第26話 極厚カツ丼と体育祭(5)
極厚カツ丼を食べ終わり、食後のコーヒーの時間だ。
まろやかな香りと控えめな酸味が、心に染みる。
ペルー産らしい。品種までは知らない。
コーヒー豆は叔母のチョイスで、つまり、彼女がどんどん買って消費しきれなくなったものが、この古民家に蓄えられていくのである。
そのうちコーヒーゼリーとか作ろうかな。ティラミスもいいな。
玲音は極厚カツ丼を二杯食べた。ほかの二人と僕は一杯ずつ。それでもお腹がはち切れそうだ。みんな、ソファやクッションでだらりと休んでいる。
「むむぅ……」
薫がスマホを見ながら唸った。
「低温調理器って、意外と値段しますね……」
「そうだね。メーカーにもよるけど、一万円くらいはするみたい。うちのは叔母さんが買っためっちゃ良いやつで、確か三万円とかじゃなかったかな」
「むむむぅ……。俺にはまだ早い……とはいえ魅力的っすね……」
薫が悩み込んでしまった。
「レアチャーシューとかも作れるし、映え料理と相性がいいよね」
「レアチャーシュー! いいね、姫宮君! 次に食べたい!」
元気よく手を挙げる玲音。二杯食べたのにまだ胃袋のキャパがありそう。相変わらずすごいなぁ……。
一輝先輩がコーヒーカップに口を付けて、「次も楽しみだ」と呟く。何をやっても様になるな、この人は。
「だが、次の話をする前に、明日のために今日は早く寝なければ、な」
「そうですね。コーヒー飲んだら解散にしましょう。……ちなみに、一輝先輩はどの競技に出るんですか?」
「私はこう見えて普通に足が遅いし、怪我する可能性のある競技は事務所が渋るからな。応援合戦と玉入れで無双するつもりだ」
一輝先輩は、男子と比べてもなお高い身長の持ち主だ。
応援合戦はさぞかし見栄えするものになるだろうし、玉入れも強いだろうな。……ということは、対戦相手か。うわ。
「私の話はいい。玲音はまた全部か?」
「そうだよ。今年の新入生にも僕の格好良さを見せつけて、ファンを増やしてちやほやされるんだ」
「あ、俺も全部っす」
俗なことを言う玲音に、薫があっけらかんと言った。
玲音が嬉しそうに微笑む。
「へえ。それじゃあ、僕と正面からがっぷり四つってわけだね」
薫がにやりと笑った。
「ごめんなさい。玲音先輩の最強伝説、一年で終わらせちゃうっす」
ぴり、と空気が引き締まる。
か、薫……? 玲音がいっそう嬉しそうに唇の端を上げた。
「言うじゃないか。そこまで大口を叩くんだ、覚悟は出来ているのだろうね?」
「もちろんです。なんなら、何か賭けますか?」
「ふむ……」
そこで、玲音は何故か、僕をちらりと見た。
「より多く一等賞を取ったほうが一日独占。どうかな?」
「乗ったっす!」
一日独占? ……何の話?
首を傾げている僕をよそに、今度は一輝先輩が「待て」と鋭く声を差し込んだ。
「それでは私が関与できんではないか。フェアではない」
「……むむ。確かに」
「じゃ、一輝先輩も全競技出ますか?」
「今からは無理だ。競技の登録はとっくに終わっているし、事務所も許さんだろう。そもそも、体育祭で二人と競うことは、私には難しい。さっきも言ったが、私は普通に足が遅いのだ」
むむむ、と三人が悩み込む。
「……三人とも、A組連合、B組連合、C組連合で分かれてるんだから、総合優勝したチームの人の勝ちでいいんじゃない? 何を賭けて戦ってるのかは、よく分かんないけどさ」
僕がそう言うと、三人の“王子様”は顔を見合わせてから、にっこり笑った。
「姫宮君がそう言うなら、そうしよう」
「姫ちゃんも前向きでよかったぞ」
「姫先輩、俺、頑張るっす!」
な、何……?
急に意見がまとまって、ちょっと怖いんだけど。
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