ニーヴァの契約内容
時刻は昼前、蒼一とブリ雄は宿を出てニーヴァを目指して進んでいた。
目的は勿論ニーヴァに所属する為だったが、まだ本決まりという訳ではなく、契約の内容を確認してから問題が無ければ所属するという予定だ。
「契約の内容に問題なければ所属するなんて、なんか我ながら上から目線に感じるんだけど審査とかそういうのは無いのか?」
「会社によってそこはマチマチですね。ニーヴァのような形態は無い場合が殆どなので、ニーヴァも審査の類は無いと思いますよ。但し適正を見る為のテストくらいはあるかも知れません」
「ほーん、テストねぇ」
テストという単語に悪い顔をする蒼一に向け、ブリ雄が諫めるように告げる。
「蒼一様、やり過ぎないようにしてくださいよ。私達は既に悪目立ちしてしまっているのですから」
「分かってるさ。でもこの手のイベントは転生モノの醍醐味みたいなところがあるからなぁ」
「……本当に自重してくださいね?」
念押しするようにブリ雄が告げるも、肝心の蒼一はどうやってテストをクリアしようかという思考に没頭しておりブリ雄の言葉など頭に入っていなかった。
そんな不安を残したまま、二人は昨日も訪れたニーヴァの拠点へと到着する。
要塞を想起させる石造りの外観はつい先日にも訪れたばかりだというのに部外者に立ち入らせる事を躊躇わせるような雰囲気を漂わせていた。
蒼一がそう感じてしまうのは前回にニーヴァの中で色々な視線に晒された所為だろう。
ルドルフ達と共に行動していたからこそ絡まれるような事は無かったが、視線が自分に集中するというのは会社のプレゼンを想起してしまいどうしても緊張せざるを得ない。
「行くか」
そう声に出す事で躊躇いを振り切り、蒼一は扉を潜ってニーヴァの中へと足を踏み入れるが、蒼一の予想に反して中に人の影は殆ど無く、昨日のように荒くれ者達が屯しているという事も無かった。
「……あれ?」
「昼前ですからね。依頼を受けに来た人達は皆朝の内に受けて今頃は街の外でしょう。来たとしても街中で出来る依頼、生産系や治癒系などを受ける所謂非戦闘員の人間ばかりになるでしょうから」
「それもそうか」
授業中にテロリストが攻めて来る妄想をする中二病患者の如く、絡まれた時の対処法を考えていた蒼一は拍子抜けたした様子でニーヴァの中を歩き受付へと向かう。
(なんか悉く異世界転生モノのテンプレ展開を潰されてる気がする……)
そんなどうでも良い事を考えながら受付の前まで行くと昨日も居たトリシャが二人をカウンターの向こうから出迎える。
「あら二人共、予定では夕方にという話だった筈だけど」
「それは買い取りを依頼した件でしょう。今回来たのは別件ですよ」
「別件?」
「私と蒼一様もニーヴァに所属――じゃあ伝わらないんでしたね。えー、中しようと考えているんですよ」
「二人がウチに?」
中って一体何だと考えながらもブリ雄がそう訂正して告げるとトリシャは少し驚いて見せた。
「まぁウチの方針としては依頼主であれ求職者であれ来る者は拒まずでやってるしそれは構わないのだけど……ウチで良いの?。ルドルフさんに聞いた話じゃ二人共それなりに強いんでしょう?」
「まぁ自分達の実力にはそれなりの自信はあるけど、それがどうかしたのか?」
「ニーヴァの受付が言う事じゃないけど、二人に実力があるならウチなんか選ばずにもっと良い会社に入れるんじゃない?。ウチは誰でも入れて経験の無い人間なんかが実績を作ってからもっと条件の良い会社に行く為の足掛かりみたいなものだし」
明け透けのない言い方をするトリシャに本当に受付が言う事ではないなと半ば呆れつつも蒼一はその疑問に答える。
