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婚約破棄されたら国が壊れたので、元王妃候補の私が世界を再設計します ~外された瞬間、流れが崩壊しました~  作者: 東雲 透


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第17話:通用しない理屈

 その日のうちに、私はいくつかの異常地点を確認した。


 水の停滞。

 風の乱れ。

 土壌の歪み。


 どれも、王都で感じたものと同じ“欠落”を持っていた。


 だが。


「……範囲が違う」


 私は、小さく呟く。


 川のときは、局所的だった。


 だが、こちらは違う。


 畑全体。


 村全体。


 場合によっては、周囲一帯。


 影響が、広すぎる。


「どうだ」


 隣で、カイルが短く問う。


「原因は分かるか」


「ええ」


 私は頷く。


「でも」


 一度、言葉を切る。


 正直に言うべきか、迷う。


 だが。


 ここで曖昧にしても意味がない。


「……全部は直せない」


 はっきりと、告げる。


 カイルは、無表情のまま聞いている。


「範囲が広すぎるわ。私一人では、応急処置が限界」


「だろうな」


 あっさりとした返答。


 まるで、最初から分かっていたかのように。


 私は、少しだけ眉をひそめる。


「驚かないのね」


「現実はそんなもんだ」


 カイルは肩をすくめる。


「一人で全部解決できるなら、とっくに誰かがやってる」


 その言葉は。


 正しかった。


 そして。


 少しだけ、刺さった。


「……そうね」


 私は、小さく頷く。


 自分が、どこかで期待していたことに気づく。


 “できるかもしれない”と。


 “何とかできるのではないか”と。


 だが。


 現実は、違う。


 できることは、限られている。


 それが、事実。


「じゃあ、どうする」


 カイルが続ける。


「このまま放置すれば、畑は全滅だ」


 視線の先。


 痩せた土地。


 不安定に揺れる作物。


 このままでは。


 確かに、持たない。


「……優先順位を決める」


 私は、考えながら言う。


「すべてを救うのは無理。でも、重要な部分を維持することはできる」


「重要な部分?」


「水源と、主食の畑」


 私は、指で簡単な図を描くように説明する。


「流れを維持できれば、完全に崩壊するのは防げる」


 理屈としては、正しい。


 効率的でもある。


 だが。


 カイルは、すぐには頷かなかった。


「……それで、誰を切る」


 静かに、問う。


 私は、一瞬だけ言葉に詰まる。


「……切る、というのは」


「全部は救えないんだろ」


 彼の視線は、真っ直ぐだった。


「なら、どこを捨てるか決める必要がある」


 その言葉は。


 あまりにも、現実的だった。


 そして。


 残酷だった。


 私は、周囲を見る。


 畑で働く人々。


 不安そうに空を見上げる子供。


 静かに祈るように手を合わせる老人。


 彼らの中に。


 “切り捨てる対象”を見つけることは。


 できなかった。


「……できない」


 思わず、呟く。


 カイルが、わずかに目を細める。


「それが答えか?」


「……違う」


 私は首を振る。


 違う。


 これは、答えではない。


 ただの、逃げだ。


「……でも」


 言葉が、続かない。


 これまでの私は。


 最適解を選んできた。


 効率的に。


 合理的に。


 だが。


 今の選択は。


 違う。


 人を、切る。


 その前提が。


 どうしても、受け入れられない。


「……甘いな」


 カイルが、静かに言う。


 責めるような口調ではない。


 ただの事実として。


「ここじゃ、それじゃ誰も救えない」


 私は、何も言い返せなかった。


 その通りだからだ。


 理屈では、分かっている。


 だが。


 それでも。


「……分かってる」


 小さく、呟く。


「でも、それでも」


 顔を上げる。


 カイルを見る。


「私は、それを選びたくない」


 はっきりと、言う。


 その言葉に。


 彼は、しばらく黙っていた。


 そして。


「……なら、別の方法を考えろ」


 短く、言う。


「できない、じゃなくて、どうするかだ」


 それは。


 突き放す言葉ではなかった。


 むしろ。


 試している。


 そう感じた。


「……そうね」


 私は、深く息を吐く。


 頭を切り替える。


 できない理由ではなく。


 できる方法を。


 探す。


「……分散」


 ぽつりと、呟く。


 カイルが、眉を動かす。


「何だ」


「一点で維持するから、負荷が集中する」


 私は、思考を言葉にする。


「なら、流れを分散させればいい」


「……具体的には」


「小さな流れを、複数作る」


 私は地面に線を引く。


「一つを守るんじゃない。全体を少しずつ維持する」


 それは。


 効率では劣る。


 だが。


 切り捨てない方法。


「……非効率だな」


 カイルが言う。


「ええ」


 私は頷く。


「でも、全滅よりはマシよ」


 沈黙。


 風が、わずかに揺れる。


 不安定な流れの中で。


 カイルは、しばらく考えていた。


 そして。


「……やってみろ」


 短く、言う。


 それは。


 許可であり。


 同時に。


 試験でもあった。


 私は、頷く。


 まだ、確信はない。


 成功する保証もない。


 けれど。


 ひとつだけ、分かっている。


 これは。


 今までの私では、選ばなかった方法。


 だからこそ。


 やる意味がある。


「……やってみる」


 その言葉は。


 自分自身への宣言でもあった。

第17話まで読んでいただきありがとうございます。


ここで主人公は初めて、

「現実」と真正面からぶつかりました。


そして、

“最適解”ではなく、

“自分が選ぶ解”を探し始めます。


このズレが、この作品の核です。


次の話では、

その選択が実際にどうなるのか、

「結果」が描かれていきます。


続きが気になったら、

ぜひブックマークしていただけると嬉しいです。

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