その乙女、奴隷制度を廃止する
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本作は「女王による国家運営」と「SF超文明」を組み合わせた戦記ファンタジーです。
内政、外交、巨大兵器、ロボット、戦争などがお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
「これ以上は無理だ。他で聞くのはあまりおすすめはしないがね、この街にも帝国の間者が多く潜んでるからな。
うちで取引進めたほうが無難だと思うぜ。それより女王陛下はこの金で何をするつもりなんでさ?」
「まず奴隷制度の廃止、
解放された奴隷たちの就職先としての王都西側に広がる森林地帯の開墾事業と灌漑用水路建設による雇用創出、港湾整備、孤児救済といったところでしょうか」
「なっ? 帝国に対抗するために傭兵を雇うとかそういうことじゃないのかい?」
「まずお腹が膨れないと、職がないとみんなちゃんと働かないじゃない?
私はね慈善事業やってるつもりはないの。不当に搾取されてきた奴隷たちにちゃんとした給与を払って仕事についてもらうの。
すると家庭ができて子供ができて、またまた色んな需要や商売が生まれて経済が回るの。
そうしたら税収爆上がりで、お互いwinwinでしょ?
私の基本的スタンスはね、みんなで幸せになりましょう なのよ」
「ほう、これは……」
ここで明らかにグスタフの目つきが変わった。
「なるほど、投資に対する価値を分かっておられる方だということが分かりました。それでこの私にどうしてほしいと?」
「どうしてほしい? おかしな質問ね、グスタフ、あなたはどうしたいの?」
この瞬間、鮮烈な衝撃がグスタフの脳髄を駆け巡った。
蠱惑的な瞳ではあるが、吸い込まれそうなほどに美しい。
それ以上にグスタフにとって驚愕だったのが、いつもは目の奥に見て取れる欲望の影が微塵もないこと。
(本気で国民を救おうとしている。王家秘蔵の品をこうもたやすく手放してもいる)
「もちろん金儲けでございますよ女王陛下」
「良かった。金儲けと素直に口にできる人間は、利益によって信頼関係が築けるから」
「良きビジネスパートナーになりたいものです」
「互いに努力しましょう」
「はっ」
「それで、売却額はいくら?」
「さすがは女王陛下。
ふぅ……50億レーネを出しましょう。これ以上は無理です、ですが条件があります。
そちらの開墾や灌漑などの公共事業はまだまだ人手不足の感が否めません」
「続けてちょうだい」
ユナの優しい声色がグスタフの全身をさらに緊張させる。気迫、覇気、グスタフ自身でさえ理解が追いつかない名状しがたい何かの圧が彼の心を包もうとしている。
だが、それは不快なものではなかった。むしろ……
「こちらで仕事にあぶれた労働者を斡旋しますので」
「その仲介手数料が欲しいとうことね?」
「さすがは陛下」
「ならばこちらも条件を。その際にその者たちが持っているスキルや特殊性などをチェックしてリストにしてこちらに送りなさい。
より適した環境で働いてもらうためにも必要なの」
グスタフは墓穴を掘ったことを痛感した。そのような雑務が増えることは避けたかったが、女王の信頼を得るためにここは素直にのむことにする。
「後は、食料品などはゼノと相談して買い付けてもらって、後は魔石を買いたいの。有用な属性魔石じゃなくてもいいわ。魔力がこもっている魔石であれば買いとるわ。売却代から1億レーネ使ってできる限り買い集めてちょうだい」
「ま、魔石をですか? 水の魔石や火の魔石は有用ですが、他の雑属性の魔石はあまり高値ではなく捨て値で買い取られて積みあがっているのでかなりの量になると思いますが」
「どれくらいで集められる?」
「い、一週間でなんとかしましょう」
「ではその分前払いで」
価値の低い魔石を大量に購入という案件は、基本的にはほとんどない。
グスタフの脳裏に浮かぶのは魔導ゴーレムの開発でもするのか? という疑問。ならば良質な魔石が必須となるし、そのような技術開発をリシュメアがしていたという話は聞いたことがない。
ユナは最後に鉄鉱石や銅鉱石、さらにはあまり値がつかない雑種鉱石という様々な鉱物が入り混じった雑魚と呼ばれている鉱石を大量に買い込んでいく。
結局のところグスタフは、子飼いの職員たちの1人、ベルというまだ若い商人をリシュメアへの連絡要員として派遣することになった。
◇
ユナが農業政策事業の準備をラウルやエメリッヒ他、役人たちに急ぎで準備させている中、王都では国民驚きの政策が発表され大きな騒ぎに包まれていた。
奴隷制度の廃止である。
同時に奴隷商人たちへ通達されたのは、猶予期間の設定である。
