第41話 俺っ子で小悪魔な王子様系後輩と映えデート(4)
駅前の交差点を渡る。
……隣に美少女がいるからか、自分の格好がやけに気になる。
いつも着ているシャツとチノパンも、普段使いの大きなトートバッグも、なんだかとてつもなくダサく感じる。薫は誰もが放っておかないくらいの美少女なのに、隣がこれじゃ……、あ。
「薫。その格好、ナンパとか大丈夫だった……?」
「声はかけられましたけど、『彼氏いるんで』って言って追い払いましたよ。……あ、ピンチっぽく演出して、姫先輩にかっこよく助けてもらえばよかったですね」
残念そうな顔をするけれど、それは僕には荷が重いかな……。
もちろん、困っていたら助けに入りたいとは思うけれど、かっこよくは無理。
「姫先輩は大丈夫でしたか? ナンパは」
「されるわけないでしょ、僕が」
「えー、されますよ。俺だったらほっとかないっす。何なら今からナンパするっすよ、姫先輩を」
また適当なこと言って……。
ん、ん、と薫は喉を整えて、低い声を出した。
「お兄さん、かわいいね。一緒に飲みに行かない?」
「僕も薫もお酒を飲めない年齢なのに何を飲むの……? マックフルーリー?」
「じゃあザンギのシースルーでもどう? おじさん、おごっちゃうよ?」
「ザギンでシースーだよ。……いやザギンでシースーだとしても古いよ」
ザンギは北海道の唐揚げで、シースルーは透けてるやつでしょうに。
……つまりスケスケの唐揚げ? 本当に適当なことを言ってやがるなコイツ。
「どうっすか、恋に落ちますか」
「落ちるわけないじゃん、今ので……」
薫は唇を尖らせた。
「むう。姫先輩はガードが堅いっすね」
「薫が口説くの下手なだけだと思う……」
くすくすと笑って、薫は「あ、そういえば」と、ぱっと顔を上げた。
「朝、ママから伝言もらってたんでした。『いつも薫の面倒を見てくださって、ありがとうございます。薫に教えていただいた料理、どれも大変美味しいです。今後とも仲良くしてやってください』ですって」
「それはよかった。うん、僕も嬉しい」
薫はめきめき料理の腕を上げている。
包丁の扱いはまだまだゆっくりだけれど、それは安全を重んじているからこそ。レシピを見ながら家庭料理を作るだけなら、もう大抵は大丈夫なんじゃなかろうか。オリジナリティを追加したりしないタイプだし。唐揚げは乗せるけど。
「あと『学生のうちはちゃんと避妊してくださいね』とも」
僕は噴き出した。な、何言ってんの!?
「それから『もう責任取ってもらってやってくださいね』とも言ってたっす」
「ちょ、ちょっと待って!?」
「あー、『卒業したらすぐ籍を入れてください』とかもー、言ってたっすねぇー」
横を向くと、薫がにまにま悪戯っぽく笑っている。
僕はからかわれていたと気づく。む。
「……今の、どこからが薫のねつ造?」
「最初のは本当です。あとは……どうだと思います?」
あとのは全部ねつ造でしょ。……ねつ造だよね?
そんな話をしながら僕らは交差点を渡りきり、広い公園に辿り着く。
再開発の折、街中に自然を作りたいという理由で作られた自然公園だそうだ。再開発とは言っても、僕が生まれる前の再開発で……、つまり、そんなに新しくはない公園。昔は遊具もあったらしいけれど、撤去されて、今は何もない。
ただ、木々が植わり、広い芝生があるだけの公園だ。
そこかしこで子供たちが走り回っている。レジャーシートを広げた若い夫婦もいる。変わったところだとテーブルを広げた大学生らしき集団が、酒を片手に麻雀で盛り上がっていたりもする。
公園の端っこに、ちょうどいい木陰のベンチがあった。ここにしよう。
薫と並んで座り、バッグから布で包んだ一段重を取り出す。
「でも、薫。本当にお弁当でよかったの? うちなら、もっと色々作れたのに」
「いいんです! 姫先輩とピクニックで映え弁当を食べたかったんですから」
膝の上で、一段重の包みを広げ、蓋を開ける。薫が横から顔を近づけて、お重を覗き込んだ。……あ、今日は香水もつけているんだな、と気づく。
「わあ……! 綺麗です!」
薫が感嘆の声を上げた。
うん、そう言ってもらえて何より。
お重の中に詰め込んできたのは、モザイク柄のちらし寿司。
映える寿司弁当である。
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