第7話 桜の下の完璧な答え
3月は南からの暖かい湿った風を東京湾から運び、目黒川の両岸で冬眠していた木々の芽を呼び覚ました。2025年の春が到来し、小雨の後にハラハラと舞い散る桜の花びらが、首都を穏やかな薄紅色に染め上げていた。
クリスマスイブの夜、そして初詣での正式な告白を経て、ハルトとフユカは正式に恋人同士となった。この3ヶ月間、ハルトの時間は「フユカ」という名の輝かしいフレームでほぼ埋め尽くされていた。
二人は数え切れないほどの穏やかなデートを重ねた。品川のマクセルアクアパークで幻想的なブルーの照明の下を手をつないで歩いたり、日曜の午後に渋谷の映画館で肩を寄せ合って映画を見たり、春先の暖かい日差しを浴びながら代々木公園をのんびりとサイクリングしたりした。フユカはいつもそうだった——美しく、従順で、輝いていた。彼女は常に適切なタイミングで微笑む術を知っており、いつも耳に心地よい言葉をかけ、別れ際には必ず腕を回して抱きしめてくれた。
表面上、ハルトは夢の中に生きていた。命と引き換えに見つけ出したのだと常に自分に言い聞かせてきた、平穏な安息の地。人混みを抜ける時に彼女が自分の背中に身を隠す仕草を愛し、守られるべき彼女のその弱さを愛していた。
しかし、最もありふれた日常生活の中で、目に見えない静寂な瞬間がふと過ぎ去ることがあった。
六本木のレストランで夕食をとっていたある夜、ハルトは皿の上の料理をぼんやりと見つめ、新しいデザインプロジェクトの重圧に疲れ果てたため息を漏らした。彼は行き詰まりについて、ここ数日彼を疲弊させている創造力の悪循環について語った。
フユカはナイフとフォークを置き、首を傾げて優しく微笑んだ。彼女はそっと手を伸ばし、彼の手の甲を軽くポンポンと叩いた。「ハルトくんはいつも頑張りすぎだよ。自分を追い詰めないで、きっと全部うまくいくから。あっ、今週末、表参道に新しくできたショートケーキのお店に行ってみない?最近すごく話題になってるみたいなんだ!」
その笑顔はとても美しく、その言葉はとても甘かった。ハルトは彼女を見つめ、デザインについて何か言い足そうと唇を微かに動かしたが、結局言葉を飲み込んだ。彼は頷き、微笑み返した。「うん、週末連れて行くよ」
ハルトは自分に言い聞かせた。フユカは純粋で脆すぎるから、自分の仕事の暗く息苦しい部分を背負わせるべきではないのだと。自分の使命はその笑顔を守り、彼女のために悩みのない世界を保つことだ。そうして彼は、自分だけの疲労を静かにしまい込み、頼りがいのある大人の男を演じ続けた。
その「平穏」とは全く対照的に、オフィスでのハルトの世界は「ナツミ」という名の騒がしい混沌だった。
春になっても、企画部のこの口うるさいおばさんの「ハリネズミ」のような気性は少しも和らいでいなかった。ナツミがハルトの机に書類の束を叩きつけたり、デザインのカラーコードについて口論したり、真夜中にLINEで彼の名前を呼び立てたりする頻度は増すばかりだった。
「あんたのこのデザイン、失恋して居眠りしてる奴が作ったみたいじゃない!この角の丸み、今すぐ直しなさいよ!クライアントが求めてるのは柔らかさであって、見る人の目を突き刺すようなこんな鋭い角じゃないのよ!」
ハルトは頭を掻きむしり、鋭い皮肉で反撃した。二人は15分ほどギャーギャーと言い争い、お互いの美的センスをこき下ろした。最後にナツミは腹を立てて、キンキンに冷えた缶コーヒーを彼の机に「ドンッ」と叩きつけ、踵を返して立ち去った。ハルトはブツブツと文句を言いながらコーヒーのプルタブを開けて飲み、そして彼女が怒鳴り散らした通りに、こっそりとデザインを修正した。
二人の間には、慰めも、甘い言葉もなかった。あるのは、むき出しの反論だけだった。しかし、その荒々しさの中でこそ、ハルトは最も自由に息を吐き出すことができた。ナツミの前では疲れを隠して無理に強がる必要がなかった。彼女の前では、気難しく、だらしないデザイナーのまま、机に突っ伏して大きなあくびをしても構わなかった。
