第34話 王子様系モデルの甘い休日(4)
季節のフルーツタルト。
今日はカットしただけだけれど、正直、これが一番大変だった。
ケーキ屋さんで買ってくればよかったと思うくらいだ。
調理の手順としては、タルト生地を作り、アーモンドクリームを作り、カスタードクリームを作り、タルト生地とアーモンドクリームでタルトを焼き、カスタードクリームを絞り、フルーツを盛り付け、ナパージュをする……、という感じ。
レシピを見た僕が最初に思ったことは「クリーム二つも作るの?」で、次に思ったことは「ナパージュって何?」だ。
ホットケーキミックスにおんぶに抱っこでやってきた僕からすれば、運転していた自転車が急にスポーツカーになったかのような衝撃である。どうやら、ちゃんとした製菓用語が出てきちゃったらしいぞ、と。
ちなみにナパージュとはフルーツの上にかけるゼリーのコーティングのことで、乾燥防止やつや出しの効果がある。
「美しいな。しかも、メロンが山盛りだ。……高いのではないか?」
「いえ、タダです。父さんと母さんが、傷ついて規格外になったメロンを二つもらったらしいんです。そのうち一つが僕のところに来て」
五月が旬のメロン。
まさにちょうどのタイミングだった。メロンをもらわなければ、タルトを焼こうなんて思わなかっただろうし。
一輝先輩は、宝物を触るみたいに、そっと三段目からタルトを一切れお皿に取って、うっとりと眺めた。
ビー玉大に丸くくりぬいたメロンボールがたくさん載った、贅沢なフルーツタルト。苦労しただけに、味が大丈夫か、ドキドキする。
フォークがタルトを一口ぶん切り分けて、一輝先輩の口に運ばれていく。
「ん……」
目を閉じて、味わう。ゆっくりと。
それから、目を開けて、紅茶を一口飲み、僕を見た。
「姫ちゃん」
「な、なんですか? 味、変でした……?」
「ううん、美味しすぎる。毎日、私のためにタルトを作ってくれないか」
「それは面倒かもです……」
「つれないなぁ」
ふふ、と一輝先輩が微笑む。
……美味しかったなら、よかった。ほっと胸を撫で下ろす。
僕もタルトを取って、食べてみた。……おお、美味い……。
「とにかく、メロンがいいですね。旬だけあって、味が濃厚というか。タルト生地はサクサクですけど、もうちょっと焼きが浅くてもよかったかも。アーモンドクリームもカスタードクリームも味はいいですけど、もうちょっと軽い方がメロンと合う気がします。あとナパージュは絶対に分厚すぎですね、もっと薄くかけられたらよかったんですけど」
「自分に厳しいな、姫ちゃんは。そういうところは素晴らしいが、あまり自分を追い込みすぎないほうがいい。今でも超美味しいのだから」
そう言いつつ、タルトにフォークを入れていく。そして、彼女にしてはかなり早いペースでタルトを食べ終わった。……とても悲しそうな顔をしている。
「……ホールで焼いたから、お代わりもありますよ?」
「いただこう。……いや、待て。今後のメニュー次第だな。あまりたくさんは食べられないし。こういうときばかりは、玲音が羨ましい……」
わかる。玲音くらいいっぱい食べられたら幸せだろうな、と思うときがある。
もちろん、体質的な大食いの方には、それ故の苦労があるのだろうけれども。
「次は、いちおう軽めだと思います。スコーンとタルトでお腹いっぱいになるかなと思って」
「ふむ。では、お代わりもいただこう。あと……」
一輝先輩が、二段目に手を伸ばした。
「これはマナー違反だな」
スコーンを手に取り、悪戯っぽく笑う。
逆行しちゃった。マナーとしては、アウトだ。でも。
「いいんですよ、おうちアフタヌーンティーですから。……全部のマナーに則るなら、食べ切るのもマナー違反なんでしたっけ」
「どちらかといえば、食べ切れる程度の量しか用意しないのがマナー違反、という感じだろうか。もてなしの軽食だからな」
食べきれないくらい出すのがマナーというのは、中華料理みたいで面白い。
とはいえ、だ。
「今日は日本のマナーでいきましょう。決して無理せず、でも出されたものは可能な限り食べ切る感じで。あ、ゆっくり食べながら、次の映画も見ますか?」
「姫ちゃんは、もてなし上手で困るな。もうここに住もうかな。なのかさんに許可をもらって」
それはやめてほしい。
こんな美人が一緒に住んでいたら、どうにかなってしまいそうだ。
もちろん、叔母さんの許可が下りるわけもないんだけど。
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