第38話 俺っ子で小悪魔な王子様系後輩と映えデート(1)
六月初頭。
放課後、僕らはいつも通り古民家に集まっていた。
今日のメニューは親子丼。どんぶりに白米をよそっていると、ソファに座っていた玲音が『本陣殺人事件』を片手に眉をひそめた。
「姫宮君、一輝と何かあったのかい? なんだか態度が妙だけれど」
「そ、そうかな。そんなことないと思うけど」
一輝先輩は『ゼロの使い魔』から顔を上げることなく、
「私からは何も言わないぞ。あの日のことは、二人だけの秘密だからな」
と言った。
ちょ、ちょっと、なんてこと言うんですかあなた。
玲音が持ち前の俊敏さでキッチンカウンターにやってきて、僕にじっとりとした視線を投げかけてくる。
「何かあったね、姫宮君。話したまえよ」
「ないって、うん。ないない……」
玲音のために、大盛りのご飯をよそい、親子丼の具をこれでもかとかける。とろとろの卵がつやつやと輝いて、実に美味しそうである。
「ほら、玲音。大盛りだよ」
「大盛りで誤魔化されると思うんじゃないよ。嬉しいけれども」
「ほら、大盛り。玲音だよ」
「ぬいでやるやつを僕でやるんじゃない! ……ボケで話を逸らそうとしているね!? こら! 悪い子め!」
僕は悪い子かもしれないけど、玲音は良い子なので、どんぶりと味噌汁椀を載せたトレイを手渡すと、ぶつくさ言いながらローテーブルへと運んでいった。
扱いやすすぎて、なんだかこちらが申し訳なくなる。
……いや、悪いことはしていないんですけどね? 僕はさ。
「あ……、っと。一輝先輩、その、量はどうしましょう、か……?」
「ふふ。普段通り、少なめで頼む。取りに行くよ、運ばなくていい」
「は、はい……」
薫が雑誌『3分クッキング』のバックナンバーから視線を上げた。
……凄いジト目だ。
「なんか、あったっすよね? 何したんですか、姫先輩。正直に、さんハイ」
「いや、掛け声かけられたって言わないよ……」
「へえ。なかったよ、じゃなくて、言わないよ、ですか。言えないようなことしたんですね、ふうん」
しまった。
黙秘していると、薫がすっと右手を挙げた。
「はい。占い師カミングアウトします。人狼は一輝先輩です。吊りましょう」
「賛成だ、薫。というわけで、一輝。覚悟したまえ」
「遅い。姫ちゃんはとっくに人狼の胃袋の中だぞ」
「ほ、ほんとに食べちゃったのかい!? 嘘だよね!?」
「私は食べていない」
僕は黙って親子丼と味噌汁を配膳する。
できれば僕以外の三人に黙ってほしい。
「そも、人狼は私ではない」
「ほう? どういうことかな?」
「詳しく教えてください!」
「うむ。いいか、まず姫宮なのかさんという――」
辛抱たまらず、僕はぱんと両手を打ち合わせた。
「……熱いうちに食べてくれたら嬉しいんですけど」
三人は、はっとした表情で顔を見合わせ、両手を合わせた。
いただきます。
●
僕の叔母、姫宮なのかについては、いろいろな評価がある。
「うちは芸術家の血筋なんだけど、あの子は別よね。でも芸術の才能がないわけじゃなくて、たぶん、表現の仕方が違うのよ」
例えば母は、一回りも年の離れた妹を、こう評した。
「あの子は、お金と人脈を使って、商売という芸術を作るタイプ」
叔母の親である祖父母からは、こう。
「年取ってからの子ほどかわいいというけど、可愛がりすぎたんだろうねぇ。とんでもない阿呆に育っちゃって。まあそこも可愛いんだけどねぇ」
「平和な時代に産めて、よかったなぁ。戦乱の世に放ったら、ろくな生き方もろくな死に方もしなかっただろうからなぁ」
実の子に物凄い物言いである。
もちろん、立場が変われば評価も変わる。父はこうだ。
「お歳暮のセンスがいいんだ」
なるほど。穏やかな父らしい評価である。
では……、僕から見た叔母とは、どんな人物なのか?
これについては非常に単純ながら、しかし、口に出すのははばかられる。大変恥ずかしく、赤面ものの評価だからだ。とはいえ、モノローグでくらい言ってもいいだろう。誰も聞いちゃいないんだし。
叔母、姫宮なのかとは、僕が物心ついた頃、一目見て惚れた初恋の人であり、いま現在においても……うん。
憧れの女性と、そう言うしかない相手である。
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