第45話 王子様系女子な同級生の宣戦布告(1)
週明け。
僕は悶々とした気分で学校に向かっていた。
一輝先輩は僕のことが好き。
薫も僕のことが好き。
玲音も、たぶん……。
そして僕は、叔母のことが未だに好き。
問題は、僕はどうするべきなのか――、って。
踏切で立ち止まって、一瞬、冷静になる。
悩みごとが贅沢すぎない?
学校でもトップクラスの美女、誰もが認める王子様系女子三人から好意を向けられているなんて。頭の悪い妄想みたいだ。
かんかん、かんかん、と踏切が鳴る。風を吹き散らしながら電車が通り過ぎる。踏切が上がる。僕は重たい足を引きずるみたいにして、学校へ向かう。
歩いて十五分の道のりが、やけに遠く感じた。
学校に辿り着くと、校門に人だかりがあると気づく。
円の中心には、二人の生徒がいる。
どきっとする。一人は玲音だ。いつもの澄ました微笑だけれど……、僕にはわかる。ちょっとイライラしているときの顔だ。
もうひとりは、顔に見覚えがないけど、徽章の色からして三年生。緩くウェーブした髪がオシャレな男子生徒だ。すらりと背も高い。端的に言って、イケメン。
周囲にはたくさんの生徒たち。どうしたんだろう。いや、もしかして……。
人だかりにそっと近づいて、耳を澄ます。
「――俺じゃダメ?」
「ごめんなさい」
いきなりそんな遣り取りが聞こえた。
「自分で言うのもなんだけど、けっこうお似合いだと思う――」
「ごめんなさい」
玲音は笑顔で、けれどそっけなく、そう繰り返した。
確信する。告白した男子の先輩が、フラれているのだ。
「えっと……俺のことは、知ってるよね?」
「男バスのキャプテンの吉田さんですよね。知っています。ごめんなさい」
「吉田じゃなくて吉武ね。……去年の文化祭のミスコンで一位獲ったのは?」
「知りませんでした。ごめんなさい」
観衆が、ひそひそとさざめく。脈がなさすぎるし――、諦めが悪すぎる。
ミスターコンテストで一位か。つまり、この学校でいちばんのイケメンってことだ。……いや、正確には男子の中でいちばんのイケメン。女子も含めたら四位以下になるのだろうな。うん。
吉武先輩は、頬を引き攣らせながら、なおも食い下がる。
「いま、付き合ってる人がいるのかな? それだったら、まあ諦めるけどさ」
「いません。ごめんなさい」
玲音はわざわざいないと言ってから、またフった。
「じゃあ、お試しとかでさ」
「でも、好きな人はいます。ごめんなさい」
おおおお……、と観衆がどよめく。
吉武先輩は眉をひそめた。
「俺と比べて、そいつはどうなの? けっこうイケてる方だと思うんだけど」
「こういうのは、比較ではないと思いますが。僕からすれば、誰よりも魅力的な人です。ごめんなさい」
「それ、誰? この学校の人?」
「そうです。ごめんなさい」
「……女子? 暁か?」
「違います。ごめんなさい」
「チッ、じゃあ男子かよ。三年生?」
「違います。ごめんなさい」
「二年生?」
「そうです。ごめんなさい」
僕はたまりかねて、
「いやアキネイターじゃないんだから」
と、突っ込んだ。
……それから、はっとする。
観衆の視線が、そして中央の二人の視線が、僕に向いている。
しまった……! ついクセで突っ込んじゃった!
ややあって、玲音が「んふっ」と笑った。釣られて観衆がクスクス笑い出す。
「たしかにアキネイターみたい」「にしても諦め悪すぎるでしょ」「一回、暁一輝先輩じゃないか確かめたのダサかったよねー」「アレだれ?」「二年の姫宮くんでしょ、ほら、お姫様抱っこの」
そんな声が漏れ聞こえてくる。
ちょっと待って、もしかして僕、お姫様抱っこで認知されてる……?
吉武先輩が顔を真っ赤にして、こっちを睨み付けてくる。こわい、と思って一歩下がると、誰かにトンとぶつかった。
「玲音」
その誰かは、秋の夜空みたいにしっとりとした声で、玲音の名前を呼んだ。
観衆の外側、僕の背後からだ。振り返って見上げると、美しすぎる顔があった。しかもちょっと怒り気味の。
一輝先輩だ。
そっと僕の肩を抱いて脇に避け、観衆を割って円の内側に入っていく。
「そいつは気にしなくていい」
「一輝の友達?」
「同学年の吉田だ。半年前に告白された。フったが」
「そうなんだ。ふぅん」
吉武先輩は、苦々しい顔で舌打ちをした。
「もういい」
踵を返して、駅の方向に早足で去って行く。名前の間違いを指摘することもなく。……こんな流れじゃ、授業に出づらいよな、そりゃ。
玲音がにこりと笑って、手を叩いた。
「みんな、お騒がせして申し訳ない! ホームルームに遅れるよ! 急ごう!」
生徒たちが腕時計やスマホの画面を確認し、慌てて校門に駆け込みはじめる。
僕も、人混みに流されるようにして、教室へ向かった。
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