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行きつけの店

完全に陽も沈んだ頃、蒼一達はパラムの通りを歓楽街に向かって歩いて居た。

何故宿屋では無く歓楽街の方へと足を向けているのかというと、トラウドが夕食でもどうだと誘ってきたからである。

聞き出せないなら食事に誘って気の緩みから勝手に漏らすのを期待しての考えだろうが、それが分かっていても明確な理由も無しに断る事も出来ず、そういう訳で四人はトラウドの行きつけの店を目指して歩いている訳なのだが……


「凄いな、道行く人誰もアレ(・・)を気にしてないぞ」

「きっと見慣れた光景なんでしょうね」


そんな話をする蒼一とブリ雄の視線は皆を先導するトラウドの背中に注がれており、その理由はトラウドの風体に関してである。

執務室に男が三人入って来ただけで男臭いと言ってパンツを被るような人間が、夜とはいえ更に人が大勢いる通りを普通に出歩ける訳も無く、トラウドは現在男を視界に入れないようにとパンツの上から目隠しのようにブラを更に装着するというパーフェクト変質者と化していた。

かなり目立つのでチラリと視線を向けられる事はあるものの、皆一様に大したリアクションもせず視線を戻してしまうので、パラムではもう日常風景となっている事が伺える。


「そういやトラウドさんが装着してるあの下着、デザイン的にも割と元居た世界でも通用しそうな感じだけど、十八世紀ってもうあんな近代的な下着なのか?」

「さぁ、それは分かりませんね。蒼一様の知識の中にもこの頃の下着に関する知識は含まれておりませんので」

「含まれてたら俺は過去の自分を疑うわ」


蒼一が忘れてしまっている事でもブリ雄は本棚から本を取り出すように引き出す事が出来るので、過去に一度でも蒼一が調べたり見聞きした事ならばブリ雄は全て答える事が出来る。

つまりそのブリ雄が分からないと言う事は、蒼一は今まで女性物の下着の歴史について調べたりした経験は無かったという事だろう。

自身にそんなちょっと特殊な趣味が芽生え掛けていた事実は無かったという事に安堵しつつも蒼一は前を歩くトラウドを見つめる。


「トラウドさん、話してる限りは真っ当な人なんだけどなぁ……何があったらああも拗れるんだ」

「単純に異常な程に女性物の下着が好きなだけなのでは?」

「本当にそれだけなら常時あの状態で居るんじゃないか?。男を前にした時にだけああなるって時点でなんか拗らせてるのは間違いないだろ」

「なるほど、そう言われてみるとそうですね」


そう納得するブリ雄を見て、蒼一もまた"なるほどな"と納得していた。

以前にアイゼンがブリ雄の人に対する接し方や考え方に関しては不慣れさが見えると言っていたが、それを理解した上でブリ雄の言動を見ていると確かに人間という存在に対する理解度が低い事が窺える。

普段は鋭いブリ雄だが、合理性の無い感情的な部分に関しては自身でも鈍いと自覚のある蒼一以上に鈍いようだ。

特に交渉や計り事のような理詰めとは程遠い、精神的な趣味嗜好の部分に話が及べば猶更である。


そんな事を蒼一が考えている間に周囲の雰囲気は大きく変わり、明らかに飲食店ではない何やら怪し気な店もチラホラと見えて来た。


「あのトラウドさん、これ何処まで行くんですか?。なんか怪しい店が目立ってきたんですが」

「怪しい店?何言ってんだ、男の本能を刺激する楽しそうな店の間違いだろ?」

「あぁ、やっぱその手の店なんですね」

「どの手の店の事を言ってるかは知らんが、行くなら飯の後にしな。まぁそっちが食えるだけの気力が残ってればの話だが」

「はい?それって――」

「っと、着いたぜ」


蒼一が疑問を挟むよりも早く、アイゼンが目的地へと到着した事を告げ足を止める。

そこに建っていたのは五階建ての大きな建物で、表にはデカデカと"飲食店"という看板がぶら下がり、入り口の脇には"マリナス"と書かれた掛札が掛かっていた。


「凄い自己主張の激しい飲食店ですね……」

「そりゃ自己主張してかないと何の店か分からないだろ?。それよりさっさと入るぞ」


そうとだけ答えるとトラウドはさっさと店の中へと入ってしまい、仕方なく蒼一達もその後に続くと一人のボウイが四人を出迎える。


「いらっしゃいませ、本日はどのような御用件でしょうか」

「俺がここに来てやることなんて何時も決まってんだろ?。それよりも今日はそうだなぁ……六人前をお任せで頼むわ」

「六人前ですか。今日は随分と多いですね」

「あぁ、今日は連れが居るもんでな」

「なるほど、畏まりました」

「あの、トラウドさん」


そんなトラウドとボウイのやり取りを黙って見守っていた蒼一がそこで口を挟む。


「俺達四人なのに、二人前も多く頼んで大丈夫なんですか?」

「ん?あぁ違う違う。六人前ってのは俺達全員の分じゃない。俺の分だ」

「え?一人で、ですか?。随分沢山食べるんですね」

「ははは、まぁな」


二人がそんなやり取りを交わす中、蒼一が割り込んだ事で口を噤んでいたボウイが二人の会話が途切れたのを確認してから口を開く。


「それでトラウド様、デザートは何時の通りで宜しかったでしょうか」

「あぁ、食事前に頼むぜ」

「畏まりました。お連れ様の方は如何いたしましょうか」

「私達は普通に食事を一人前でお願いします。蒼一さんもブリ雄さんもそれで良いですね?」


アイゼンが二人に確認するように言うと、この店のシステムが良く分かっていない二人がそれに対して異議を唱える訳も無く、無言で頷いて見せる。

という訳で蒼一達はどんな料理が出て来るかも良く分からないままに店の奥へと通されるのだった。

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