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出来る事は出来ない事

蒼一とブリ雄がニーヴァの社長との顔合せの為にアイゼンと共にスルクを発って直ぐ、二頭の馬が引く馬車の中で蒼一とブリ雄は今後の予定についてその詳細をアイゼンから聞かされていた。


「――という事で、今日はパラムに到着し次第ニーヴァのパラム支部の方へと顔を出します。御二人も滞在中はパラム支部の配属となるので受付で社員証の提示だけはお願いします」

「え?でもパラムは目的地じゃなくてあくまでも経由地点ですよね?。朝になったら出立するのに、そんなの必要なんですか?」

「勿論です。支部が存在する街へ移動した際は滞在期間に関わらず社員証は提示してください。そうしないと誰が何処に居るのか、自分達の支部にどれだけ人間が居るのかが把握出来ませんからね」


育成機関という側面が強い関係上、基本的にニーヴァに回って来る依頼というのはある程度の実力があれば誰でも出来るような依頼が殆どであり、人を選ぶような依頼はまず来ない。

それでも全く無い訳ではなく、ルドルフやデミスのような重騎士になると指名依頼が飛んでくる事もあるので誰が何処に居るかという情報は出来るだけ正確に把握しておく必要があるし、現在この支部に居る人数次第ではその支部が引き受けられる依頼の上限数にも影響してくるので人数も把握しておかなければならないのだ。


「例えパラムで依頼を受けないとしても、パラムに移ったという情報で更新しておかないとスルクから離れているのにスルク支部に在籍しているという情報が残ってしまうから問題になる、って事か」

「そういう事です。なので支部のある街に寄った時は必ず顔を出すようにしてください。一応各街の入り口で入退管理はしているとはいえ、いちいちそこに問い合わせるのも手間ですからね」


今回の最終目的地はスルクから北西へ馬車で五日程の距離にあるジョイスという街であり、一日目でスルクからパラムへ移動、二日目はそのまま北上しつつ途中西へと延びる街道を経由しつつ途中で野宿、三日目は大渓谷の入り口に存在するスラースという街で一日を過ごしてから一日以上を費やして大渓谷を抜け、五日目にジョイスに到着する日程である。

パラムからスラース、スラースからジョイスまでは余程の無理をすれば一日でも行けない距離ではないが、それはつまり二日あれば余裕で辿り着ける距離という事になるので問題が起こらなければ予定通り五日で到着できるだろう。


初日は街道に沿って開けた平野を移動するだけなのでモンスターや盗賊の類を警戒する必要も無く、仮に接近してきても蒼一の知覚があればどうにでもなるので三人は空間魔術によって内部を拡張された馬車の中で呑気に会話を続ける。


「しかし最初に馬車の中に入った時は驚きましたよ。アイテムバッグ的なのがある時点で入れ物に限らず馬車とか天幕とかそういうのにも空間魔術が使われてるものがあるんだろうなとは予想してましたが、やっぱ実際に見ると混乱しますよね」

「馬車の中に頭を突っ込んだ後に外に出て外観を見るのを二、三回繰り返してましたもんね……。蒼一様(セカイ)の知覚だとどのように感じ取れるのですか?」

「ん-、真っ先に頭に浮かんだのは透明な風船……かな。空間が内側から膨らんでる感じで、肉体の視覚と世界の知覚で捉え方がまるで違うからその所為で余計に混乱したんだよ」


どちらの情報も間違いなく情報としては正しい筈なのに矛盾が起きているという状況に蒼一は未だに慣れないのか視線を拡張された空間へと向ける。


「こうして内側から見てる分には整合性が取れてるから良いんだけど、外から見た時は本当に訳が分からん」

「世界そのものである蒼一さんでも異空間の謎は解明出来ませんか」

「アイゼンさん、言っておきますけど俺は世界ではありますが、その力や権能を全て上手く活用出来る訳じゃないんです。世界に蓄えられたありとあらゆる知識や魔術の根幹を成す法則などを俺が理解出来ればその答えも出せるんでしょうけどね」

「世界の意識として目覚めたからといって、世界の全てが思い通りに出来る訳ではない――でしたっけ?」

「えぇ、アイゼンさんだって人間だからって人間の身体で出来る全ての事が出来る訳じゃないでしょ?。世界(オレ)にだって得手不得手くらいありますよ」


要はオリンピック選手も同じ人間なんだから、人間なら誰でもオリンピック選手と同等のポテンシャルを出す事が出来るなんていう理屈を無茶と言うのと同じで、世界だからって世界が出来る事の全てが出来る訳ではないのだ。


「そう言えば社長さんには俺達の事はもう伝えてあるんですか?。もしくは何も言わずにいきなり顔合わせとか」

「普通ならば実際に顔を合わせてから話すべき何でしょうが、あの人は無暗矢鱈と言い触らすような人ではありませんからね。説明を迅速に済ませる為にも簡単にですが説明してあります」

「へぇ、それで何て言われたんですか?」

「"腕の良い精神科医を紹介するよ"と言われました」

「……まぁ、普通そういう反応になりますよね」


仕事以外の用事で普段は連絡を寄越して来ない元教え子からある日突然"自己意識を持った世界と知性を持ったモンスターと顔合せして欲しい"なんて連絡を受ければ、まず真っ先に正気を疑うのは当然の反応だろう。

それも支部長なんて立場にある人間ともなれば仕事のストレスも相当溜まっているだろうし、猶更そう疑われるのも仕方が無い。


「じゃあ向こうは今回の件はアイゼンさんの気が狂ったか冗談かのどちらかだと考えている訳ですね」

「ですね。まぁあの人がどう考えていようと協力して貰うのは決定事項なので私としては構いませんが……フフフフフ」

「アイゼンさん、社長に対して怨み募り過ぎだろ」


ニーヴァの社長の事となるとキャラ崩壊を起こすアイゼンに蒼一も思わず口調が崩れる。

何をされたらそこまで怨みが募るのか、気にはなったが何だかとんでもない内容が飛び出して来そうで、そんな事になったら社長と顔を合わせるのが怖くなるような気がして蒼一もブリ雄も聞くに聞けなかった。


そんな不安を残しつつ、こうして三人はジョイスへ向けて五日間の旅に出るのであった。

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