第46話 王子様系女子な同級生の宣戦布告(2)
ホームルームが終わり、一時間目の数学が終わって、最初の休み時間。
たった十分しかない貴重な休み時間なのに、話題はひとつしかなかった。
当然、朝の出来事について、である。
「玲音ー、あの先輩なんだったの?」
「一輝先輩のこと呼び捨てだったよね!? なんで!?」
「好きな人、同学年の男子ってこと!? やっぱりそうなんだ……!」
玲音の机の周りは人だかりでいっぱい。よく見ると、他のクラスの女子までいる。相変わらずの人気っぷりだ。
「ふふ、校門で話しかけられてね。待ち伏せされていたらしい。一輝とは個人的に知り合って、友達になったんだ。好きな人のことは秘密」
きゃああ、という悲鳴じみた黄色い歓声が上がる。
そこからまたしても質問攻めが始まるけれど、玲音は難なく捌いていく。僕は口を固く引き締めて机に突っ伏した。もうアキネイターかよとか言わないように。
……ふうん、玲音の好きな人は、二年の男子で、玲音より背が低くて、料理が上手なんだ。こうなってはもう、僕の自意識過剰……じゃあ、ないよなぁ……。
女子連中はどんどん真実に迫っていくけれど、さりとて休憩時間は十分。
「次の授業が始まるよ。続きはまたあとで」
と、玲音が言う。
みんなが渋々、それぞれの椅子に戻って、次の授業の準備を始めた。聞き耳を立てていた男子連中も、思い出したように一斉に机を漁り出す。
僕も同じように教科書を取り出していると、隣の席に戻ってきた田中さんが、唐突に僕の方を向いた。
「玲音に告白しないの? 姫宮君は」
「えっ、ぼぼっ、僕っ? 僕は――」
しどろもどろになりつつ、とっさに出てきた言葉は、我ながら素直なものだった。
「――れ、ええと、あっと、白鷺さんには、しない、よ」
「そうなの。へえ。白鷺さんには、ねぇ」
田中さんは、くいっと眼鏡のつるを押し上げた。
「ダチョウの方がまだマシね」
物凄い罵倒だ。一周回って感動するね。
というか、なんで僕にそんな質問したの……?
●
さて、週末――日曜日。
玲音が僕を貸し切りにして、ドカ盛りの料理を食べる日である。
今週は三人とも放課後に色々予定があったらしく、先週の土曜日に薫とデート的なことをしてから、一度も古民家に集まっていなかった。
もちろん学校でも話さないし――メッセージアプリは頻繁に動くけど――なんだか新鮮な気分である。
気まずい気持ちがありつつも、僕は鍋で豚骨を煮込んでいた。
玲音のお願いは、シンプルなものだった。
「いつも通りでいいよ。それが二食。昼食と夕食がいいかな」
それだけ。
だから、お昼はラーメンを出すことにした。
豚骨と鶏ガラから取った出汁を使い、たっぷり鶏油を浮かべてほうれん草を乗せた、いわゆる家系ラーメン。
……以前、G系ラーメンを作ったことを父と母に伝えたところ、えらく羨ましがられてしまい――「都会の食べ物じゃないか、いいなぁ」「この辺、普通のラーメン屋もないしねぇ」――次に帰省したら作ってほしいと頼まれたのだ。
で、それまで修行しろ、と言わんばかりに、お裾分けのお裾分けに豚骨や丸鶏が忍ばされるようになった。
消費が大変なんだけど……。
昼前ごろに、のんびりと玲音がやってきた。
玄関で出迎える。日曜日なのに、なんと制服である。しかもスラックスだ。
「や、姫宮君。今日もよろしくね」
「え、スラックスは珍しいね。なんで……?」
「今日は学校で周辺清掃のボランティアがあってね」
そういえば、ボランティア参加希望の話をホームルームでされたような気がする。全然憶えてなかったけれども。
でも、そうか。ゴミ拾いをするならスカートよりパンツルックの方がいいよな。
「真面目だね、玲音は」
「王子様たるもの、行動もイケメンでなければね! ……と、言いたいところだけれど、打算込みだよ。内申書に書いてもらえるんだ」
才色兼備で文武両道な玲音なら、そんなことしなくても、どの大学にだって行けると思うんだけど……。
僕のそんな考えを察したのか、玲音は靴を脱ぎながら苦笑した。
「甘いよ、姫宮君。僕は大抵のことは他人より上手にできるけれど、それでも、負けるときは負ける。特に相手がひとつのことに秀でた人間なら、勝率が悪いくらいだよ。薫に短距離走で負けたみたいにね」
リビングに入って、ベストをハンガーにかける。
「バスケ部の助っ人なんかだと、よりわかりやすい。他校、特に強豪校のエース相手じゃ、手も足も出ない。僕が助っ人に行っても、せいぜい地区予選突破が関の山なのさ」
「十分凄いと思うんだけど……?」
「そう言ってもらえると光栄だけれど、結局は器用貧乏の発展形に過ぎないからね。できる努力は全部しておいたほうが、後々、自分の助けになるだろう?」
その考え方がいちばん凄い。隙あらば楽しようとする僕からすれば。
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