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パラム支部

一日目の夕暮れ、三人を乗せた馬車は予定通りにパラムへと到着し、南門で手続きを済ませた三人はニーヴァのパラム支部を目指して通りを歩いて居た。


「当たり前だけど、スルクとはなんか感じが違うんだな」

「まぁ違うと言っても建物の配置が違うだけで、材質だったり建築様式が変わったという訳ではありませんがね」

「流石にスルクから一日の距離にある街ですから、そこまで露骨な変化は在りませんよ。そういう意味では次に向かう予定のスラースはご期待に沿えるかと」


そんな他愛も無い話をしながら歩いていると、ニーヴァの紋章を掲げる見慣れた建物が見えて来る。


「支部の外観はソックリですね」

「スルクもパラムも、どちらも新築した建物ですので外観は揃えてあるんですよ。既存の建物を流用した場合はその限りではありませんが」

「なるほど」


アイゼンの説明に蒼一が適当な相槌を打ちつつ、三人はニーヴァのパラム支部へと足を踏み入れた。

内装も殆どスルク支部と変わりないが、所々細かな装飾品等が違うくらいで建物自体(・・・・)にはそれ以外に目新しい変化は無い。


「この時間にしては人が少ないな。スルクじゃ夕暮れ時は依頼の報告でカウンターに長蛇の列が出来てるってのに」


蒼一の言う通りスルクの支部と比べると人の数が少なく、カウンターにも四、五人が並んでいるだけであの賑わいを知っている身としては閑古鳥が鳴いているようで何とも侘しい印象を受けてしまう。


そんな蒼一の疑問を晴らすようにアイゼンが口を開く。


「パラムには低等級向けの依頼が少ないんです。ここら辺は厄介なモンスターばかりで必然的に依頼も中等級以上の物が殆どになりますからね。ですからパラムで受けられる低等級の依頼と言えば生産系か治療系ばかりなんです」

「だからこんなにも人が少ないんですね」

「まぁ今の時期は特に依頼の数が少ないですからね。これが秋口になってくるとその時期にしか出没しない夏眠種の討伐依頼が少しずつ増えて来て、冬になる頃には今の時期のスルク支部と変わらないくらい忙しくなりますよ」

「夏眠種?」


聞き覚えの無い単語に蒼一がそう尋ねると、アイゼンに代わってブリ雄がその疑問に答える。


「夏眠種とは秋口から晩冬までの間だけ活動するモンスターの総称です。ただ夏眠するモンスター全てがそう呼ばれている訳ではなく、その中でも熱に対して極端に弱い種族だけに限定した呼び方になります」

「その時期だけ活動する、というよりその時期しか活動出来ないと言った方が正しいですね。夏眠種と呼ばれるモンスター達は真夏に放り出された時点で死に至る程、熱に対して脆弱なのです」

「秋口からって事は大体気温が二十度を越えたら生きられないって事ですか。随分と貧弱な生物ですね」


期間限定とはいえ、それだけ人が集まるという事はそれなりの旨みがあるという事なのだろうが、何時までも入り口に突っ立って話している訳にもいかないと、三人は話を打ち切りカウンターの方へと向かう。

するとアイゼンが来ていた事に気付いていたのか、一人の妙齢の女性が背筋を伸ばしアイゼンの方へと歩み寄って来た。


「これはアイゼン様、お久しぶりでございます」

「ミナさん、お久しぶりです」

「本日いらっしゃるというような話は伺っておりませんでしたが、どのような御用件でしょうか」


ミナと呼ばれた女性――パラム支部の支部長の秘書は優雅に一礼すると無表情を崩す事無く淡々と話を進めていく。


「いえ、ちょっとジョイスまで用事がありましたね。それで通り掛かったのでこの間お願いした件もありますし顔だけでも出して行こうかと思ったのですが、トラウドさんは今お暇ですかね?」

「トラウド様なら昨夜仕事を放り出して色街へと繰り出されたので現在執務室にて監禁――失礼、執務中でございます」

「つまり忙しいって事ですね」


ミナの発言の中にチラホラと可笑しな単語があったにも関わらずアイゼンがそれらに反応しなかったという事はそれが日常と受け入れられているという事だろう。

蒼一とブリ雄は思わずツッコミたくなるのを堪えながら二人の会話を黙って聞く。


「忙しいんじゃ仕方ありませんね。事前に連絡も無しに訪れたのはこちらですし、今回の所はこれで――」

「いえ、そろそろあの馬鹿を休ませてやろうかと考えていた所ですので存分にあのアホ面を御覧下さい」

「ッチ――そうですか。とはいえいきなり押し掛けたのは事実ですから、取り合えずトラウドさんに聞いてきて頂けますか?。こっちもこの方達のカードの情報を更新しなきゃいけないので」

「畏まりました。マハバ、御二人のカードの更新をお願いします。それでは私は屑に確認を取ってきますので少々お待ちください」


カウンターの裏で椅子に座って船を漕いでいる受付嬢の一人にそう声を掛けるとミナはそそくさとカウンターの裏の扉の奥へと引っ込み、そのタイミングで今まで沈黙を守り続けていた蒼一が口を開いた。


「何というか、個性が強いですね……パラム支部」

「ここはニーヴァの基本方針である新人の育成を放棄した稀有な支部ですからね。集められた人材も人の教育には向かない者達といいますか、ニーヴァに入って来る新人には見せられないニーヴァの恥部の集合体みたいなものですから」

「そんな支部、潰した方が良いのでは?」

「そういう訳にもいかないんです。人格は兎も角、それを補って余りあるくらい優秀な人達が集まってるので」

「「優秀……?」」


視線の先でまるでナメクジのように椅子に座ったままの姿勢でにじり寄って来る受付嬢を見つめながら、蒼一とブリ雄は優秀という言葉の意味を反芻し続けるのだった。

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