第32話 王子様系モデルの甘い休日(2)
お昼まで少し時間がある。
いつも通り、ゆったり読書でもして過ごすのかな……、と思っていたら、一輝先輩は何やらリビングのテレビを弄っている。
「せっかくの大画面テレビで、各種配信サイトにも接続できるのだ。使わないと損だろう」
「いや、でも僕、契約してないんですけど……」
「安心しろ、私の契約の視聴枠が余っている」
「え、でもそれ、一輝先輩がお金払っているんですよね? 悪いですよ……」
「持ち腐れているから、いいのだ。ここでアカウントを連携しておけば、玲音や薫も喜ぶだろう」
他の二人も喜ぶなんて言われると、断れない。
一輝先輩はウキウキで――クールな表情だけれど、さすがに感情がわかるようになってきた――映画を選んでいる。
「昨夜もギリギリまで何を一緒に見るか考えていたのだが、ひとまず『君の名は。』にしよう。未見だと言っていたな。面白いぞ」
ソファに並んで視聴開始。
三葉さんと瀧くんが入れ替わることは知っていたけれど、冒頭からいきなり入れ替わるんだね。
●
見終わって、ほっと一息つく。
夢中で見てしまっていた。というか、ちょっと泣いた。目尻を拭う。
「よかっただろう?」
と、一輝先輩が囁いた。声が近くて、少しびっくりする。
「……はい。面白かったです」
映画に夢中で気づかなかったけれど、ほとんど密着する距離で座っていた。
綺麗な顔が近くにあって、ドキドキしてしまう。
ふと、唇に目がいく。つややかで、柔らかそうで、吸い込まれそうになる――。
「っ、そろそろ、お昼の準備をしないとっ」
邪念を振り払い、立ち上がる。危ない危ない。
一輝先輩に嫌らしいことをしてしまうところだった。彼女はスイーツを楽しみに来ているだけなのに。紳士たれ、紳士たれ……。
「……うむ。昼時ではあるな、たしかに」
一輝先輩も立ち上がった。何故か、ちょっとだけ不服そうだ。
もう少し映画の感想を語り合いたかったのかもしれない。
●
さて、昼ご飯ももちろん甘いものである。
というか、ここからが本番だ。
まずはスコーンを焼こう。
昨日作って、冷蔵庫で休ませておいた生地を取り出す。
材料は牛乳、バター、そしてまたしてもホットケーキミックスだ。実は、叔母が業務用のホットケーキミックスの袋を置いていったので、今回はそれをたくさん使ってしまおうという魂胆でもある。……一輝先輩は少食だから、また後日、玲音に何か作る必要があるだろうけどね。
小麦粉と砂糖とベーキングパウダーが入っているから、応用が利くのだ。
練り合わせた生地を伸ばして折りたたむ工程を三度、繰り返してある。材料をしっかり冷やしておくのがポイント……らしい。四角く伸ばした生地を、これまた四角く切って、予熱したオーブンに入れて焼き始める。
クロテッドクリームとジャムも昨日作って冷蔵庫に入れてあるから、スコーンは焼き上がりを待つだけでいい。
ふと気づくと、一輝先輩がキッチンカウンターの椅子に座り、僕をじっと観察していた。興味深そうな、愛おしいものを見るような、そんな表情だ。
いつものことなのに、少し恥ずかしくなる。本でも読んで待っていてほしいけれど、どうやらこのリノベ古民家に来る女子達はみんな、料理が出来上がるのを眺めて待つのが好きらしい。食いしん坊だなぁ。
ともあれ、次だ。
薄くスライスしたキュウリを塩もみして、しっかりと水気を絞り、マヨネーズと胡椒を加えて和えておく。サンドイッチ用のパンにバターを塗り、和えたキュウリを挟んでサンドイッチに。
これはスイーツではないけれど、形式として必要だろうと判断した。
次が最後。
これが一番簡単。
冷蔵庫から、今朝作ったフルーツタルトを取り出してカットするだけだから。
ちょうどスコーンが焼けた。
取り出した三段重ねのスタンドに、下からサンドイッチ、スコーンとクロテッドクリームとジャム、フルーツのタルト……と盛り付ければ。
「お待たせしました。ランチ時だけど、アフタヌーンティーセットです」
一輝先輩はうっとりとした表情で、唇をぺろりと舐めた。
「素晴らしい……!」
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