第22話 極厚カツ丼と体育祭(1)
我が校が誇る王子様系女子達は、三者三様だ。
学外を含めて、もっとも知名度があるのは、間違いなく一輝先輩だと思う。モデルだし、SNSもやっているし。
薫はザ・体育会系かつ後輩属性で、その少年っぽい仕草は、特に年上から支持されているという。
けれど、それでも、学内で一番モテるのは玲音だと僕は思っている。
彼女の周りは、いつも女子達でいっぱいだ――。
「いやいや、姫宮君。君の周りだって、女子でいっぱいじゃないか。お忘れかもしれないけれど、僕も、一輝も、薫も、みんな女の子だからね」
一輝先輩と薫が、古民家に来るのがちょっと遅れた日だった。
玲音はジト目で僕を見ながら、そう言った。
叔母の本棚にあった小説『大奥』の話から、何故か、そういう話になった。
「だいたい、女の子なんて、一人いれば十分じゃないか。何人も侍らせるなんて、不埒にもほどがある」
「それを玲音が言うの……?」
女の子を侍らせるのが大好きなくせに……。
玲音は頬を膨らませた。
「僕はいいんだよ! 女子だから。でも男子はさ、ほら、一人に絞らないと。モテモテでハーレムなんて、誠実じゃないよ。……ていうか、厳密に言えば、僕もモテているわけじゃないし」
「そうなの?」
そんなことはないと思うけれども。
「んー。そうだね、なんといえばいいのか……。僕を異性として見ているレディはほとんどいないんだよ。格好良い同性として、いわば波風立たない相手として……そう、推しているだけなのさ。推し活なんだ、これは」
玲音は指を唇に当てて、言葉を探るようにしながら、説明してくれた。
「ほら、女子なら、僕のファンを名乗れば、煩わしい恋愛のいざこざから遠ざかれるでしょ? 誰が好きとか、そういうプライベートで打ち明けたくない話をするときに、僕の名前を挙げておけば安パイになるんだよ。本命を隠せるし、ね」
そういうもの……なのか?
首をひねっていると、玲音が頬を赤くしながら視線を斜め上に向けた。
「あー、だから姫宮君も、えーと、誰が好きか聞かれたら……ぼ、僕の名前を挙げておけばいいんじゃないかなっ?」
「それは無理があるでしょ。男子が言うと意味が変わってくるよ」
「むう……」
玲音はまだ何か言いたそうだったけれど、ちょうど、一輝先輩がやってきたので、話はそこで中断された。
その時は、聞けなかったけれど……。
僕は、我が校が誇る三者三様の王子様系女子達に関して、ひとつの疑問を持っていた。
薫は活発な美少年で愛らしく、一輝先輩はクールでアダルティな魅力に満ちあふれ、玲音は王道のイケメンで……だけど。
結局、その中で一番“王子様”なのは誰か――ということだ。
●
うちの高校は、五月に体育祭をやる。
気温がちょうどよいことに加えて、三年生の受験勉強を邪魔しない時期だからだとかなんとか。
あと、市内の競技場を貸し切って開催される。
学校の運動場が狭すぎて、全校生徒が展開すると父兄の観戦スペースが設営できないから、安く借りられる公営の競技場を使っている……らしい。
近くの公営の競技場がなかったら、僕らは狭い運動場にぎゅうぎゅう詰めにされていたに違いない。有り難いことである――なんて、先生は言うけれど。
いやいや。いやいや、と言わせていただきたい。
帰宅部な上に、まったくアクティブではない僕は『そんな手間をかけるくらいなら、いっそ体育祭なんてやらなきゃいいのに』と言いたいね。
開催しなければ、公営の競技場を借りる費用すら不要だ。
練習もしなくて済む。受験勉強の邪魔をする、しないといった配慮もいらない。だから、やんない方が効率的だと思わない?
「僕は嬉しいけれどね。姫宮君と一緒に出場するのが楽しみだ」
と、玲音は苦笑交じりに言う。
放課後、僕と玲音は二人きりで教室に残っていた。玲音が「参加競技の調整は、委員長の仕事だから」と取り巻きを帰らせたから、僕らだけだ。……その際、何人かにまた酷く睨まれた。怖かった。
さもありなん。クラスで僕だけ、参加競技の希望を出していなかったから、彼女達の大事な“王子様”の時間を浪費しているので……。
窓の外からは運動部のわあわあという騒音と、吹奏楽部のパート別練習が入り混じった音が響いてくる。
学校の音だな、と思う。スポーツも、音楽も、一つ一つが秩序を持った音なのに、複数の秩序が一つの箱に押し込まれたせいで、無秩序状態になっている……そういう音。
僕は唇を尖らせる。
「玲音は運動神経が良いから、そういうことが言えるんだよ」
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