3月最後の週末、目黒川の両岸で桜が満開になった。お花見のフェスティバルには何万人もの人が押し寄せていた。
フユカは清楚な桜柄のフレアワンピースに薄手のカーディガンを羽織り、舞い散る花びらを防ぐために透明な絹の傘を持っていた。道行く人の多くが思わず振り返るほどの美しさだった。ハルトはピクニックバスケットを提げて彼女の隣を歩き、人混みが彼女にぶつからないよう、体を盾にするために慎重に半歩下がって歩いた。
二人は古い大樹の下に空き地を見つけた。春風が吹き抜け、息を呑むほど美しい桜吹雪が舞い散った。
フユカはレジャーシートに膝をつき、慎重にピクニックバスケットを開け、小さな花柄の風呂敷に包まれた二段の弁当箱を取り出した。彼女は恥ずかしそうに彼を見上げ、両頬をピンク色に染めた。「これを作るために、今朝は5時起きだったんだ。ハルトくんの口に合うといいな」
ハルトは蓋を開けた。中には黄金色に輝く卵焼きと、ウサギの形に丁寧に握られたおにぎりが入っていた。彼女のその細やかな気配りを見て、ハルトの心に柔らかな温もりがこみ上げた。
「すごく美味しいよ」ハルトは一口かじり、微笑んで彼女の頭を撫でた。「ありがとう、フユカ。朝早くから大変だったね」
フユカは目を細めて笑い、幸せそうに彼の肩に頭を乗せた。その光景はあまりにも甘く穏やかで、ハルトはこのまま永遠にこの瞬間に時間を止めてしまいたいとすら思った。これこそが自分の帰る場所であり、何回もの輪廻を犠牲にしてでも守り抜こうとした、ささやかな幸せなのだと、放浪の浪人は心の中で呟いた。彼は彼女の手をそっと握りしめ、この女の子をさらに愛さなければならないと自分に言い聞かせた。
食べ終わると、フユカは嬉しそうにスマホを取り出し、ポーズをとるのに忙しくなった。
「すごく綺麗だね、ハルトくん?こっちに来て、一緒に写真撮ろう!」
ハルトは甘やかすように微笑み、少し身を寄せてレンズの前でピースサインを作った。撮り終えると、フユカはすぐに画面に顔を落とし、SNSに投稿するためにフィルターを選び、明るさを調整する作業に没頭した。
ハルトは黙って隣に座り、彼女の横顔をじっと見つめていた。騒がしい人混みの中でも、フユカは胸が痛むほど儚く、静寂な雰囲気を保っていた。
しかし、その最も満ち足りているように見える瞬間の只中で、目に見えない虚無感がふと彼の脳裏をよぎった。
「ねえ、フユカ」ハルトは突然口を開いた。その声は低く、少しどこか迷子のような響きがあった。「君は……たくさんの人に囲まれていても、心の奥底では自分がここに属していないって感じること、ある?まるで……自分の魂が別の次元を彷徨っているような」
それは突発的な問いかけであり、前世の夢を見るようになって以来、時折彼の中に湧き上がる理由のない浮遊感だった。
フユカは桜の画面を見るのをやめた。顔を上げて彼を見ると、その大きな丸い瞳は優しさに溢れていた。彼女はそっと手を伸ばし、その柔らかい指を彼の手と絡ませた。
「それは、ハルトくんの魂がいつも安息の地を探して寂しかったからだよ」フユカは綿菓子のように甘く微笑み、彼の肩に頭を寄せた。「あなたが話してくれた前世の夢の中で、その旅人さんは吹雪の中を一人で彷徨わなきゃいけなかったんでしょ。でも、あなたはもう迷子じゃないよ。私を見つけてくれたんだから。その空っぽな気持ちは、私の愛で全部埋めてあげるね」
その答えは完璧だった。非の打ち所がないほどロマンチックだった。それは、どんな男でも彼女から聞きたいと願う言葉だった。
しかし、ハルトはただ微動だにせず座っていることしかできなかった。彼女の言葉はとても美しかったが、それはガラスの表面を滑り落ちる水滴のように彼の魂を滑り抜け、内側へと浸透することはなかった。彼女は、輪廻によってすり減った魂の苦痛や疎外感を、現在の恋愛をピンク色に彩るための素材へと変えてしまったのだ。彼女はその物語のロマンチックな空想を愛してはいたが、彼の中にあるむき出しで重苦しい深淵には全く触れることができなかった。
