↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「お前など不要だ」と婚約破棄されたので、国を出ました ~私が抜けた途端に王都が壊れ始めても、もう知りません~  作者: 水無月カレン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/79

第54話:仰がれる、ということ

 エスタの水路は、思っていたより古かった。


 石を積んだ、立派な幹の水路。


 だが、その造りはすべて、一点集約だった。


 上流の大きな溜め池に、水を集める。


 そこから放射状に、田へ配る。


「これを、造ったのは」


「ドラン家です」


 案内のトマスの隣で、若い村人が答えた。


「代々、この領の水を預かってきた、旧いお家で。……いまの当主は、バルド様といって」


 村人はそこで、少し声を落とした。


「……厳しい、お方です」


 私は溜め池を見上げた。


 水は満々と湛えられている。


 だが、そこから下の水路を辿っていくと。


 末端に行くほど水は細り。


 いちばん下の村では、地面にしみて消えていた。


 典型的な固定だった。


 一点に集め、力で配る。


 上は潤い、下は枯れる。


 王都で見たものと同じ。


 辺境で私が作り替えたものと、同じ病だった。


 ◇


 私は村人たちを集めて、話をした。


 水を一点に集めるのをやめること。


 小さな分け水路をいくつも作り、水に「向き」だけ与えること。


 全部の田を完璧に潤すことはできない。


 だが、末端まで水が届くようになる。


 枯れる村をなくせる。


「――というやり方を、これから、一緒に作っていきます」


 私は言った。


「私がやるのでは、ありません。皆さんが、やるんです。私は、そのやり方をお見せするだけ」


 村人たちは顔を見合わせた。


 そして。


 いっせいに私を見た。


「では、リシェル様。まず、どこを掘れば」


「どの田から、水を抜けば」


「向きは、どちらに。……リシェル様が決めてくださるので?」


 私は言葉に詰まった。


 彼らは、やる気がないのではない。


 むしろ必死だった。


 ただ。


 何もかも、私に答えを求めた。


 一鍬掘るにも、私の許しを。


 一筋、水を分けるにも、私の指図を。


「……ここは」


 私は一つの田を指した。


 すると村人たちは歓声を上げて、そこを掘り始めた。


 まるで。


 私の指の向く先が。


 絶対の正解であるかのように。


 ◇


 その様子を少し離れて、カイルが腕を組んで見ていた。


「なあ」


 私がそばに行くと、彼は水路を見たまま言った。


「あれ、辺境と、同じか」


「……いいえ」


 私は首を振った。


「辺境の民は、途中から、自分で掘る場所を決め始めた。私が口を出さなくても」


「ここは」


「私が指さないと、動かない」


 カイルは少し黙った。


 それから。


「お前、気づいてるか」


 低い声で言った。


「あの溜め池。……一点に水を集めてる。あれが、この領の病だ。そう、お前は言った」


「ええ」


「だが、いま」


 カイルは村人たちを顎で示した。


 私の指の先に群がる人々を。


「あいつらは、水じゃなくて。……お前に集まってる」


 私は息を呑んだ。


 カイルの言う通りだった。


 私は水の一点集約を、壊しに来た。


 なのに。


 この土地に、新しい一点を作っていた。


 その一点とは。


 私自身だった。

リシェルが壊しに来た「一点集約」。

けれど気づけば、村人たちは水ではなく、リシェル自身に集まっていた。


カイルの一言が、第三部の核心を突きます。

「あいつらは、水じゃなくて、お前に集まってる」


分散を広げに来たはずの人が、新しい固定を生んでしまう。

この皮肉と、どう向き合うか。次回へ続きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。