第42話 俺っ子で小悪魔な王子様系後輩と映えデート(5)
寿司とは言っても、お弁当なので生魚は使っていない。
保冷剤があるとはいえ、外に持っていくお弁当に生魚を入れるのは、ちょっと不安だったからね。
なので、具材は黄色い錦糸卵、白い酢れんこん、ピンクの桜でんぶ、茶色い肉そぼろ。お重に敷き詰めた酢飯の上に、それらをきっちり正方形で区切ったモザイク柄になるよう盛り付けて、彩りのサヤエンドウを斜めに切って散らした。
ただそれだけの、簡単な映え弁当である。
「それではさっそく……」
薫が割り箸に手を伸ばす。待て待て。
「薫、写真は?」
「そうでした!」
パシャパシャとスマホのカメラで撮影し始める。
これを直接SNSにアップするわけではないけれど、写真があると作るときに参考にできるからね。もっとも、僕よりも料理上手な人たちの写真付きレシピが、ネット上にはごまんとある。
それでも薫が僕に指導を頼むのは、会って直接指導できるから。……でも、それだけじゃないんだろうなと、今なら思う。
写真を撮り終えて、今度こそ、薫は割り箸を手にとった。
「それじゃ、改めまして……いただきます!」
「うん、召し上がれ」
僕も自分の弁当に手を付ける。
味は……まあ、普通。特に凝ったものではないし。普通に美味しい、ただのちらし寿司だ。でも、見た目が華やかなのは嬉しいし、ブロックごとに盛り付けてあるから具材それぞれの味を感じられる。
薫が満面の笑みを浮かべた。
「美味しいっす! これ、錦糸卵めっちゃ綺麗ですけど、どうやって焼いたんですか?」
「ううん、焼いてない。レンジで作った。今回は、焼き目が付くと見栄えがブレるかなと思って。よく溶いてザルでこした卵液を、ラップを敷いた平らなお皿に流してチンするんだよ。ラップから外して細切りにしたら出来上がり」
「なるほど……。この酸っぱいれんこんは?」
「それは薄切りしたれんこんを塩茹でして甘酢に漬けただけ。桜でんぶはスーパーで買ってきたやつ。肉そぼろは、牛ひき肉を炒めてから醤油、酒、みりん、砂糖、おろし生姜で味付けしてみた」
「どれも美味いっす! さすが姫先輩です!」
薫は口いっぱいにちらし寿司を頬張りながら、こてんと首を傾げた。
「でも、よく考えたら桜でんぶって何なんですかね。原材料が桜の花びらなのはわかりますけど」
「じゃあわかってないね。原材料はお魚だよ。鯛とか鱈とか」
「あー、なるほど。鯛ってピンク色ですもんね」
「うーん、それも違うんだけど……」
ピンク色なのは着色料です。
茹でた魚の身をほぐし、味と色を付けながら炒めて水分を飛ばし、さらにほぐすと桜でんぶになる……はず。僕も加工の過程にはあまり詳しくない。
薫はあっという間にお重を空にした。玲音ほどじゃないけれど、薫もよく食べる。さすがは運動部といったところ。
水筒に入れてきた熱いお茶を手渡す。……ついでに、トートバッグから小さいお弁当箱を取り出す。
「あとまあ、これは映えじゃないけど。ミニ唐揚げ弁当も持ってきたよ」
「えっ」
薫がお茶を飲みながら、目を丸くした。
「……もしかして、俺の好みにあわせて、ですか? 唐揚げ、揚げてきたんですか? 朝から。うわ、そんな大変なことしなくても……!」
「だって薫、肉そぼろとか酢れんこんじゃ満足できないでしょ。それに、実はこれ、揚げてから冷凍しておいたやつだから。解凍した唐揚げをご飯の上に載せるだけの、本当に手抜きのやつだよ」
空のお重を回収し、ミニ唐揚げ弁当を薫の膝に乗せる。
「食べないなら、僕が食べちゃうけど」
「食べるっす! ありがとうございます! いただきます!」
ニコニコ笑顔で、薫は唐揚げを頬張った。
……地雷系美少女と唐揚げ弁当の組み合わせって、けっこうシュールだな。
よろしければ、
・ブクマ
・感想
・下の☆☆☆☆☆で評価
・著者フォロー
・レビュー
・Xで読了ツイート
等々をしていただけると励みになります!




