第11話 九度目の吹雪
北風が渋谷の高層ビル群を通り抜けて咆哮し、厚い雪の波を顔に直接叩きつけてきた。気温は氷点下まで下がっていた。首都・東京全体が真っ白な霞の中に沈み、まるで巨大な喪服のベールがゆっくりと降りてきているかのようだった。
ハルトは一心不乱に走った。超自然的な力などではない。愛する人を取り戻したいと渇望する、血と肉でできた一人の人間の強烈な衝動に突き動かされて。止まった電車の駅を横目に、六本木から渋谷へと続く坂道を、彼はただひたすらに駆け下りた。
ハルトがよろめきながら渋谷のスクランブル交差点に辿り着いた時、吹き荒れる雪の向こうを見て、彼は立ち止まった。前方の歩道の端で、フユカが体を丸め、震える両腕で肩を抱きながら、必死にタクシーを拾おうとしていた。猛吹雪によりすべての交通機関が麻痺し、フユカはここに足止めを食らっていたのだ。
別れたとはいえ、ハルトはまともな男だった。あの女の子が寒さに震えているのを見て見ぬふりなどできなかった。ハルトは急いで横断歩道を駆け抜け、彼女が安全に家に帰れるよう、通りすがりの車を呼び止める手助けをしようとした。
しかし、彼がフユカのすぐそばに歩み寄ったまさにその時、反対側の横断歩道で、ナツミが図面がぎっしり詰まった段ボール箱を抱え、車道に足を踏み出した。
三人。三つの運命の破片。真っ白な交差点で、予期せぬ邂逅を果たした。
キキィーーーッ!!!
耳をつんざくような、身の毛もよだつブレーキ音が夜を引き裂いた。大型の貨物トラックがブラックアイスバーンでスリップしたのだ。車頭が横に回転し、後ろの巨大なトレーラー部分が制御を失い、死神の鎌のように振り回されて、彼らに向かって真っ直ぐに薙ぎ払ってきた。
反応できる時間はコンマ数秒しかなかった。生死の境界線に立たされ、ハルトの中に組み込まれていた「弱者」を保護する本能が自動的に作動した。彼は地面を蹴り、無我夢中でフユカを胸の中に引き寄せ、自分の背中を盾にして彼女を庇った。
しかし、死神はそう簡単には騙されない。トレーラーの速度はあまりにも速く、薙ぎ払う軌道は空間全体を覆い尽くしていた。
闇が二人を飲み込もうとしたその瞬間、ナツミはただ死を待って立ってはいなかった。戦国時代のユキの原始的な犠牲の本能が、彼女の血脈の中で爆発した。ナツミは荷箱を放り投げ、その痩せ細った体全体を前方に投げ出し、ハルトの肩に激しく体当たりをした。超人的な力で、彼女はハルトとフユカの二人を安全な歩道の奥へと突き飛ばしたのだ。
全生命力を込めたその突き飛ばしにより、ナツミはバランスを失った。彼女は仰向けに倒れ、突進してくるトラックの真正面へと真っ直ぐに滑り込んでいった。
フユカは極度のパニックに陥っていた。二人が歩道に転がり込んだ時、彼女は本能的にハルトの腕に強くしがみついていた。しかしフユカはふと気づいた。ハルトの体が今、石像のように硬直していることに。彼の視線は彼女には向けられていなかった。ハルトの瞳は大きく見開かれ、血走って赤く染まり、車道の中央をじっと見つめていた。
そこには、巨大な鉄の塊の鎌から逃れられないと悟り、全くの無意識のうちに雪の上に膝まづいているナツミの姿があった。彼女は痩せた両腕を胸の前で交差させ、少し肩をすくめて気丈に構え、死を迎え入れるために目をぎゅっと閉じていた。
(無音)
東京の街のすべての音が、突如として消え失せた。
ハルトにとって、時間は永遠に引き延ばされたように感じられた。胸の前で腕を交差し、膝まづいて死を待つその姿勢……それはまさにユキの姿勢だった。彼が愛した貧しい少女が、あの年の雪の村で、子供たちを自分の体で庇った時の姿と全く同じだったのだ!
