第13話 甘党王子様、暁一輝(5)
スキレットを天板に並べ、ビルトインのオーブンに入れて、予熱を開始する。
家庭用とは思えない巨大なオーブンで、これまでは完全に持て余していたのだけれど、これからはいっぱい使えそうで、少し楽しみだ。
予熱中に卵、牛乳、薄力粉、砂糖、塩を混ぜ合わせて生地を作っておく。一輝先輩がどれくらい甘党なのか分からないから、生地の甘さは控えめ。蜂蜜やメープルシロップ、ジャム、バニラアイス等で調整してもらおう。
ちらりとリビングを見ると、王子様二人が熱心に話し合っている。時折、こちらに目をやって、したり顔で頷く。な、何ですかね……。
予熱が終わったので、熱々のスキレットにバターを入れて溶かし、しっかり回してから、生地を流し込む。
十二、三分も焼けばいいだろう。
また、ちらりとリビングを見てみる。二人は肩を叩きながら微笑みあっていた。仲良くなったようで何よりです。
メープルシロップやバニラアイスを用意して、準備は終わり。
「お待たせしましたー。熱いので気をつけてください」
スキレットごと、木のトレイに載せてリビングに運ぶ。
背の低いテーブルに並べると、一輝先輩が目を輝かせた。
「姫ちゃん、これは……ダッチベイビー・パンケーキか!?」
「そうです。ちょうど、スキレットがあったんで……」
「すごい! 一度、食べてみたかったんだ……!」
スキレットとオーブンを使って焼き上げる、ドイツ風のパンケーキである。
一輝先輩のテンションが上がりまくっている。
「冷めると萎んじゃうらしいので、熱いうちに食べましょうか」
自分に一枚、一輝先輩に一枚、そして玲音の前に三枚、パンケーキを置く。玲音は「うんうん、僕のことがよく分かっているね、姫宮君」と頷いた。それはようござんした。
三人で「いただきます」して、僕らは食事を始めた。
ナイフで切って、フォークを刺して、口に運ぶ。ほのかな甘み、卵の味わい、ふわふわもちもちした食感と、外側のカリカリした食感――美味しい。
ちょっとイチゴのジャムを足そうかな。
「端っこが美味しいね、これ。バターでカリッとなっていてさ。何枚でも食べられそうだよ、姫宮君」
玲音がもきゅもきゅ口を動かして、満面の笑顔で言った。そりゃ、本当に何枚でも食べてしまうでしょうよ、君なら。
一方で、気になるのは一輝先輩の方だ。この料理は、彼女のためのものなので……。一口、二口と静かに食べ進めている。アイスをたっぷり乗せ、メープルシロップと蜂蜜を上からかけ、ジャムを乗せ……とバリエーションを変えつつ、大事に大事に……作った僕が恥ずかしくなるくらい、吟味してくれている。
玲音が三枚食べ終えるのと同じくらいの時間で、一輝先輩はパンケーキを一枚、食べ終えた。
それから、僕の方を向く。無言で。
「あ、あの……口に合いませんでしたか?」
「――姫ちゃん。私はな」
神託を告げるかのように厳かに、一輝先輩が口を開いた。
「小さい頃は、お人形遊びばかりしている、寡黙で物静かな少女だった。角川つばさ文庫が大好きな、どこにでもいる、普通の文学少女だった――」
……なんか始まった。え、回想パート?
「小学生の時は、まだ小さくて可愛かったんだ。身長も一六五センチしかなかったし。いまの姫ちゃんと同じくらいだな」
うるせえよ。てか、え、小学生で一六五センチもあったんですか……!?
すごいや。うらやましさが限界突破しそう。
「だが、みるみる伸びて、いまでは一八〇センチ以上もある。色々と悩むこともあったし、人からの印象と実際の自分とのギャップで苦しみもした。だが、この体型のおかげで多くの仕事に恵まれ、なのかさんと知り合い、姫ちゃんと出会い……いま、こんなに美味しいスイーツを食べることが出来た」
は、はあ。美味しかったならよかったですけど……。
「つまり、何が言いたいかというと……私は今、猛烈に感動している。ありがとう、姫ちゃん。抱きしめてもいいか? 愛おしさが爆発しそうだ」
「駄目に決まっているだろう! この家ではそういう肉体接触は禁止です! 男女でハグなんて絶対に駄目!」
僕より先に、玲音が断った。立ち上がりそうな勢いで。
……いや、こないだ君に抱きしめられた気がするんですけど。ていうか、なんで玲音がこの家のルールを決めているんだ……?
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