第12話 甘党王子様、暁一輝(4)
乱入してきた玲音に対して、暁先輩は心底不思議そうに首を傾げた。
「無体? 姫ちゃんにそんなことするわけがないだろう。むしろ大事に、大切に扱うつもりだ」
「ひ、姫ちゃんだって!? なんだい、そのあだ名は!」
「白鷺玲音。悪いが、私達はこれから姫ちゃんの家で用事があるのだ。君の相手をしている時間はない」
「い、家に行くだって!? 一人暮らしの姫宮君の家に!? だだ、男女二人きりで何をする気なんだ!? 破廉恥な!」
凄い。玲音は助けてくれようとしているのに『お前が言うなよ』ってツッコミそうになってしまった。よくここまで自分のことを棚に上げられるな……。
「姫ちゃんに私をどうこうできるとは思わないが」
「確かに姫宮君は簡単に押し倒せるから『強引に押し倒したら僕達どうなっちゃうんだろう』なんて好奇心がうずく日もあるけれど、僕はいつもぐっと堪えて――じゃなくて!」
……。うん。
良いところ――僕が安全な男子だと思われている。
悪いところ――簡単に押し倒せるくらい軟弱だと思われている。
そりゃまあ、身長も力も二人には全然敵わないだろうけどさぁ……これでも男だからさぁ……。
「姫宮君も気をつけなきゃ駄目じゃないか! 偶然、たまたま、奇遇にも僕が外を通りかかって、姫宮君の悲鳴が聞こえたから割って入れたけれど!」
「うん、ありがとう……。いや、でも、暁先輩は僕に乱暴しようとしていたわけではなくてね? そのー……あー……」
説明しづらい。甘党なの、秘密だって言っているしなぁ。
「ほら、言えないようなことをしていたんじゃないか!」
「違うって」
「そうだ、違うとも。そして、たとえ私達が不埒なことをしていたとしても、それは私と姫ちゃんの問題だ。それとも、二人は付き合っているのか?」
「つ――付き合ってはいないけれども!」
「では、私達が何をしようが、構わないだろう。無関係な者は帰ってくれ」
暁先輩と玲音が至近距離で睨み合う。玲音は「うぐぐ」と唸ってから、
「僕も姫宮君の家に行く! 嫌でも行くからね! 委員長として、友人として、僕は姫宮君が悪の道に落ちないよう監視する義務があるんだ!」
と宣言した。ええ……。
●
帰り道、二人と一緒に帰るのは大変恐ろしくて――ファンに殺されかねない――そこだけは別行動をさせてもらった。
二人も生徒に目撃されて、それぞれの関係を深掘りされたくはないということで、承服してくれた。
暁先輩――えーと、一輝先輩は「社内不倫がバレないように別々に帰る課長とOLのようだな」などと言っていた。人聞きが悪すぎる。誰にも聞かれてないからいいけど。
というわけで、王子様が二人、リノベ古民家にやってきた。
美人が二人もいるからか、部屋が華やいでいるように感じる。空気がキラキラしているというか。我が家なのに居心地が悪い。
一輝先輩は部屋をぐるりと見回した。
「ここが、なのかさんの家か。さすがにセンスが良いな」
「本人は一回も住んでないですけどね」
インテリアは叔母さんのチョイスだから、センスが良いのは確かだけど。
玲音がむすっとした顔でソファに座り、クッションを抱きしめた。
「――で? 暁先輩と何をする気なんだい?」
「秘密だ。帰ってくれないか、白鷺」
「帰りません。姫宮君を守る義務があるので」
またバチバチと視線をぶつけ合っている。
……もう面倒くさくなってきたな。二人とも大した秘密じゃないのに。
「一輝先輩。もう玲音とも秘密を共有しちゃえば良いんじゃないですか? 絶対に誰にも言いませんよ、玲音は」
「しかし……それはだな」
「じゃあこうしましょう。玲音の秘密も、共有します」
「姫宮君!? 何を言っているんだい!?」
クッションを抱きしめたまま、玲音が立ち上がった。
「二人の秘密だって、そういう約束だろう!?」
「うん。でも、秘密を交換したらさ、二人ともお互いを信用せざるを得なくなるじゃん。間に挟まれる僕も、両方に気を遣わなくて済むし」
「む……」
「言われてみれば、確かに……」
二人は不承不承といった様子だけれど、頷いてくれた。
それから、ぼそぼそとお互いの秘密を話し合い始めた。
やっと話が簡単になった……。僕はキッチンに立って、材料をチェックする。さて、どうせ玲音も食べるだろうし、いっぱい作った方がいいだろう。
……そういえば。
「あったあった、これだ」
キッチン横に、叔母の置いていった段ボールがある。中身は小さな鉄製のフライパン。スキレットだ。それが五枚も入っている。
今日はこれを使ってみよう。
よろしければ、
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