「うん」ハルトは小さく頷き、微笑み返したが、その視線は静かな川面へ向けられていた。「ありがとう」
彼は彼女の手を軽く握り直した。フユカは純粋すぎて、あんな暗い隅々のことまで理解させるべきではない。彼は自分自身の疲労をしまい込み、これからも頼れる男を演じ続けるよう、静かに自分を納得させた。
日曜日の夜9時。
フユカを家まで送り届けた後、ハルトは午後から滞っていたデザインの図面を仕上げるため、オフィスに立ち寄った。
企画部のエリアでは、一本の蛍光灯だけが微かに光っていた。プリントされた資料や紙のコーヒーカップが散乱する散らかった机の上に、うつ伏せになって熟睡している人影があった。
ナツミだった。
彼女はシンプルなグレーのTシャツを着て、髪はボサボサに乱れ、片方の頬を書類の束に強く押し付けているせいで唇が少し尖っていた。寝息は規則的で、時折微かに唇を鳴らす音が混ざっていた。
ハルトは立ち止まり、呆れたように小さく首を振った。本当に仕事中毒のおばさんだ。こんな風に寝ていたら、明日は絶対に肩こりを理由にまた自分に文句を言ってくるに違いない。
彼は机をノックして彼女を起こし、家に帰るよう促そうと歩み寄った。その時、ハルトの視線が不意に止まった。ナツミの乱れた茶色い髪に、儚い桜の花びらが一枚、引っかかっていたのだ。
完璧主義症候群を患うデザイナーにとって、その花びらが髪にポツンと乗っている様子は非常に目障りだった。ハルトはため息をつき、同僚に対する無意識の片付けの反射のように、自然と手を伸ばしてその花びらを摘み取って捨てようとした。
しかし、彼の指先がナツミの髪をかすめ、花びらを取り除いたまさにその瞬間、ナツミが突然寝返りを打った。
彼女は目を覚まさなかった。寝ぼけた状態のまま、机の上に置かれていたナツミの右手が突然開いた。彼女の人差し指が微かに持ち上がり、そして木の机をトントンと弱々しく三回叩いた。
トン…トン…トン…
途切れ途切れの、ゆっくりとした三回の響き。
空間のあらゆる動きが凍りついたように思えた。
ドクン。
ハルトの胸が突然、短く脈打った。神経を小さな電流が走ったかのような感覚だった。知らせてくれる心の羅針盤はない。ただ理由のない波紋、何だか見覚えのあるものが、彼自身もはっきりと認識できないほどの速さで潜在意識を駆け抜けたのだ。
ハルトはナツミの指を驚いたように見つめ、そして顔をしかめ、小さく首を振った。彼の誇り高い理性の壁が即座に自動的に立ち上がり、その奇妙で動揺する感覚を打ち消した。
「本当にどうしようもないな」ハルトは呟き、素早く二歩後ずさりした。「居眠りしながら指で机を叩くなんて、きっとデザインの締め切りに追われる夢でも見てるんだろう。ここまで仕事に憑りつかれてるとは、お手上げだよ」
彼は煩わしさを追い払うように手を振り、桜の花びらをゴミ箱に捨てると、踵を返してデザインルームへと真っ直ぐ歩いていった。
椅子に座ると、ハルトはすぐさま、午後にフユカと一緒に撮った写真が入った小さな写真立てを手に取って見つめた。写真の中の女の子の輝くような笑顔が、先ほどの戸惑いを瞬時に打ち砕いた。朝の卵焼きの甘い味が、まだ唇に残っているように感じられた。ハルトは微笑み、自分に言い聞かせた。これこそが僕の現実だ。いつも僕の方を向いてくれる、優しい女の子。ナツミのあの細々とした癖なんか、職業病を患ったおばさんの馬鹿げた兆候に過ぎないんだ、と。
彼はイヤホンをつけ、インストゥルメンタルの曲を流し、再び仕事に没頭して、ナツミのことを頭から完全に消し去った。
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