第29話 極厚カツ丼と体育祭(8)
ゴール地点担当の実行委員は、一年生の女子だった。
玲音が渡したお題の書かれた紙と、玲音の顔と、僕の顔を順繰りに何度も確認している。初めての体育祭、しかも入学して一ヶ月だ。ミスしたら大変だから、緊張しているのかな?
それにしても時間がかかっているな、と思っていたら、玲音が人差し指を唇の前で立てた。
「お題は、同じクラスの男子――だから、問題ないでしょ?」
ウィンク付きで、そう言う。
実行委員の女子は、赤面して「はい……」と呟いた。
こんなときでもイケメンムーブとは、女子を誑かすのが上手なやつである。
「あ、えと、一位なので、A組連合に50点です……」
「ありがとう。……やったね、姫宮君! 二人で勝ち取った50点だよ」
「僕は運ばれただけだけどね……」
顔を両手で覆う。めちゃくちゃ恥ずかしかった。
しかも、競技が終わるまで、一位の旗に並んで待機する必要があるらしい。全校生徒が、僕らを目撃したことだろう。うう……早く終わんないかな。
二位でゴールしたB組の女子が「40点か、よし」と汗だくの数学教師の腕を掴んだままガッツポーズをする。
三位が30点、四位が20点、五位が10点……と得点する仕組みだ。
幸い、競技は予定通り滞りなく進み、羞恥の時間はすぐに終わった。が、クラスの観客席に戻った僕は、男子からは盛大にいじられ、女子からは猛烈に妬まれるのであった。
●
さて、気持ちを切り替えて、綱引きの時間である。
うん、もう切り替えました。切り替えたったら切り替えた。
自分なりに一所懸命、綱を引っ張ったけれど、僕らのチームはB組に負けてしまった。とはいえ、C組には勝てたから、及第点だろう。
玲音が声を張り上げて音頭を取っていたので、A組連合チームの士気は高かった。でも、B組連合は全員がきっちりと揃ったフォームで綱を引いていて、純粋に練度の差で負けたと僕の目から見ても明らかだった。
「A組には白鷺が、C組には藤堂がいるからな。個人差の出にくい団体競技の練習を中心にやってたんだろ」
と、近くにいた三年生が負け惜しみを呟いていた。
ともあれ、これで僕の出番は終わり。
あとは応援するだけでいい。借り物競走みたいに、巻き込まれることもないだろうしね。
予想通り、短距離走では薫が玲音に勝って、盛大なドヤ顔でピースサインをしていた。こういう振る舞いをしても嫌味っぽくならないのが、薫の良いところだ。
玲音は悔しそうに拍手をしていて、会場全体が「いい勝負だったねー」とか言いながら、柔らかい雰囲気だった。
……でも、このあたりで僕らは違和感を持ち始めていた。
きっとC組も同じように感じていただろう。
だって、玲音と薫が圧倒的に勝っているはずなのに――B組との点差が広がらないのだ。
一進一退。
総合得点は僅差のまま、ずるずると競技が進んでいく。
競技に参加する玲音はいつも笑顔だったけれど、観客席に戻ると、時折、難しい顔で得点表を見ていた。
最終競技の騎馬戦も、玲音が率いる馬と、薫の率いる馬の一騎打ちだった。もはや見慣れた、白熱した勝負を繰り広げ――最後は玲音が勝った。
わあわあ、と競技場が歓声に包まれている。
玲音と薫の勝負は、玲音の勝ち越し。でも……。
観客席に戻った玲音は得点表を見て、小さく「一輝め」と呟き、苦笑した。
まったくの予想外。そして、想定外。
B組が、二位のA組と20点というごくわずかな差で優勝したのである。
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