ドーン!
轟音を立てるような爆発が、ハルトの精神全体を崩壊させた。記憶の封印の鍵が打ち砕かれた。まさにその瞬間、狂乱したようなフラッシュバックが押し寄せ、あの面影を探し求めてきた千年の苦難の旅のすべてが巻き戻された。八度の人生が、刃のように鋭く、彼の魂を真っ直ぐに切り裂きながら脳裏を駆け抜けた。
ザクッ。第一の人生。戦国時代の吹雪。無情な槍が、まだ妻にする暇もなかった愛するユキの胸を貫くのを見た。冷たい鋼の刃の上で、彼女の血が彼の血と混ざり合った。息を引き取る前の彼女の輝く笑顔が、彼を九度の誓いに永遠に釘付けにした。
ザクッ。第二の人生。アーサー男爵だった彼は、実の妹であるエレノアがウェディングドレスを着て別の男の隣を歩くのを無力に見つめていた。輪廻の禁忌ゆえに、名付けようのない痛みが彼を引き裂いた。
ザクッ。第三の人生。商人のレオだった彼は、17世紀の新大陸で移民の波の中を狂った獣のように駆け回った。通り過ぎる女性の服を掴み、顔の見えない影を探して泣き叫び、最後はニューヨークの港で、車椅子に座ったまま絶対的な孤独の中で息を引き取った。
ザクッ。第四の人生。パリの施療院。生まれたばかりの赤ん坊ルイの産声が上がったその時、外の廊下では、名もなき浮浪児の少女の遺体を乗せた担架が通り過ぎていた。極限の皮肉。
ザクッ。第五の人生。医師のトーマスだった彼は、毎日絶望しながら植物状態の女性患者のベッドのそばに座り、一度も返事をもらえないまま、彼女の心音の停止を沈黙の中で聞いていた。
ザクッ。第六の人生。19世紀初頭のアメリカ。マックスという名の金色の犬だった彼は、狂ったように吠えながら馬車から飼い主のクロエを突き飛ばし、告白の言葉も言えないまま骨を砕かれた。
ザクッ。第七の人生。レオンだった彼は、混雑する香港の交差点で彼女に気づいて心臓を痛めた直後、致命的な心臓発作で即死した。
ザクッ。第八の人生。青年のカイトだった彼は、ボケたチヨおばあちゃんがベッドの上で最後に「龍馬」と呼んで目を閉じた時、花束を抱えて静かに涙を流した。
そして、すべての死、すべての残酷なすれ違いを突き抜け、最後にハルトの脳裏に叩きつけられたのは、今日の午後のナツミの輝くような笑顔だった。彼女は背伸びをして、彼の襟を丁寧に直し、その明るい瞳には絶対的な寛容さを湛えて言ったのだ。
「絶対に彼女を幸せにするのよ、このバカ」
その「バカ」という言葉が耳をつんざくように響いた。八度の人生!八回も彼女を失った!そしてどの人生でも、彼女は彼を守るために、自ら死を受け入れ、自ら不利益を被ってきたのだ。今日の彼の臆病さが、もう少しでこの九度目の人生を、あの忌まわしい過去の過ちと全く同じように繰り返させてしまうところだった!
「うぉぉぉぉ!!!」
ハルトは咆哮した。追い詰められた野獣のように喉を引き裂くような咆哮。その叫びには、神々への怒りと、自分自身への絶対的な憎悪が込められていた。
こんなこと、二度と絶対に起こさせてたまるか!
俺は八度も彼女を失ったんだ!今回は、たとえこの魂を砕くことになろうとも、絶対に彼女を救ってみせる!
