会社の種類
蒼一とブリ雄が西の大陸へとやって来てから二日目の朝、二人は食堂で朝食を食べた後、蒼一の部屋へと集まった。
「はぁー朝食も美味かったな……卵料理でまさかイクラモドキを喰う事になるとは思ってなかったけど」
「何の卵か確認しなかったからですよ。まぁ虫の卵で無かっただけ良しとしましょう。あの後聞いてみたらどうも虫の卵を使った料理もあるようですし」
「……生じゃなければ挑戦しても良いかもな」
そんな話をしつつ部屋の扉を閉め、蒼一はベッドに腰掛けブリ雄は椅子に座って向かい合う。
「それではこれからの予定を決めていきましょうか。取り合えず私達の共通の目標として第一は孤島に食料や種を持ち帰る事、第二に往来をし易くする為に消耗品の石製ではなく何度も使える金属製の転移媒体を用意する事、優先事項はこれくらいでしょうか」
「そうだな。その二つは優先だけど、食料を買うにしろ、金属製の媒体を用意するにしろ、金が必要になるだろうしどのみちニーヴァで残りの金を受け取ってからだな」
「食料に関しては街の外に出てモンスターを狩るという手もあります。ただ種だけは買うしかないでしょうね。鋳造も流石に鍛冶師に頼まなければいけないでしょうね」
「鍛冶師か。ニーヴァに所属してる奴がいたらそっちに依頼するのが早いんだろうな」
ボソリと呟くように零した蒼一の言葉にブリ雄が反応する。
「それに関して少し相談があるのですが、ニーヴァに加入しませんか?」
「え?むしろ加入しないという選択肢があるのか?」
蒼一の中で会社に入るのは既に決定事項であったのかブリ雄のその発言に目を丸くし、そんな蒼一にブリ雄は若干呆れた視線を向けながら口を開く。
「蒼一様……昨日も話しましたがこの国にはニーヴァ以外にも幾つもの組織が存在しています。それぞれが特色や利点を持っていて蒼一様はまだそれを知りません。ですので蒼一様としてはそこら辺を鑑みてから所属を決めたいと仰ると思っていたのですが」
「あー……いや、正直ちょっとあの雰囲気にテンション上がっててそこまで考えが回んなかったですはい」
「みたいですね。それでその話を思い出した上でお答えを聞きたいのですが」
「ん-そうだな、俺としてはニーヴァに所属するでも問題は無いが……一応、他にどんなのがあるか聞いても良いか?」
「そうですね。細かく説明するとキリが無いですし私も虫食い状態の知識ですので大まかに説明しますが、ニーヴァが手広くやっているのとは逆にそれぞれの分野で専門的にやっているところもあるというのは知っていますね?」
「あぁ、ルドルフさんに教えて貰ったからな」
「実はその分野毎に存在する組織ですが、言うなれば分野というのは小分類であり、それよりも大きな括りの形態が二つあるのです」
「あー……フォルダが二つ合ってその二つのフォルダ内にそれぞれの分野というか組織が詰まってる感じ?」
「その認識で合ってます」
「オッケー把握、っでその形態ってのは具体的には?」
「一つが蒼一様がイメージしているギルドらしいギルドで、ニーヴァはその形態になります。もう一つは生前蒼一様が務めていたような会社らしい形態、ニーヴァのように自主的に依頼を受けるのではなく会社の方から仕事が回されるような形です」
「前者は自分で仕事を受けるフリーランス、後者は上から与えられた仕事をこなす契約社員って感じか。んー後者の方は遠慮したいな」
蒼一とブリ雄の本拠地は孤島であってこの街に常駐する訳でもないし、仕事で自由に動ける時間が制限されるのも避けたい。
何よりも蒼一としてはやっと会社から解放されたのにまた生前と同じような会社勤めはしたくないというのが一番の理由だった。
「蒼一様としては後者は嫌いでしょうね。ただ一応私達にとっての利点だけ説明させて貰うと、後者の場合は依頼の報酬以外にも基本給が存在します。依頼に関しても仕事を割り当てるだけあって適正がある人間を選んで任せるので無理な仕事が与えられる事は無い筈です」
筈というのは結局そこら辺の裁量は人間がするものであり、中には無茶ぶりをかます上司も居るので絶対ではないからだ。
「次にもし仮に依頼を失敗したり何か失態を犯した場合、意図的だったり悪質な物ではなかった場合はその責任は会社の方が負ってくれます。あくまでも仕事を振ったのは会社の方であり、意図的に失敗した訳ではなかったのだとすればそれは会社の判断ミスですからね。これがニーヴァのような組織形態だった場合は自分の判断で依頼を受けているので失敗した際にはかなりのペナルティを負う事になります」
「会社が責任を負うって、じゃあ本人には何のペナルティも無いのか?」
「そうですね……正直何処まで責任を負うかは契約次第なので何とも言えませんが、多少の減給や査定の際に厳しくなるのが一般的ですかね」
「それ絶対滅茶苦茶な契約を交わす会社とか、人に責任を擦り付けようとする上司とか居るだろう」
「その手の人間はどんな組織にでも居ますよ。所属する際にそこら辺はしっかり確認してから書類にサインするのが宜しいかと。ニーヴァのような組織の場合はそこら辺の契約がかなり大雑把で、実質的に依頼を受ける毎に契約してるような物ですので常に気を付ける必要がありますよ」
一応ニーヴァの方で依頼の契約内容は確認はしており、滅茶苦茶な内容の物は掲示板に張り出されるような事は無い。
とはいえあの形態の場合は依頼を受ける側にかなりの裁量権が与えられてしまっている為、ニーヴァもそこまで細かく詳細を尋ねたりはせず、一度契約してしまえば後はもうこちらの自己責任という話になってしまうのでブリ雄の言う通り注意が必要だった。
「その点だけで言えば仕事を自動的に割り当ててくれて責任も背負ってくれるってのは魅力的だな。所属する時の契約だけ気を付けておけば良い訳だし、仕事の数が少なくても基本給があるから安定した収入は得られるしなー」
「そうですね。因みに今回は私達にとっての利点だけを説明しましたが、依頼する側にとっても何方の形態の組織に依頼するかは非常に重要な事だったりします。簡単に説明しますと突発的だったり一度っきりの依頼はニーヴァのような形態の組織に、定期的な依頼であったり安定した仕事を求める場合はもう片方の形態の組織にと舞い込む依頼の種類にも影響してくるのです」
「あー、まぁ確かに素材採取の定期依頼とかになるとニーヴァみたいな形態じゃ難しいかもな。受ける人間によって採取してきた素材の質が上下したり、そもそも掲示板に張り出されたからと言って誰が何時受けるかも分からないから欲しい時に素材が届かないって可能性もある訳だし」
安易にギルドに所属しようと考えていた蒼一だったが、簡単にでも説明を受けて見ると意外と色々あるのだなと自分が浅慮だった事を思い知らされる。
それからも少しブリ雄と相談を続け、結局は当初ブリ雄が提案してきた通り一旦はニーヴァに所属するという事で話が纏まったのであった。




