第28話 極厚カツ丼と体育祭(7)
当然、自分のぶんのカツサンドも作ったけれど、実は朝に食べてきた。
玲音と同じものを体育祭で食べるのはあまりにも“匂わせ”すぎるからね。
サンドイッチ用のパンに、からしバターマヨとトンカツソースを塗って、千切りキャベツと極厚の豚ヒレカツを挟んだだけのシンプルな構成だ。
肩ロースを低温調理する際、一緒にヒレブロックもやっておいたのである。肉の厚みによって加熱する時間が違うから、時間管理がちょっと大変だった。
赤身の肉質が非常に柔らかく、脂身の少ない豚ヒレは、低温調理向きだと思う。
分厚いけれど柔らかいお肉から、噛むたびに旨味が溢れてきて、からしバターマヨやとんかつソースと絡み合い、それらをパンが抱きかかえ、一つに調和させてくれる。自信作だ。
少しでも玲音の力になれば嬉しいな。
●
午後一番の競技は、応援合戦。
各連合による演舞を行うのが常で、A組は学ランを着た玲音を中央に置いた、王道の演舞。王子様然とした玲音がいるだけで、見応えたっぷりである。あまりの王子様っぷりに、気絶した女子がいたとかなんとか。
C組は、なんと薫が率いるチアリーディング。元気いっぱいに跳ね回る姿は、見ているこちらも元気になってしまう。
連続バク転のパフォーマンスは、競技場が歓声で震えるほどだった。
でも、一番驚いたのはB組の応援合戦だ。
なんと、一輝先輩がヘソ出しの改造学ランで登場し、見事なモデルウォークとポージングを披露したのである。それ応援か?
一輝先輩だけじゃない。改造されたファッショナブルなチア服を着た女子達や、硬派な学ランでキメた男子達が、おそらく一輝先輩の指導のもと習得したと思われるモデルウォークで登場した。
文化祭でやるようなことを、体育祭でやったのである。
応援合戦の順位は、全校生徒によるオンライン投票で決まる。
自分の組には入れられない決まりで……、一位はB組だった。
玲音の王道の演舞や、薫の元気いっぱいのチアもよかったけれど、さすがにプロフェッショナルのパフォーマンスとオリジナリティには敵わないね。
●
事件は、その次の借り物競走で起こった。
様々なお題が書かれた紙を引いて、そのお題に合致するものを持ってくるという、お馴染みのお祭り競技である。
お題は『一年生の男子』とか『国語の先生』とか、人間であることも多い。そういう場合は、手を繋いで走ってゴールするのがルールだ。
だから、全競技に出場している我らが“王子様”、白鷺玲音の番となると、全女子が固唾を呑むことになるわけだ。自分が手を引かれる可能性もあるからね。
これに関しては運が絡むから、さすがの玲音も勝てないかもなぁ……と思いながら観戦していると、紙を引いた玲音が、数秒、固まった。
それから、ぱっと顔を上げて、僕らA組の方へ駆けてきた。
女子達が「きゃあ!」と喝采を上げる。男子達もびくりと震える。もし玲音に指名されたりしたら、女子達から白い目で見られるだろうし……女子と手を繋いで走るかも、というのは、男子が緊張するに値することだ。
玲音は観客席の真下まで来ると、
「――姫宮君! 来てくれるかい!?」
そう、競技場から叫んだ。
……え、僕? 一拍遅れて、呼ばれたことに気づく。
疑問に思う暇もなく、クラスメイト達が僕の腕やら肩やらを引っ掴んで、無理矢理立ち上がらせた。
「よっしゃ行ってこい姫宮!」
「姫宮君いいなーずるいずるい!」
「急げ姫宮がんばれー!」
そして、出場口へ繋がる階段へと送り込まれる。
完全に他人事だと思っていたけれど、そうか。こういうパターンで走ることもあるのか。
転がるように降りた階段の下で、待ち構えていた玲音が、僕の手を強く握った。
走っていたからか、顔が火照っている。
「さ、行くよ、姫宮君!」
「お題、何なの!?」
「同じクラスの男子!」
手を引かれて走り出す。うわ、速い。
「じゃ、じゃあ僕じゃなくても、もっと足の速いやつが――」
「姫宮君、ちょっと失礼!」
玲音が、僕の膝裏をすくい上げるように片手を回して、そのまま持ち上げた。
……って、えっ、ええっ!?
『A組連合の白鷺玲音選手、男子生徒をお姫様抱っこです! すごい!』
驚いて固まっているうちに、視界に映る競技場の景色が流れるように動いていく。実況が耳に飛び込んでくる。それで、自分の状況を理解した。
玲音にお姫様抱っこされているのだ。僕が。
「じ、自分で走るよっ!」
「おっと、動かないで。危ないよ。この方が速いし、カッコいいからね! 協力してくれるんでしょ?」
「わ――わかった!」
僕は男子にしては軽い方だ。けれど、さすがの玲音と言えど、僕を抱えたままいつもの速度で走るというのは、難しいらしい。
「ちゃんと僕の首に手を回して。……そう、もっと強くくっついて」
恥ずかしい気持ちをぐっと堪えて、僕は玲音の首に両手を回し、強く抱きしめた。速度が上がる。
玲音は火照った顔で「んふふ」と笑った。
――僕らは一位でゴールテープを切った。
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