その乙女、暗殺者を迎え撃つ
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本作は「女王による国家運営」と「SF超文明」を組み合わせた戦記ファンタジーです。
内政、外交、巨大兵器、ロボット、戦争などがお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
ゼノは予定をキャンセルしてすぐにユナの元へ向かった。
ユナは相変わらずどこからか取り出した書類をばさっとラウルたちに押し付けると、
「事業計画書はまとめておいたから、質問あれば適宜連絡ちょうだい。うまくいかないことトラブルはあって当然、問題なのはそれを隠すことよ、これは徹底してちょうだい。ミスは罰しないしむしろ報告すべきってことでね」
「は、はいかしこまりました!」
ラウルやエメリッヒは忙しくててんてこまいだが、どこか充実した表情をしている。
「ゼノさん、どうしたんですか? 予定じゃ」
「護、ちょうど良かった。緊急の要件になる」
ゼノが遮音結界を作って二人にガルドからの件を報告する。
「ちょうど良かった。そういう連中の動きが遅いなって心配してたの、ということでゼノ、これを見てちょうだい」
ユナがさっと取り出した書類を見てゼノは卒倒しかけた。
「これは、迎撃プラン!? ですか? いつの間に?」
「まだ追加情報が来てから詰める部分はあるけど、今回はここで迎え撃ちます。大丈夫、シバタがいてくれるから」
「絶対に守るから。そうしないと、おやつ抜きにされる」
「まったく護も腕は上げてきたとはいえ油断はするな?」
「おう」
ゼノは改めて戦慄を覚えていた。
” ユナ様の機動要塞という能力、どこまで未知数なのだ。
恐るべきは火力や未知の新兵器よりも、この知性的な対応能力強化? そもそもユナ様の能力?
しかしこの計画、恐るべし。どんな相手であろうと、これでは
”
ゼノは襲撃予定が明日の朝に迫ったこの状況でも、どこか好奇心を抑えきれずにいた。
◇
王城エリアの隅にちょっとしたお茶会用の建物がある。貴族の御婦人や令嬢たちが王妃と親睦を深めるために用意されていた建物だ。
二階建てでステンドグラスから差し込む陽光が気持ち良いが、外から見られたくないという意見を採用しているため天窓にも色ガラスが使われている。
そのため密室性が高く、内緒話もしやすい空間となっていた。
今日はユナが親密にしている使用人や庭師などを招いて労う会となっており、ユナと護、ゼノの3人で椅子の配置などについて準備していた。
その時だった、乱暴にドアが開けられるとぞろぞろ黒いローブやマント姿の男たちが押し入ってくる。
「あいつが女王だ、3人とも始末しろ」
リーダー格の男が命じると部下たちは一斉に短剣などを抜いたところで、ふらりと膝をつく者が現れた。
それは次々と、全員が立っていられず崩れ落ちるように荒い息をしてユナ女王を睨みつけていた。
「がぁ! はあはぁ! 麻痺や毒、多くの異常耐性防御の、まどうぐは、つけてきて……」
ばたり、次々と意識を失い。そして全員が昏倒する。
『 空調システム起動、酸素濃度通常に戻ります 』
ユナたち3人はいつの間にか口に咥えていた金属製の筒のようなものを取り外す。
「そうね、これはどんな状態異常魔法でもないのよ。酸素濃度をちょっといじっただけ。生体反応はあるわよね?」
『 はい。全員意識を消失していますが、体内酸素飽和度正常値に戻っています。この時点で後遺症の心配はありません 』
「大丈夫みたいだから、シバタとゼノはこいつらを拘束してちょうだい」
「ユナはいつもえげつねえな」
「知的に処理って言ってほしいわね」
「! ユナッ!」
護は咄嗟にユナを抱えるとステンドグラスを突き破って外へと飛び出たのだ。
「ちょ」
すっと地面にユナを降ろすと、そこには体格の大きい眼帯の男が一人。
「ほう、俺に気づくか。獣並みの感覚だな」
「ユナは下がってて、俺が守る」
「シバタ!?」
お揃いの制服の背中に背負っていた大太刀をすらりと引き抜く護。
いつの間にか傍に来ていたゼノがユナを後ろに下がらせつつ小さく呟いた。
「闇稼業で有名な男です、たしか名前はベルクト。腕は相当にたちます」
「シバタ、頼むわよ」
「ユナ様、見ていてください。あいつのクラス:守護者の力を」
ベルクトは両手に短剣を持って襲い掛かる。
その容赦のない斬撃を大太刀で弾き、その身体能力を活かしてさばいていく護。
「ちっ! ただのクソガキかと思ったら、なんて動きをしやがる!」
投げナイフを数本放つも護は怯むことなく斬撃のために一歩踏み込んだ。
「なっ!」
投げナイフのダメージは低い。だがそれを知っていても踏みこんでくるのは、重厚な鎧を着こんだ騎士とかそういう連中ぐらい。
だが護に躊躇はない。主の、ユナのための守護騎士として身体能力が上がってきてさえいる。
ナイフが右頬、左太ももをかすめて血が吹き出るが護は構わず彼のためにゼノがどこかから持ってきたという守り刀である大太刀 春暁 を薙ぎ払った。
避け損ねたベルクトの腹がざっくりと裂ける。
「ぐはっ!」
「こ、こいつ! 元Aランク冒険者である俺を圧倒するか! その若さで!」
ベルクトが奇妙な動きを見せる。タンタンタンと妙なステップを見せながら変則的な斬撃で護の体へ切り付ける。
春暁を振るって応戦するも、数か所切り付けられてしまう。
だが、このベルクトの作戦が逆に仇となった。
怯まず引かない護の戦いを手数で圧倒しようとしたのが悪手となり、護の左腕にナイフが突き刺さる寸前、全身に淡い光を放った護は上空から切りかかったベルクトへ向けて体を反転させながら上段振り抜いた。
シュパンッ! 何かが短く弾ける音がして鮮血が庭の芝生を濡らす。
「ぐあっ! があああああ!」
左腕を肘上から切り落とされたベルクトが傷口を抑えながら呻いている。
「そこまでだ!」
「けっ! 終わりなのはてめえだ! って? なん、だと」
そこんは増援で訪れる手はずだったベルクトの仲間たちが二人、縛られ意識を失い寝かされている。
「ほら俺っちがいて正解だっただろゼノ」
「謝礼目当ての飲んだくれめ」
「お、お前は、その剣は、まさか、ガルドか!」
「俺は奴隷制度を廃止してくれた女王様を気に入ってんだよ、それにかわいいしな」
「くっ ごはっ!」
ガルドに気絶させられたベルクト。
「あんちゃん、いい動きだったぜ、早く怪我の手当てをしな。そんなに軽傷じゃないと思うぜ」
「シバタ!」
ユナが膝をついた護を抱きしめた。
「こんな無茶をして!」
「ユナは怪我ない? 大丈夫? 痛いところは?」
「私は大丈夫だよ、君が守ってくれたから」
「そうか、よかった」
満面の笑顔で微笑む護の頭を抱きしめ、ユナは泣いた。
「ありがとうシバタ、もう無茶ばっかりして!」
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