第48話 王子様系女子な同級生の宣戦布告(4)
「え、っと……」
「困った顔も魅力的だね、姫宮君は。返事はノーかな。ノーだろうね。聞かなくてもわかる」
玲音はくすりと笑った。
「困らせてごめんね。でも、言っておきたくてさ」
「……ごめん」
謝ることしかできなくて、目をそらす。
「いいんだ。これは僕なりの区切りだからね」
「区切り?」
「ああ。ここから、僕の挑戦が始まる――そういう区切りさ」
挑戦……。
玲音はすっと片手を伸ばし、僕の顔に添えた。
その耽美な顔が近づいてくる。何をするのか、もうわかる。
彼女は僕の頬にキスを落とした。ごく自然な仕草で、けれど、玲音の顔は真っ赤で、手は震えていた。
「んふふ。緊張するね、こういうの。姫宮君からすれば三人目だけど、どう? やはり、慣れたりするのかな? このプレイボーイめ」
「……慣れるわけないじゃん……」
僕の頬も燃え上がりそうなくらい熱い。
拒否しなかったのは、ひとえに、もう二人にされているからだ。玲音だけ拒否するのは、何かこう、よくない気がした。いや、そういう意味であれば、最初に一輝先輩にキスされたのが悪かったんだろうけれども。
「さて、これで僕らは――つまり、僕と一輝と薫は、同じラインに立った。実際には一輝が先頭を走り、薫が続き、僕が後塵を拝することになっているから、悔しい思いもあるけれど、ゴールはまだはるか遠くにあるようだし……、君の叔母さんという難関も控えていることだし、概ね誤差と言っていいだろう」
玲音は朗々と話す。恥ずかしさを紛らわせたいのと、そして、僕をその気にさせたいからだろう。
「とにもかくにも、僕らは走り出した。姫宮君、君はどうする? 走るか、走らないかはもちろん君の自由だけれど」
「……ずるいよ、三人とも。僕は、みんなとは違うのにさ」
「それはそうだよ。人間、百人いたら百通りだ。でも、緊張しない人はいないし、恥ずかしがらない人もいない。ただ受け入れて、進むか進まないか、だ」
一息置いて、彼女は言った。
「僕は、それを為す原動力を、好意や、勇気や、好奇心や、負けん気や……、あるいは意地汚さや、諦めの悪さなのだと思っている」
「……玲音は、どれなの?」
彼女は微笑んだ。
「もう知っているだろう? 僕は欲しがりなんだ。女の子にちやほやされたいし、ドカ盛りの料理を食べたいし……、意中の男子の心を手に入れたい」
囁くように、悪戯っぽく言う。
「諦めないよ、姫宮君。なあに、たった一回フラれただけだ。君は底抜けに優しい上に押しが弱いタイプだから、『気まずいから家に来ないでくれ』なんて、とても言えないだろうし」
「褒めてるのか貶してるのか微妙なラインだね……?」
「んふふ。褒めているけれど、僕以外には警戒心を持ってほしいな。そのガードの緩さのせいで、一輝や薫に先を越されまくりだから」
「善処します。……いや玲音に対しても警戒心持つけどね? この流れなら」
「それは残念」
玲音は立ち上がり、すり鉢を流しに持っていった。
僕はつい、聞いてしまう。
「なんで夜にしなかったの? その、これからの時間……」
「気持ちが溢れてしまってね。つい。ただまあ、今から数時間、姫宮君の可愛い困り顔を堪能できるのは、思わぬ役得だ」
「玲音だって、まだ顔真っ赤なくせに」
「んふふ。堪能していいよ?」
玲音はソファに戻り、また『四畳半神話大系』を手にした。
なんというか……、爽やかなやつである。今し方、結構あとを引く話をしたはずなのに、ぜんぜんそんな気がしない。
僕は溜息を吐いて、それからちょっと笑った。
玲音に対して――いや、誰に対しても、袖にして悪いだなんて思うのは、失礼なのだとようやく分かった。
それから、緊張しても、恥ずかしがっても、そのまま進んでいいんだということも。
よろしければ、
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