ハルトはフユカを振り返った。そこに冷たさはなく、ただ極限の決意に満ちた眼差しがあった。彼は断固として、自分のコートを掴む彼女の震える手を振り解いた。フユカは雪の上に座り込んだが、彼女は恨み言も言わず、嫉妬もしなかった。
ナツミのために一千分の一秒の躊躇もなく死地へと突き進むハルトの背中を見た瞬間、レストランでの別れの際のすべてのパズルピースが突然完成した。彼女は理解したのだ。これは裏切りなどではない。誰の介入も許さない、偉大な運命なのだと。この男は、ガラスの檻の中で自分を庇うために生まれたのではなく、彼の人生の炎のために死ぬために生まれたのだと。フユカは後ずさりし、目の前の悲壮な光景にボロボロと涙を流しながら、震える手で絶望的に救急車を呼び、生死を分かつ戦場を、本来属し合うべき二つの魂に譲り渡した。
ハルトの目は血走っていた。彼は肉体のあらゆる物理的限界を無視した。両足のかかとでブラックアイスバーンをひび割れるほど強く蹴りつけ、弾丸のように車道へと逆戻りした。
巨大な鉄の塊であるトラックがナツミの小さな体にあと数センチで迫ったその瞬間、ハルトが飛び込んできた。彼は彼女をきつく抱きしめ、空中で鋭く半回転し、断固として自分の広い背中を生きる盾とした。
ドーン!!!! バキッ!
骨が砕ける鈍い音が乾いた空気に響いた。何トンもの金属の塊がハルトの背中を直撃した。その恐ろしい衝撃でハルトとナツミは空高く跳ね上げられ、十メートル以上も吹き飛ばされて、歩道の端にある分厚い雪の山にドスンと落ちた。
白い雪が、枯れた花びらのように飛び散った。濃い真紅が滲み出し、凍てつく空間の一角をゆっくりと赤く染めていった。
凍てつく雪の下で、ナツミはゆっくりと目を開けた。
彼女は無傷だった。ハルトの頑丈な腕が、彼女を守る完璧な繭を作り上げていたのだ。しかし、顔を上げた時、彼女の心臓は止まりそうになった。ハルトの顔が彼女の首筋に密着していた。彼の額、鼻、そして口の端から大量の血が噴き出し、ポタポタと滴り落ちて彼女の薄いセーターを血濡れにしていた。彼の呼吸は、ヒューヒューと鳴る虫の息に過ぎなかった。
「ハルト…?班長?あんた…頭おかしいの?!」ナツミは極度のパニックに陥った。彼女は慌てて震える両手を彼の頬に添え、視界を遮る血をどうにか拭き取ろうとした。
彼女の手が、うっかり熱い血の上を滑った。凍てつく雪の中の、鮮やかな赤い液体の温かさが、指先からナツミの脳へと直接駆け巡った。
パリンッ。
千年の忘却の封印が打ち砕かれた。
ナツミの瞳孔が見開かれた。何万もの情景が彼女の心に怒涛のように押し寄せてきた。槍に胸を貫かれて崩れ落ちるユキとしての自分が見えた。金色の犬の亡骸を抱いて泣き叫ぶクロエとしての自分が見えた。目を閉じ、最後に彼の名前を呼ぶチヨおばあちゃんとしての自分が見えた。
「あああああ!!!」ナツミは天を仰いで絶叫した。魂を引き裂き、天を突くような慟哭。涙が止めどなく溢れ出した。彼女はぐったりとしたハルトの体をきつく抱きしめた。「バカ…!なんでどの人生でも、あんたはそんなにバカなのよ!ハルト…龍馬…マックス…!なんでいつも一人で耐えてるのよ!なんで私に隠してたのよ!」
ハルトは動かなかった。背骨の一つ一つが砕け散ったようだった。しかし、ナツミが前世の名前を次々と口にするのを聞いて、彼は知った……あの女の子が、ついにすべてを思い出したのだと。
血を流すハルトの口角がわずかに上がった。彼は激しく咳き込み、新鮮な血を一口吐き出したが、それでもいつものからかうような笑みを無理やり作って見せた。
