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婚約破棄されたら国が壊れたので、元王妃候補の私が世界を再設計します ~外された瞬間、流れが崩壊しました~  作者: 東雲 透


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第16話:現実を知る者

 辺境領ヴァレント。


 それが、この地の名だった。


 王都から数日。


 ようやく辿り着いたその場所は。


 想像していたよりも、さらに厳しかった。


「……これが」


 私は馬車を降り、周囲を見渡す。


 乾いた風。


 荒れた大地。


 まばらに立つ建物は、どれも古く、補修の跡が目立つ。


 人の数も少ない。


 そして。


 どこか、緊張感がある。


 生活の気配はあるが。


 余裕がない。


 それが、空気から伝わってくる。


「王都とは、まるで別の国ね」


 思わず、そう呟く。


「当たり前だ」


 低い声が、背後から返ってきた。


 振り返る。


 そこに立っていたのは、ひとりの男だった。


 背は高く、無駄のない体つき。


 鎧ではないが、実戦を想定した軽装。


 短く整えられた黒髪に、鋭い視線。


 そして。


 明らかに、警戒している目。


「ここは、飾りで成り立つ場所じゃない」


 淡々とした口調。


 だが、その言葉には重みがあった。


「……あなたは?」


 私は静かに問う。


 男は一瞬だけこちらを見て。


 そして、答える。


「カイル・ヴァレント」


 短い名乗り。


「この領の管理を任されている」


 ──統治官。


 私はすぐに理解する。


 つまり。


 この地の責任者。


「リシェル・アークライトです」


 私は一礼する。


 完璧な動作。


 だが。


 カイルは、それを特に評価する様子もなく。


「知ってる」


 とだけ言った。


 その一言に。


 すべてが含まれていた。


 王都から追放された元王妃候補。


 厄介ごとを持ち込んだ存在。


 そういう認識。


「……そう」


 私はそれ以上、言葉を続けなかった。


 無駄だと判断したから。


 彼の態度は、明確だった。


 歓迎していない。


 それでも。


 拒絶しているわけではない。


 ただ。


 “必要な範囲で関わる”という線を引いている。


「状況は聞いている」


 カイルは、淡々と続ける。


「王都で妙なことが起きて、その余波がこっちにも来てる」


「ええ」


「で、お前はそれを“何とかできるかもしれない人間”ってことになってる」


 私は、わずかに目を細める。


「……正確には、“何かが分かるかもしれない”程度よ」


「同じだ」


 即答。


「できるかどうかなんて、やってみないと分からない」


 現実的な判断。


 そして。


 余計な期待をしない態度。


 私は、少しだけ息を吐く。


 この男は。


 扱いやすくはない。


 だが。


 信用できる。


 少なくとも。


 無駄な理想で動く人間ではない。


「なら、話は早いわね」


 私は前を向く。


「この領の異常、どこが一番深刻?」


 カイルは、一瞬だけ沈黙した。


 おそらく。


 私の言葉を測っている。


 試している。


 そして。


「……ついて来い」


 それだけ言って、歩き出した。


 迷いのない足取り。


 私は、すぐに後を追う。


 ミリアと護衛も続く。


 集落を抜ける。


 さらに奥へ。


 人の気配が少なくなる。


 そして。


 開けた場所に出た。


「……これは」


 思わず、言葉が漏れる。


 そこには。


 “止まった川”があった。


 本来なら、流れているはずの水が。


 途中で、完全に停滞している。


 動いていない。


 まるで。


 時間ごと切り取られたかのように。


「昨日からだ」


 カイルが言う。


「上流は普通に流れてる。だが、ここで止まる」


 私は、ゆっくりと近づく。


 水面を見つめる。


 揺れない。


 反射も、歪んでいる。


 そして。


 その奥に。


 はっきりと感じる。


 “欠落”。


「……流れが、途切れてる」


 私は小さく呟く。


「なら、繋げられるか?」


 カイルの声。


 試すような響き。


 私は、少しだけ考える。


 できるかどうか。


 分からない。


 けれど。


 やるしかない。


「……やってみるわ」


 私は水辺に膝をつく。


 手を伸ばす。


 触れる。


 冷たい。


 だが。


 その奥にあるものは、同じ。


 王都で感じたもの。


 あの崩落地点。


 村の風。


 すべてと同じ。


 ならば。


 方法も、同じ。


 私は、呼吸を整える。


 意識を集中する。


 流れを、探す。


 本来あるべき道を。


 そして。


 そこへ、導く。


 その瞬間。


 水が。


 わずかに、揺れた。


「……っ」


 私は力を込める。


 だが。


 次の瞬間。


 強い抵抗。


 流れが、繋がらない。


 むしろ。


 押し返される。


「……無理、ね」


 私は手を離す。


 呼吸が、少し乱れる。


 カイルが、すぐに言う。


「できないのか」


 責める声ではない。


 ただの確認。


 私は、正直に答える。


「完全には、無理」


 それが現実。


 今の私では。


 ここまで大きな断絶は、埋められない。


「……だが」


 私は続ける。


「一部なら、動かせる」


 そう言って、再び手を触れる。


 今度は、範囲を絞る。


 全体ではなく。


 一部だけ。


 ほんの少し。


 流れを通す。


 その瞬間。


 水が、細く動いた。


 わずかに。


 だが、確かに。


「……通った」


 ミリアが呟く。


 カイルは、何も言わない。


 ただ、じっと見ている。


 私は手を離す。


 流れは、すぐに弱まる。


 だが。


 完全には止まらない。


 細いながらも、水が動き続ける。


「……時間稼ぎにはなる」


 私は立ち上がる。


 息を整えながら言う。


「でも、これじゃ足りない」


「だろうな」


 カイルはあっさりと頷く。


 そして。


 初めて。


 少しだけ、表情を変えた。


 評価するような目。


「……使えるな」


 短く、言う。


 それは。


 褒め言葉ではない。


 だが。


 認めた、という意味では。


 十分だった。


 私は、小さく息を吐く。


 ここが。


 新しい場所。


 新しい現実。


 そして。


 新しい関係。


 王都とは違う。


 役割ではなく。


 結果で判断される場所。


 ならば。


 やることは、ひとつ。


「……この領、全部見せて」


 私は、まっすぐに言う。


「どこがどう壊れてるのか、全部知りたい」


 カイルは、数秒だけ私を見た。


 そして。


「いいだろう」


 短く答える。


「ただし」


 一歩、近づく。


 その視線は、鋭いまま。


「中途半端なら、切り捨てる」


 はっきりと。


 告げる。


 私は、その言葉を受け止める。


 そして。


 静かに、頷いた。


「問題ないわ」


 迷いはない。


 もう。


 引き返す道は、ないのだから。

第16話まで読んでいただきありがとうございます。


ここから第2章に入り、

ついに新キャラ「カイル」が登場しました。


主人公の理論と、

現場の現実がぶつかることで、

物語が一気に動いていきます。


ここからは「できること」だけではなく、

「通用しないこと」も描いていきます。


続きが気になったら、

ぜひブックマークしていただけると嬉しいです。

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