトリシャさんが新品を取りに行ってしまわれた訳ですが、どうします?次は蒼一様がやりますか?」
「お前で指針が壊れるなら俺がやっても同じかそれ以上の事が起こる未来しか見えんぞ。最悪測定器が爆発四散するとか……神様にも散々脅されたしな」
「となるとトリシャさんには私の魔力が原因で壊れたかも知れないという事は伝える必要がある訳ですね」
「それと俺が同じ理由で測定出来ないってのもな」
問題なのは測定器が使えないのにどうやって桁違いの魔力を持っているという事を証明しようという話であり、そうなるとトラブルや混乱を避ける為に抑えているブリ雄の魔力を解放するしかなく、悪目立ちは避けられないだろう。
そんな事など知らないトリシャが戻って来て、先程の測定器と良く似た真新しい物を持ってきてカウンターの上に置く。
「どう?予備とは言ったけどさっきのよりも性能が良い新型でもっと細かく魔力量を測る事が出来るのよ。あの測定器ももう何年も使ってたやつで寿命だったみたいだし、これを機に交換出来て丁度良かったわ」
わざとらしくそう説明するトリシャ、恐らく不安気な顔をしている二人を見て壊れたのは二人の責任ではないから気にするなとそう励ましたいのだろう。
トリシャのその思いを理解しながら、ブリ雄は申し訳なさそうな顔で口を開く。
「あの、トリシャさん」
「何?」
「測定器が壊れたのは寿命ではなく、恐らく私の魔力が原因です。ルドルフさん曰く私の魔力は桁違いに大きいらしく、測定器の限界を超えてしまったのかと」
「…………はい?」
ブリ雄の言いたい事は理解出来るが理解出来ないといった感じで少々混乱するトリシャだったが直ぐに思考能力を取り戻し胡乱気な目線をブリ雄に向ける。
「冗談も大概にしなさい。測定器を破壊するだけの魔力だなんて聞いた事がないわよ。許容量の六割を超えるだけでも傍に居るだけで息苦しさを感じる程の規格外の化け物だと言われてるのに、実際にそれだけの魔力を持つ人間が居たら魔力だけで人間が殺せるんじゃない?」
(あ、これルドルフさん達説明が面倒臭いからってブリ雄の魔力に関して説明しなかった奴だ)
正確にはブリ雄の魔力が凄まじいというのは報告していたのだが、ただ"凄まじい"という事だけしか説明しなかったが為にどれ程凄まじいのかまでは正確に伝わっていなかった。
実際詳しく説明したところで信じて貰えなさそうだし説明も面倒臭かったというのもあって、蒼一の予想も半分は当たっていた。
それは兎も角、これ以上の無駄な物損を避けるにはトリシャを納得させるしかなく、蒼一とブリ雄は顔を見合わせる。
「蒼一様、少々場が混乱するかもしれませんが」
「まぁ仕方ないだろ。ただ一気に解放はすんなよ。失神者とか出たら洒落にならんからな」
「二人共?一体何のはな――」
"話をしているの"と続く筈だったトリシャの言葉はそこで遮られてしまう。
トリシャの言葉を遮ったのは突如として自身に圧し掛かる重圧感、それは自身の体重が倍増したような錯覚に囚われ、息をするのも忘れてしまう程であった。
「あ、あぁ……」
まるで深海まで一瞬で引き摺り込まれたような感覚が、ブリ雄が魔力を抑えるその手綱を緩めるにつれて増していき、トリシャの意識は更に深い場所へと引き摺り込まれていく。
トリシャはルドルフ達のような戦闘員でも無ければ、ルドルフ達の時のように離れた場所からその魔力を感じ取った訳でもなく、いきなり至近距離で晒されたトリシャへの精神的負荷はルドルフ達の比ではなかった。
それでも尚、全開放にまで至っていないブリ雄は自身の実力を誤解無く伝えるべくそのまま魔力を解放し続けていた時だった。
――ピシッ。
「「あっ」」
ついさっき聞いたばかりの音がもう一度響き渡り、蒼一とブリ雄はハッとした表情を浮かべるとブリ雄の方は解放していた魔力を抑え込み、二人して音の発生源へと恐る恐る視線を向ける。
そこにはまだ傷らしい傷も見当たらない真新しい測定器の姿があったが、指針の部分だけが可動域の限界を振り切って飛び出しており、根本から完全に折れてしまっているのが見て取れた。
「おいブリ雄、二台目だぞ」
「無駄に測定器を壊さないようにとこのような手段を取ったというのに……儘ならないですね」
まさか魔力を流し込むのではなく開放した際に漏れ出た魔力だけでも壊れるとは予想していなかったのか、無為な損害を避けようとした結果、むしろ事態が悪化した事に二人は頭を抱えたくなる。
「取り合えず謝らないとな……結果だけ見たら脅かした上に器物破損だし」
「本当に、儘ならないですね」
二人はそんな会話をしながら凍り付いたニーヴァ内を見回しつつ、一人一人声を掛け混沌とした場の収拾に苦労するのであった。
強大な魔力があれば直接魔力を注がなくても測定器を破壊出来る、ここテストに出ます。




