タイトル未定2026/10/12 20:21
診療所の、午前の診療時間まで後十分。
マスターは未だに、姿を現さなかった。
マスターの診察室で、仕事をする看護師の園田亜美は、辺りをキョロキョロしていた。
こんなことは、初めてだった。
診察室に看護師長の、紫野緑と院長の麻生が話をしながら入って来た。
麻生は緑の言葉に、声を上げた。
「急に、休みを取ったのか?」
「風邪をひいたから、今日は休みますって、私の携帯のラインに入っていました」
「医者のくせに、たるんでる!遊びまわっていたんだろ」
その時、すまなそうに言う亜美の声が聞こえた。
「あの〜」
緑と院長は、亜美の声で振り向いた。
「先生って、風邪をひいてお休みですか?」
「そのようだな。日曜日、遊びまわって風邪をひくなんて、いい身分だ」
「院長。先生は患者さんに風邪が伝染らないように、大事を取って休んだんじゃないですか?」
緑の言葉を、院長はあしらうように言い返した。
「そんな配慮ができるなら、常に体調管理に気をつけるだろう。それが出来ない、駄目な息子なんだよ」
院長の言葉は、正論だ。
緑と亜美が、そう思っていた時だった。
その場に相応しくない、看護師の久保由美の明るい声が診察室に響いた。
「先生、風邪をひいて休みですかぁ?」
……もぉ、由美ゃちゃんったら!院長を、これ以上怒らせないでよ!……。
院長の前で平然と言う由美に、亜美
は内心ハラハラしていた。
しかし院長は由美の目の前で『困ったもんだ』と言うように、両手を軽く上げただけだった。
「園田君」
「は……はい」
「今日は、息子が不在だから、応援頼む」
「わかりました」
「久保君、行くぞ」
院長は、由美と一緒に歩きだした。
「久保君は、もっと真面目な男性と付き合いなさい」
「真面目な男性って……先生みたいな男性ですかぁ?」
「君は、不幸になりたいのか」
「もぉ~院長ったら!」
笑いながら歩く院長と由美を、亜美は信じられない気持ちで見ていた。
……あの院長が、笑ってる……。
「何故、院長が先生に対して、あんなに怒っていたかわかる?」
突然、緑がふってきた。
亜美は、慌てて答えた。
「それは……体調管理をしっかりしていなくて、風邪を引いて突然休んだから」
「そうなんだけど、本音はそこじゃない」
「えっ、どう言うことですか?」
「急遽休むこと、先生は私にラインしたでしょ」
「はい」
「それが、悔しかったのよ。直接、院長に言ってほしかったのよ」
緑の言葉を聞いた亜美は、思わず吹き出した。
「やだ、子供みたい!」
「ホント、子供よ。院長は先生に、頼られたいんだけど、先生は頼らない。先生に頼ってもらいたいのなら、頼ってほしいことを素直に言えば良いのに、院長は言わない。救いようのない、頑固者親子ね」
亜美は、声を上げて笑った。
「だから院長は、素直に甘える久保さんが可愛くてしょうがないのよ」
「なるほど!」
亜美は、大きく頷いた。




