第43話 俺っ子で小悪魔な王子様系後輩と映えデート(6)
食べ終わって、すぐに解散――、というのはさすがに薄情すぎる。
仮にもデート……的なものなわけだし。
せっかく来たから、と僕らは自然公園の遊歩道を散歩することにした。
「いい天気っすねー」
薫は上機嫌に歩いている。すれ違う人々が、みんな、薫を二度見する。そうだよな、地雷系ファッションの美少女だもんな。しかも、満面の笑顔だし。
大輪のひまわりみたいに笑うから、誰もその輝きに目を奪われてしまう。
「腹ごなしに一周歩いたら、解散しましょうか。もちろん、姫先輩がもっと遊びたいなら、いくらでも付き合いますけど」
「僕は……どっちでも。薫次第かな」
「むう。そう言ったら、俺がルール守るって分かってるくせに」
苦笑する。その通りだ。
薫は、ちょっとずるいところもあるけれど、素直で優しい子だから。自分で決めたルールを破ったりはしない。
当たり障りのない話をしながら、ゆっくりと遊歩道を進む。
――そういえば包丁は買ったの? 家に三徳一本あるならひとまず必要ないよ。うん、薄口醤油のほうが塩分濃いんだってね。せいろ蒸し、可愛いよね。ヘルシーだし。いいよ、うちに余ってるのでよければ。うーん、麻辣湯のレシピは知らないなぁ。流行ってるし、今度作ってみよっか。
とか。
そんな風に、僕と薫の話題は、自然と料理ばかりになる。
ふと、額に何かが当たった。冷たいものが、ぽつりと。続けて、頬にも当たる。
雨だ。慌てて空を見上げる。太陽が出ていて、雲はほとんどないのに。
「狐の嫁入りっすね。すぐ止みますよ。……あ」
薫が困った顔で、頭の上に両手で傘を作った。
「今日、しっかりメイクなんでした。どっか木の陰とかに……」
「大丈夫、僕、傘持ってるし」
折りたたみ傘は常備してある。
トートバッグから取り出したそれを広げて、薫に手渡そうとしたけれど、それよりも早く、
「えいっ」
と、彼女は僕の差す傘の下に入って、左腕に両手を絡ませてきた。
僕は硬直してしまう。また香水の香りがした。
「まさか、傘の下から追い出したりはしないっすよね?」
にひひ、と、いつも通りに笑う。いつもと違うのは、笑うたびに揺れるツインテールで――。
「――あのさ。中学生の時、ツインテールだった?」
「お。わ。……あはは」
薫が口をまん丸にして、それから恥ずかしそうに、はにかむ。
「……思い出しました?」
「うん。傘、あげたよね。コンビニのビニール傘」
「まだ持ってますよ、あれ。返そうと思って」
「気にしなくていいのに」
「じゃあ、大事にします」
むずがゆい。
ぱたぱた、と傘にリズミカルに雨粒が降る。
「……薫の家、こっちのほうだよね。なんで県南部の中学にいたの?」
「当時は、県南部のパパの家に一緒に住んでて。でも、いろいろあってママとパパが離婚して、俺はママとこっちに来ました」
「ごめん、変なこと聞いて」
「いいんです。……その、家庭環境がいちばん荒れてたときに、傘を貸してくれたのが姫先輩なんですよ。もう、自分のこととかどうでもよくて。傘もないし、濡れていようって、校舎の前でぼうっとしてたら……」
薫が、ガラス細工の花びらみたいに、儚く微笑んだ。
「そんなことされたら、誰だって好きになりますよ。必死に勉強して、偏差値を十も上げて、同じ高校に来ました」
薫の憧れの人は、僕だ。玲音でも、一輝先輩でもなく。
最初から、僕を目がけて、まっすぐ走ってきたのだ。
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