「別に俺らは良いところに入りたいなんて思ってないからな。自分がしたい時に仕事を受けられて、金が欲しい時に金が稼げればそれで良い」
「あーなるほど、二人はアレね、上昇志向の無い駄目人間ね!」
「おいブリ雄、この人とっても良い笑顔でサラッと毒吐いたぞ」
「まぁ真面目に命懸けで仕事に従事している人達と比べれば私達はそうなるのでしょうね」
世界に転生し海神を素体とした仮初の肉体を持つ意識体と片や世界の力の一端を得て海神を屠った埒外の怪物、脅威足り得る存在が管理神くらいしか存在しないこの世界において名を聞いただけで人々が慄くような怪物退治だろうがモンスターが跳梁跋扈する森の中での採取依頼だろうが二人にとっては子供の御使いに等しく、子供の御使いを命懸けの仕事だと思えと言われても無理な話だ。
そんな二人の依頼に対する覇気の無さを感じ取ったのだろう。
トリシャは天使のような微笑みを浮かべたまま、鋭い言葉を二人に投げる。
「やる気が無いなら辞めときなさい。いい加減な気持ちは貴方達の為にはならないし、本気で依頼に取り組んでる皆は勿論、依頼を持ってきてくれる人達に対しても失礼な事なの。分かったかしら?」
「……ごめんなさい」
笑顔から発せられる威圧感に堪えかねた蒼一は一度頭を下げるも、それでもと直ぐに頭を上げてトリシャへ強い意志を感じさせる瞳を向けて口を開く。
「でも俺達だって俺達の理由があってニーヴァに入る必要があるんだ。何も遊びで言ってる訳じゃない」
「……まぁその気持ちがあるならこれ以上は何も言わないわ。そもそも私に受け入れを拒否する権限なんて無い訳だし」
そう言いつつトリシャは机の引き出しの中から二種類の書類を取り出すとそれを蒼一とブリ雄に各種一枚ずつ手渡した。
「片方が誓約書でもう一つは名前とか希望する依頼傾向とかまぁ参考程度の物ね。実際にそれに記載した通りにしなきゃいけない訳じゃないから何となくて書いて大丈夫よ」
「そんないい加減で良いのかよ……」
「最初に意気揚々と狩猟系の依頼を選んだ後、早々に死に掛け心が折れて生産系に転向する人間も珍しくないからね。そっちの書類に関しては正直言って形骸化してるわ」
「ほーん、そんなもんか」
「蒼一様、そちらに記入する前に誓約書の内容を確認を忘れないようにお願いします」
「おっと、危ない危ない」
つい今朝方に契約の内容に関して忠告を色々と受けたばかりだと言うのにもうその事を忘れかけていた蒼一は慌てて誓約書に目を通す。
「ソシャゲとかでもこの手の制約とか利用規約ってついついスルーして同意ボタンだけ押しちゃうんだよなぁ……」
「危ないですよそれ、蒼一様の知識の中にも利用規約の中にゲームとは明らかに関係の無い情報の取り扱いに関する記載があって話題になったゲームの話等もあるじゃないですか。そういう事例を知っても尚、確認しようとは思わなかったのですか?」
「だって俺はゲームを遊ぶ為にインストールしたのであって利用規約を読む為にインストールした訳じゃないんだぞ?。だから早く遊びたい欲が先行しがちというか、利用規約なんて読む気になれないというか」
「職業的にそのセキリティ意識の低さは問題があるでしょうに、まぁ今更それを言ったところで関係無い話ですが……すみません、ここの除名処分に関する記載で質問があるのですが」
そう説教しつつもブリ雄はしっかりと誓約書に目を通し、不明瞭な記載があれば直ぐにトリシャに質問して後で面倒にならないよう不安点を潰していき、結局誓約書の内容は全てブリ雄が検めてしまい蒼一はただその成果に肖るのだった。
筆者も書いてて"中って何だよ"って気持ちになりました。
これが古典的な自作品の設定に振り回される筆者の図です。
さっさと言語の割り当てを直せ管理神、筆者も書き辛いから、頼む。




