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王子様系女子達が僕の家に入り浸って楽しんでいる秘密のこと  作者: ヤマモトユウスケ@#壊れた地球の歩き方 発売中!


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第31話 王子様系モデルの甘い休日(1)


 休日である。

 休日である――のに。


 ぴんぽーん、と軽い音のチャイムが鳴る。

 いつもの放課後は、各自、古民家に来る時間をずらしているから、特に出迎えとかはしない。こっそりと、勝手に玄関を開けて入ってもらう。

 でも、今日はいつもと違う。


 小走りで玄関に赴き、引き戸を開ける。


「おはよう、姫ちゃん」


 朝の太陽が、一輝先輩を照らしていた。

 私服――体育祭のあとに見た、ドレスワンピースとはまた違う、

 ダブルジャケットに、だぼっとしたパンツルック。シンプルな黒いキャップがボーイッシュで、ダンスが上手そうなファッションだ。本当は踊れないのに。


「おはようございます、一輝先輩」

「今日はカジュアルな感じにしてみた。……どうだ?」

「カッコいいです」

「ふふ、ありがとう」


 はにかんだ笑顔を浮かべて、一輝先輩は「お邪魔します」と古民家に入った。

 体育祭の賭けの結果、一輝先輩は――なぜか僕の意思は度外視して――僕を一日貸し切る権利を手に入れた。そう言われた直後は、一瞬、「王子様系女子達が僕を取り合っているのか?」なんて妄想が頭をよぎったけれど、もちろん違う。


「さあ、朝から晩までスイーツを食べるぞ!」


 太陽が自信をなくして隠れてしまいそうなくらい明るい笑顔である。

 僕を一日貸し切るとはつまり、一日三食、自分好みの料理をオーダーできるということである……らしい。なんで僕がそれを知らなかったんですかね。

 ダブルジャケットをハンガーにかけて、一輝先輩はソファに座った。


「……んっ、んっ。なんなら、姫ちゃんまで食べてしまおうか」

「玲音みたいな冗談やめてください」

「……む」


 とはいえ、僕も休日は基本的にだらだらと過ごしているだけなので、一日中、一輝先輩と一緒というのは、普段よりよほど充実したスケジュールだ。

 “王子様”達のために料理を作るのは、嫌いじゃないし。……どころか、ここ最近で一番やりがいのあることだ。


 早朝とは言い難い、午前九時。

 さっそく、本日最初のスイーツを提供するとしよう。

 ローテーブルに、ティーポットとお皿をセット。お皿の上には、白いアイシングのかかった濃い色のケーキと、緑色のマフィンが載っている。

 一輝先輩は目を細めた。


「ほう……。キャロットケーキか。緑色のほうは?」

「ほうれん草のマフィンです。朝はヘルシーにしておこうかな、って」


 なんせ、一日三食スイーツなのだ。

 モデルなのにそんなことして大丈夫ですか、と日程を決めるときに聞いたら、一輝先輩は「大丈夫だ、問題ない」と目を逸らしながら言ったので、せめて朝くらいは野菜の入ったものにしようと思った次第である。


 というわけで、キャロットケーキなのだ。

 作り方は簡単。基本的には、すりおろした生のニンジンを、ホットケーキミックスに入れ、シナモンパウダーを加え、四角いケーキ型で焼き上げるだけ。

 ……ただし、一輝先輩の好みに合わせて、けっこう甘みを追加した。

 生地には蜂蜜を追加してあるし、粉砂糖をたっぷり加えて練ったクリームチーズをアイシング――フロスティングだっけ――として、表面にこれでもかと塗ってある。


 ほうれん草のマフィンも同様に、茹でてからミキサーでペースト状にしたほうれん草をホットケーキミックスに混ぜて、マフィン型で焼き上げたものである。

 こちらはバターと生クリームを加えてリッチな味わいを目指した。


「どうぞ、召し上がれ。あ、紅茶は叔母さんが置いていったやつで……なんだったかな。なんか高そうな黒い缶のやつです」

「ふむ。マリアージュ・フレールのマルコ・ポーロだな。さすが、なのかさんだ。しっかりしたものを用意している……」


 一輝先輩は紅茶の香りを嗅いで、そう呟いた。

 僕もソファに座って「いただきます」と手を合わせる。

 まずはキャロットケーキから。フォークで一口切り取って、口に運ぶ。


「……うむ、うむ。美味しいよ、姫ちゃん。シナモンの香りもいいし、ニンジンの風味とクリームチーズのフロスティングも絶妙だ」

「よかったです。本場のやつは、もっといろんなスパイスが入るらしいですけど、初めて作るので、攻めすぎないでシナモンだけにしてみました」

「たしか、シナモン以外にはナツメグなどが入っていたはずだな。砂糖が高価だった時代に、比較的糖度の高いニンジンが甘味料の代わりに用いられて生まれたとか。だから、保存性を高めるためにスパイスが入れられていた……だったかな。いつか本場のバージョンも作ってみてくれ」


 一輝先輩は、静かに頷きながら料理を食べる。

 たくさん食べるわけじゃないし、作り方が気になるわけでもない。

 ただ、噛みしめるように食べて、料理の文化に思いを馳せる。

 時折、吐息をこぼすように「うまい……」とか「おいしい……」とか言ってくれるのが、とても嬉しい。


「ほうれん草のマフィンも素晴らしい出来だ。世界中のほうれん草が、全部これになればいいのに。いや、なるべきだ。ロビー活動をしよう」

「ほうれん草マフィン過激派だ……!」

「教祖は私、最高神はほうれん草のマフィンを作りし者、姫ちゃんだ」

「しまった、巻き込まれた……!」


 あと、こんな馬鹿なことも言ってくれる。お茶目な先輩である。

 一輝先輩は食べ終わり、手を合わせた。


「ありがとう、姫ちゃん。とても美味しかった。……で、昼は何の予定だ?」


 気が早くないですか?

 ……だけど、目を輝かせて聞かれると、苦笑するしかない僕である。



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