第40話 俺っ子で小悪魔な王子様系後輩と映えデート(3)
土曜日、お昼前。
僕は電車に乗って、少し大きい駅に向かっていた。車窓の向こう側で、近所では見ない高さのビルや、巨大な広告が、次々に流れていく。
僕の住む古民家のある一帯が町なら、このあたりは街だ。
駅に着く。
百貨店と繋がった広い駅で、いわゆるターミナル駅というやつ。
人混みに揉まれながら改札を出て、駅前広場の時計台の下に向かう。
『着いたよ』
薫にそうメッセージを入れておく。約束の時間まであと十五分ほどあるから、気長に待とう……、と思っていたら、スマホがすぐに震えた。
『俺も着きました!』
手短なメッセージと共に、ハートまみれの猫のスタンプ。
もう着いているのか。そうなのか。顔を上げて周囲を見回す。
私服は一度見たことがあった。Tシャツとショート丈のサロペットパンツ。
あの日と同じ服を着ているかどうかはわからないけれど、薫は健康的できらきらした“王子様”だから、見逃すことはまずない。
……なのに、見つからない。
『本当にいる?』
『いますよ! 探してみてください。変装してますんで』
また猫のスタンプ。ふむ。
もう一度、ぐるりと見回す。やっぱり、薫はいない。
でも、ばっちりと目の合う相手がいた。時計台の下、僕から三メートルほど離れたところに立っている美少女だ。
その美少女は、口元は黒いマスクで見えないけれど、目を弓の形にして、にやにやと笑っている。
フリルの付いたピンクのブラウスに、黒い編み上げのリボンスカート。首元にはハートの装飾が光るチョーカー。靴は厚底のパンプス。
髪型は赤いメッシュの混じったツインテール。まぶたではラメが輝く。黒いマスクと合わせて、いかにもスタンダードな地雷系ファッションだ。
視線を合わせて、凝視してしまう。別人だったらどうしよう――、という不安は、二秒で消えた。この瞳は、だって、薫しかない。
……え、本当に?
恐る恐る近づいて、
「薫……だよね?」
と、確認してみる。
地雷系美少女はマスクを指でずり下げて、ぷるぷるの唇でにんまりと笑った。
「正解です! えへへ、姫先輩なら気づいてくれると思ってたっす」
……。絶句する僕をよそに、薫は得意げな顔で言葉を続ける。
「ふっふっふ。玲音先輩や一輝先輩は背が高くてスタイルもいいっすからね。どんな服でも注目されるっす。でも、俺はさほど背が高くないから、地雷系コーデでもあんまり注目されないんですよ。賢いでしょ。えっへん!」
「いや、もう普通に美少女過ぎて注目されてるよ……」
言ってから、ちょっと後悔。
薫が見るからに「ははーん」という表情になったからだ。
「俺、美少女ですか? 美少女なんですね?」
「……まあ、うん。客観的に見て、そう評価するしかないんじゃないかと思うよ。世間一般の趣味嗜好に照らし合わせれば、間違いなく美少女の範疇に入っているだろうね。アンケートをとったわけじゃないけども」
「客観的とか世間一般とかじゃなくて、姫先輩がどう思っているのかを聞きたいんですけど?」
薫が唇を尖らせて見上げてくる。
至近距離から、じー……、と。
「じー……」
「擬音を自分で言うなよ……」
「返事があるまで凝視するっすよ。じー……」
この後輩は、まったく……。
僕は顔を逸らした。はずい。頬が熱い。
「……可愛いよ。よく似合ってる」
「やたー!」
薫が小さく跳ねてガッツポーズする。
ファッションは地雷系でも、振る舞いは完全にいつもの薫だ。ちょっと安心。
安心したからか、心の余裕も生まれてくる。
「にしても、すごい変装だね。髪が長いのと赤いのは、ウィッグ?」
「いや、エクステっす。今朝、ママにやってもらいました。……行きましょっか」
薫が、ちょっとそわそわしながら言う。
そうだった。ここは目的地ではなく、待ち合わせ場所。
これから、僕らはその、いわゆるデート的なことをするのである。
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