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完全無欠のお嬢様

 いきなり俺の命を頂戴すると物騒な言葉を吹っかけてきたお嬢様。彼女の名前は五千院星花(ごせんいんせいか)。五千院財閥の令嬢にして次期当主と目されている才女でもある。それでいて容姿端麗、品行方正、誰にでも優しい正真正銘のお嬢様と言える。

 彼女は元々お嬢様学校と名高い私立の名波雁(なばかり)高校に通っていたのだが、どういう風の吹き回しか高校二年生の二学期に突如俺の通う公立高校へと転校してきたのだった。


 五千院財閥のご令嬢が転校してくる噂は瞬く間に全校中に広がり、教師をも巻き込んで一大騒動となった。かく言う俺等のような一般生徒ですら五千院財閥のことは知っていたので教師たちからしたら尚更戦々恐々であろう。事実夏休み中は彼女の件で教師全員を集めて連日対策会議をしていたらしい。

 校長以下教師全員をここまで震え上がらせるご令嬢とは一体どういう人物なのか。怖いもの見たさが勝ってしまう。だが、そんな呑気なことを考えていられたのも束の間のことだった。


 ……………………………………………………


「………皆、心して聞いてほしい。恐らくは夏休み前から噂で聞いていると思うが、今日からうちのクラスに転校生が来ることになった。……五千院財閥のご令嬢である五千院星花さんだ。くれぐれも粗相のないよう皆よろしく頼む」



 強面で通っている我がクラスの担任が震える声でクラスの皆に告げた。普段であれば体育会系のノリで無駄に暑苦しい担任が借りてきた猫の如く萎縮(いしゅく)している。それだけ五千院財閥の威光は恐ろしいと言うことか。

 俺も含めたクラス全員が固唾を飲んで待ち受けていると、教室のドアがゆっくりと開け放たれた。そして悠然と一人入ってきたのは…メイド服の女性だった。此処でクラス全員がズッコケそうになった。



「誰!?」



 クラス全員がほぼ同じタイミングで突っ込む。メイド服の女性は全員のツッコミを無視すると未だ萎縮している担任へ一礼した。そして開け放たれた教室のドアの方を向く。



「お嬢様、お待たせしました。どうぞお入りください」



 メイド服の女性の言葉を受けて、我が校の制服を来た女子高生が一人教室へ入ってきた。今度こそ本物のようだ。スラリとした体つきにサラサラのロングの黒髪、上品でバランスの整った顔立ち、此処に来るまでの所作すべてに品の良さが出ている。クラス全員が見惚れるほどのオーラが全身から滲み出るほど、彼女は完全無欠のお嬢様と言えた。



「先生からご紹介に預かりました五千院星花と申します。クラスの皆様、どうか今後ともよろしくお願いいたします」



 星花は深々と頭を下げた。それにつられてか俺も含めたクラス全員が立ち上がり、同じように彼女に向かって頭を下げる。何とも変な光景だが、僅かな時間で彼女は我がクラスを完全に掌握したようだった。



「五千院星花さん、これからどうぞ、よろしくお願いします。敬語とか全然大丈夫なので仲良く行きましょう。早く学校に溶け込めるようクラスの皆を紹介しようと思います」



 一人の女子生徒が星花の前に出ると、ハキハキとした声で自己紹介を始めた。彼女の名前は長良柚美(ながらゆずみ)。我がクラスの学級委員長であり、学年トップの成績を誇る才女である。それでいて自身の優秀さを鼻にかけず、誰にでも平等に接する優しさを持つ。星花とは違ったベクトルで柚美もまたハイスペックの持ち主と言える。

 ……いや違った。誰にでも優しいと言うのは嘘だ。一人だけ優しくない人間がいた。ま、それは追々話すことになる。


 ともかく柚美の勧めでクラス全員の自己紹介が始まった。が、五千院星花のオーラに圧倒されたのか大半のクラスメイトは萎縮しながら当たり障りのない紹介に終始している。気づいたら次は俺の番になっていた。



「では次。黒井君、お願いします」



 柚美に促されるまま、俺は席を立つと星花に向かって自己紹介を始めた。



「ええと、黒井紋と言います。趣味はゲームとネットサーフィンです。部活は…今のところ帰宅部です。ええと、これからよろしくお願いします」



 我ながらこれ以上ないくらい特徴のない、つまらない自己紹介だと思う。クラスメイトの大半が冷笑を浮かべる中、当の星花の様子だけが他のクラスメイトとは違った。何と言うか俺の名前を耳にした瞬間、明らかに星花の俺を見る眼光が鋭くなった。

 自意識過剰かもしれないが、ある種の殺気のようなものを感じた。殺気…そもそも俺と五千院財閥とは何の縁もないはずなんだが、一体どうしてこうも睨まれるのだろう。


 その証拠に俺の次の番になった時には、星花は最初の柔和な表情に戻っていた。俺だけに明確な敵意を持っているように思う。

 気のせいだよな。何となくだが、勘違いのようなもんだろう。俺はそう思い込むことにした。


 だが、それは大きな間違いだった。俺は星花の本当の恐ろしさをこの身を持って体験する羽目になるのだった。

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