「チッ…今の俺……すっごく惨めだろ、おばさん?」彼の声は掠れ、霧のように儚かった。「せっかく買った……6万円のトレンチコートが……ズタボロになっちまった……もったいねぇ……」
「この狂人!こんな時に破れたコートを惜しんでる場合?!」ナツミはむせび泣き、彼女の涙が彼の額の血と混ざり合った。「喋らないで!体力温存して、もうすぐ救急車が来るから!絶対に目を閉じちゃダメ!」
「ゴフッ……俺だって……こんなボロボロになりたくなかったさ……」ハルトは微笑んだ。彼の目の焦点は徐々に合わなくなってきていた。いつもの傲慢な殻が剥がれ落ち、放浪の浪人はその弱さと未練を完全に曝け出した。
「俺は……九回も駆けずり回るのに、もう疲れ果てたんだよ、ナツミ……。今回は……君を見つけたら、やっとゆっくりできると思ってたのに……もう少し生きたかったな……君の作った焦げた飯が食べたい……毎日君に怒られたい……」
熱い涙が一滴、ハルトの目尻から転がり落ちた。「まだ……春の桜も見せに行ってないのに……なんで神様はいつも俺たちをからかうんだろうな……やっと少し触れ合えたと思ったら……また引き離す……」
ナツミの心は粉々に砕かれるようだった。彼女は何度も首を振り、血でべっとりとした彼の髪を撫でた。「からかってなんかいないわ!今世はもう絶対にすれ違わない!春になったらお花見に連れてって!オフィスのヒーターだってあんたに譲るから!お願いだから……行かないで……」
「本当か……?」ハルトは弱々しく口を動かして笑った。「じゃあ……耳の後ろ、掻いてくれよ……あの金色の犬だった頃の感覚が……無性に恋しいんだ……」
ナツミは声を上げて泣きじゃくった。しゃくりあげながら、震える指を彼の耳の後ろに入れ、遠い昔の冬の夜に犬のマックスを慰めた時と全く同じように、優しく掻いてやった。
「いい子ね……キャンキャン吠えるんじゃないわよ、バカ犬……早く吠えて私に聞かせなさいよ……」ナツミは泣き叫んだ。
そのかけがえのない優しい愛撫の下で、絶対的な平穏がついにハルトの魂に舞い降りた。彼は最後の浅い息を吸い、残されたわずかな力を振り絞って血まみれの指を伸ばし、彼女の頬にそっと触れた。
今度こそ、彼は一文字一文字をはっきりと絞り出し、吹雪の中心で響き渡らせ、神々にも証人とならせた。
「俺は……君を見つけたぞ……ナツミ……愛してる」
ナツミは彼の冷たくなった手をきつく握りしめ、自分の唇に押し当てた。彼女は何度も何度も頷き、嗚咽するたびに感情が溢れ出した。
「受け入れる!全部思い出した!私も受け入れる!私も愛してる、ハルト!」
カーーーン。
ナツミの同意の言葉が発せられたまさにその瞬間、虚無からお寺の鐘のような澄み切った響きが空間を打ち抜いた。二人の魂を縛り付けていた九度の契約が、正式に完了したのだ!
ハルトの手がゆっくりとナツミの頬から滑り落ち、真っ白な雪の上に力なく落ちた。彼の目は固く閉じられた。からかうような笑みは薄れ、そして冬の寒さの中で凍りついた。
一千年もの間、苦痛に満ちた鼓動を打ち続けて疲れ果てていた、恋に狂った放浪の旅人の心臓は、正式に止まった。
ハルトは臨床的死の状態に陥った。
「いや……ハルト……ハルトォォォ!!!」
ナツミの狂乱した叫び声が渋谷の交差点に響き渡った。遠くで、救急車のサイレンが夜を引き裂くように鳴り始めた。
別の次元の空間で。
ハルトは目を開けた。彼の周りには吹雪もなく、寒さもなく、痛みもなかった。ただ、見渡す限り真っ白な空間が広がり、静寂で穏やかだった。
お読みいただきありがとうございます!
次話は明日19時20分に更新します。
ブックマーク・★評価・感想、いつでもお待ちしています。
次回、最終話です。




