第47話 王子様系女子な同級生の宣戦布告(3)
玲音はゆったりとソファに座り、本を読み始めた。
今日は森見登美彦の『四畳半神話大系』だ。
「……玲音、本当にいつも通りでいいの?」
「いつも通りがいいんじゃないか。だって、僕にとっては、君といる時間全てが特別だからね」
「歯の浮くようなセリフだ……」
「本心だよ? 二人きりは久々だし。んふふ」
嬉しそうに笑う。
……心が痛い。だって、彼女は僕が好きで、なのに、僕は――。
「……ラーメン、作るよ。いつも通り待ってて」
「了解。楽しみにしているよ」
ひらひらと手を振る玲音から視線を外して、僕はキッチンカウンターに戻る。
定位置で調理を始めると、次第に無心になってくる。
今回作る家系ラーメンは、前に作ったG系ラーメンに比べると少し複雑だ。
まず豚骨、鶏ガラのダブルスープで、それ以外にも干し椎茸や昆布が入る。加熱時間がそれぞれ違うから、具材の投入タイミングをタイマーで管理しながら作った。チャーシューも一緒に煮込んである。
昨日から仕込み始め、朝から煮込んでいたんだけど、大変だった……。
醤油だれは醤油、みりん、酒の基本的なタレに、ニンニクやショウガ、煮干しを加えたもの。トッピングはほうれん草と海苔。これは両方もらい物。
家系ラーメンの大事な要素、鶏油は冷凍の鶏皮から取った。勿体なくて、捨てずに置いてあったものだ。今回はレンジを使ってみた。鶏皮を温めると油が染み出してくるので、鶏皮から油脂分と水分が抜け、また自身の油の中で加熱されることでカリカリになるまで、様子を見ながらレンジで温め続けるのである。
このやり方は楽でいいな。
残ったカリカリの鶏皮は……、ご飯に乗せて食べよ。
麺は市販の平打ち麺。これは通販で買った。インターネット万歳。
用意した物を確認していると、折良く炊飯器がピー、ピーと鳴った。白米が炊けたのだ。家系ラーメンは、ラーメンとライスの組み合わせが大事なのだという。
準備は万端。
いつの間にか……、いや、いつも通り、カウンターに寄ってきていた玲音に、僕は声をかける。
「玲音、お好みは?」
「固め、濃いめ、多め!」
「了解」
麺固め、味濃いめ、鶏油多めがいいらしい。
巨大なすり鉢にタレと鶏油を栄養士が怒りそうなくらい入れ、スープを注ぎ、固めに茹でた麺を入れて軽くほぐす。今回は四玉。玲音ならぺろりだろう。
薄く切った丸いチャーシューを六枚並べて、ほうれん草をどさっと乗せ、端っこに海苔を五枚挿せば、巨大な家系ラーメンの完成である。
「お待たせ、玲音。召し上がれ」
「んっふっふ、いただきまーす!」
嬉しそうな顔で両手を合わせ、玲音はすり鉢に躍りかかった。
「うーん、うまい! 姫宮君、ライスも大盛りで!」
「はいはい」
玲音用の大きな茶碗にご飯をよそってあげる。彼女はスープに浸した海苔をライスに乗せ、巻いて食べた。僕もあとで真似しよう。
もちろん、僕の分は並盛りである。一口啜り、ほっとする。
うん、スープは美味しい。でも、欲を言えば、もうちょっと旨味がほしい。粘度ももう少し上げたい。
チャーシューは柔らかくてジューシー、ほうれん草も臭みがなく、ちょうどいい箸休めになる。海苔は……これがまた美味い。スープと鶏油を吸った海苔と白米の組み合わせは、まさに悪魔的だ。
夢中で食べ終わって、僕と玲音は同時に、ふう、と息を吐いた。……なぜ同時に食べ終わるんだろうね。あれだけ量の差があるのに。
「美味しかった……。ああ、そうだ。姫宮君」
玲音が、隣に座る僕を見て、軽い調子で口を開いた。
「なに? お代わり?」
「好きだ。僕と付き合ってほしい」
さらりと。
そんなことを言った。
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