一ヵ月以内に廃業届を出して、抱えている奴隷を王国へ引き渡すこと。
尚、猶予期間を過ぎても奴隷売買を行い、奴隷を不当に所持している場合には捕縛し処断を実施する。
保護した奴隷たちは一定期間休養後、王国の開墾や農業、灌漑整備の事業で働いてもらい職を確保。一般的な賃金と当面の食事や宿舎を提供。退職希望者には職業の斡旋も行うという。
多くの関連業者たちが大騒ぎして揉めるだろうとの大方の予測とは逆に、ヴァルダリア帝国軍の矛先になっていること、奴隷市場としては既に赤字ラインとなりつつあるリシュメアから撤退の口実が欲しかった多くの奴隷商人たちは廃業を決意するという流れがあった。
その他、貴族たちにむりやり王国の命令として連れ出されていた一部の部隊が帰還し、再び王国軍として復帰することも決まった。
これだけで300ちょっとだった兵士は3700人程度まで回復することになった。
中でもセコイ侯爵に偽の命令書で出陣させられていたリシュメア騎士団の副団長だったファルベリオスは、騙されていることに気づくとすぐに部隊から離反。彼に従う部下がほぼ全員リシュメアへ帰還した。
こういった潮流の根底には新しい女王様の手腕を見てやろうぜ というリシュメア人らしい好奇心の多い者たちという側面もあったのかもしれない。
ユナの帝国軍撃退から2ヶ月後のこと。
歪みが捻じれると、一ヵ所へ膿が集まり、耐えがたい腐臭を放つようになる。
ある王都の酒場から出てきたのは、くたびれた革鎧を着た酒臭い男だった。
腰には長剣を差し背中は盾を背負っているが、外套を着こんでいるため目立たない。
「はぁ、まったくよぉ。耳にしたからには放っておけねえよなぁ」
その歩き方は見る者が見ればただ者ではないことが分かるほどに、腰を落とした剣の腕がたしかな人物と見えるだろう。
だが、城門にて男は犬でも扱くかのようにしっしっと追い返されたのだ。
「……この俺を誰だと思っていやがる。あのゆう、っておいゼノ!?」
ちょうど王城から出てくる馬車の中に知り合いの顔を見付けた酒臭い男は、思わず馬車を追いかけ追い越し、両手で通せんぼして止めてしまう。
馬が嘶く声が響き、さっと馬車から出てきたゼノはこの無法な所業に怒り気味だ。
「何事ですか!? ……おや? あなたは?」
「やっぱりゼノじゃねえか、ひっさしぶりだなぁ」
「ほう、あのガルドがこんなところで、酒臭いな」
「ちと気になる情報を耳にしたんでな、少し話せないか?」
「どうせくだらない儲け話だろう? そうやっていくら借金を膨らませたんだお前は?」
「いや儲け話じゃない、繋がればいいとは思っているが、えっと馬車の中で失礼するぜ」
「おい」
言うが早いかゼノが止めるのも聞かずに乗り込むと、その座り心地に呆れ気味だ。
「さすがは腐っても王家の馬車だ、座り心地は良いものだ」
ゼノは御者に詫びると出発の合図を出して再び乗り込んだ。
「ガルド、目的地の商会に着くまでの短い時間でいいなら、暇つぶしにお前の与太話を聞いてやる」
「んじゃ単刀直入に言おう。お前さんとこのお姫様じゃなくて、女王様、命狙われてるぜ」
「……詳しく聞かせてもらおうか」
「かくかくしかじかで……」
ガルドは白髪が混じり始めた髪をかき上げながら、自分が見聞きしてきたことを語った。
場末の酒場で飲んだくれていた時、近くの席にいたらガラの悪い連中が話していた内容だった。
その連中にはガルドも見覚えがあり、王都の闇稼業に関わる連中。どいつもこいつも人を何人殺してきたのか分からないほどに濁りきった目をしている。
「つまりだ、地下に潜った奴隷商人や闇稼業の連中が手を組んで陛下を襲撃する計画を立てていると?」
「いや立てているじゃねえ、実行日は既に決まっていて段取りはついているがその役割分担が気に入らねえって話だ。あいつらは音声遮断の魔道具を使ってたが俺にはそういうの効かねえから、お前なら分かるだろ」
「たしかに。じゃあその日時に襲撃があることは間違いないんだな?」
「ああ。そこで俺っちを護衛にでも雇ってくれればよ、その礼金とか」
「いやお前を雇ったら足がつく。だから情報提供者ってことで謝礼はする、だが襲撃者撃退後にだ。
それまでは大人しくしていろ。まったく、かつてはあれほどの……いや語るまい。それとお前のヤサはどこだ? ツナギをつけられるようにしておきたい」
「おう、ここのおかみでツナギはつく」
ガルドに渡されたメモにはある商店の名前が記載してある。抜け目がない、こういう流れまで読んでいたのだろう。
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追伸
母校が甲子園勝ち上がっていてうれしい




