第39話 俺っ子で小悪魔な王子様系後輩と映えデート(2)
ふわとろの親子丼を食べた後、薫と並んで食器を洗っていると、
「あ、そうだ。お出かけしましょう、姫先輩!」
薫がそんなことを言った。急に何……?
ソファでコーヒーを飲んでいた玲音が、しゅぱっと立ち上がる。
「逸脱! 逸脱行為だよ! ペナルティ!」
「うーん、そう言われるとそうなんですけど」
薫がスポンジを持った手の指で頬を掻いた。泡、ついてるよ。
「よく考えたんですけど、俺、別に映え写真のこと隠さなきゃいけないわけじゃないですし、姫先輩と古民家の外で遊べるんですよね」
「なんだい、そんなことでマウントをとったつもりかい」
玲音が胸を張った。
「僕だって、遊ぼうと思えば遊べるよ!」
「玲音、それ、ファンに見つかったら僕が八つ裂きにされるやつだよね」
一輝先輩も胸を張った。
「私も違約金を覚悟すれば遊べるぞ!」
「一輝先輩、それは本当にやめてください」
一輝先輩が大変なことになるし、僕もたぶん叔母に真っ二つにされる。
「というか、薫だってファンがたくさんいるでしょ。敵に回したくないんだけど」
「うーん……。俺、玲音先輩や一輝先輩みたいなファン、いないっすよ?」
「あ、そうなの?」
体育祭でいっぱいファンができたと思うんだけど。
「ぜんぜんいないっすよ。でも『薫君に悪い虫がつかないように守ってあげなきゃ!』みたいなこと言う女子はいっぱいいます」
それはただのファンより厄介なんじゃなかろうか。
……いや厄介とか言うと失礼だけれども!
一輝先輩がキッチンカウンターに頬杖を突いて、薫をスンッとした表情で見つめた。
「しかしだ、薫。そもそも、姫ちゃんの貸し切りは、勝者の特権だったはず。勝手にやられては困る」
「そうだそうだ!」
相変わらず僕の自由意志がない。あと一輝先輩の背後で便乗している玲音、子分みたいだけど、その立ち位置でいいのか……?
しかし、そこはさすがの薫。にやりと笑った。
「体育祭は頑張ったみんなが一等賞っすよ! だから平等に一回ずつにしませんか? そしたら、玲音先輩も一日貸し切りできますし」
「――そうだそうだ!」
玲音が持ち前の瞬発力で、キッチンカウンターの向こう側から回ってきて、薫の背後に立った。子分どころか裏切っちゃったよ。
どうするんだろう、と思って一輝先輩を見ると、額にしわを寄せている。
「しかし、それでは勝者の特権がだな」
「それじゃ、どうでしょう。例えば、三位が一日、二位が二日、一位が三日、姫先輩を貸し切れる、みたいなのは。これなら一輝先輩はあと二日貸し切れますよ」
「それはいいな! そうしよう!」
「あの、なんか物凄い勢いで、僕の休日をあと五日も消費しようとしてないですか……? いえ、嫌なわけじゃないんですけど、さすがに……」
さすがに口を挟む。僕だって休日には予定が――あんまりないけど、でも、漫画を読みながら、だらだらしたい日もある。
薫が「うーん、それだったら」とまた頬を掻く。
「一輝先輩はスイーツを三食、作ってもらったんすよね?」
「そうだが」
「じゃ、二位の玲音先輩が二食、三位の俺が一食、ってのはどうでしょう。これなら、休日を使うとしても二日で済みますし。どうっすか、姫先輩!」
あー。まあ、それなら……。
「二日なら、別にいいけど」
「それじゃ、次の土曜日はどうっすか? 俺は部活休みなんですけど」
「僕は空いてるけど」
「玲音先輩は?」
玲音は口を三角形にした。
「……空いていない。家族で祖父母の家に行く予定だ」
「じゃ、俺がお先に失礼しますね! 姫先輩、よろしくお願いします!」
「あ、うん。わかった。……あれ? 結局、休みを消費しているような……」
一輝先輩がしたり顔で頷いた。
「ドア・イン・ザ・フェイスだな。最初に大きな要求をして断られてから小さい要求をすると通りやすい、という。薫は策士だな」
「ははあ。薫、そういうの上手だよね」
「え、たまたまっすよ。狙ってないです。……でも姫先輩、約束はしたっすからね? 次の土曜っすよ? わかったって言いましたよね?」
ぐいぐいと上目遣いで近寄ってくる。
ええいもう。
「男に二言はないよ、何でも作ってあげるよ。何が食べたいの?」
「映え弁当! それでピクニックしましょう!」
「いや、だから外は……」
薫はにひひと笑った。
「大丈夫っすよ。要は、俺が藤堂薫だってバレなきゃいいんですよね?」
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