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その乙女、機動要塞 ~転生女王は超文明で滅びゆく王国を救う~  作者: 星乃渚(旧:鈴片ひかり)


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その乙女、黒髪の少年を拾う

 腹の出たエメリッヒ財務相がはぁはぁと息を荒げながら部屋を出ていくのと入れ替わるように入ってきたのは、ユナがシバタと呼ぶ存在だった。


 この世界では珍しい黒髪黒目の少年で、歳の頃はユナと同じ16歳ごろか、


「ユナどうしたの? なんだかお城が慌ただしいぞ」

「しばらく私の護衛で側にいて」

「うん、俺はいつでもユナを守るから」


 シバタは身長が180cm以上あるため、155cmのユナとは身長差がかなりある。侍女たちがシバタを見て手を振っており、その人柄かどこへ行っても好かれるような雰囲気がある。


 涼し気な目元はややタレ目で愛嬌があると言っても良い。


 ユナはそんなシバタの背中をパンと叩くと、くたびれた執務室の絨毯を踏みしめながら自室へ戻ることした。


 シバタはユナの歩調に合わせて今日の訓練であったことを話してくれる。

「それでさ、俺が3人相手に勝ったんだけどあいつらどこかやる気なくてさ、もうすぐ終わりが来るって。終わりってどういうことなんだろうな」


 なるほどそういうことかとユナは立ち止まるとシバタの頭を撫でようとしたが、手が届かない。

 そういう時、シバタはさっと膝をついてにっこり笑う。

「シバタ、大丈夫。終わりそうになったら逃げればいいのよ」

「そうか、それもそうだな」


 撫でられながらカラカラと笑うシバタを見ていると、少しだけ緊張がほぐれる。


 シバタこと、柴田護(しばたまもる)との出会いはユナが10歳の時。

 ゼノと一緒に街へ買い出しに行ったときに、路地裏でぼーっと座り込んでいるところを見付けたのがきっかけだった。

 雨に降られたため、つい早足で歩いている時に出会った二人。


 そこには雨に濡れながら座り込む1人の黒髪、黒目の少年がいる。


 これはユナにとって衝撃だった。

「ねえ、君、日本って知ってる?」

「うん、俺は日本から来たんだと思う」

「思う!? じゃあ記憶が無くなってるの?」

「きおく、うん、少しだけあるけど、でも……」


 そこで柴田護は涙を流した。

 望陀の涙と言っても過言ではないほどに、ぽろぽろと。

 そこでユナはゼノに頼み込むとあっさり了承されたことにも驚いた。


「どうしてゼノはシバタを保護するのを許してくれたの?」


「お嬢様は贅沢をせず、威張り散らさず、いつも皆に優しくしてくれます。使用人一同、あなた様にお仕えできることはこの上ない幸せでございます。

 そんなお嬢様が、今までで初めて我がままをおっしゃった。ならばこれは我がままではないのでしょう。

 これはきっと、願い。

 ならば家臣たる私めはそれに従うが道理。

 さあ、風邪を引いてしまいます、護だったね一緒に行きますよ」


 日本人だから、前世の記憶があるユナにとっては衝撃だったが、見捨てるわけにはいかない。 ”私が守らなきゃ”


 なぜかこみ上げる庇護欲のようなもの。


 シバタはよくユナに懐いた。ゼノに仕込まれて最低限の礼儀作法を覚えたところで、彼には戦闘向きのスキルがあることが判明した。

「王宮の鑑定士に調べてもらったところ、守護者というクラスだそうです。希少でお嬢様の護衛役にはぴったりでしょうし、護もそれを望んでいるようです」


 いずれ護衛を見付けなければとゼノが考えていた矢先だったこともあり、すんなりシバタは受け入れられ、使用人たちとも秒で仲良くなってかわいがられている。


 路地裏にいた少年にしては、擦れたところがなく素直でよく笑うのでユナにとっても癒しになっていた。


 ”日本人であった時の記憶。

 奇怪な戦闘兵器によって蹂躙された日本。

 あの時助けた少女は無事なのだろうか? ハルは……きっと私と一緒にあの時。

 もう私は 優奈 ではなく、ユナ なのだから”


 私室に戻ると、ユナはもしもの時のために用意してあったある洋服を取り出し、意気揚々と未だに着なれないドレスを脱ぎ捨てる。


「ふふふ、いひひ」


 ユナは何もない空間から取り出した姿見で自身の姿を確認する。

「どことなく前世に似てる気もするけど、やっぱりかわいいわぁ自分」


 銀髪のセミロングだが、ハーフツインがよく似合う。

 その優れた容姿は、使用人やわずかな貴族の知り合いや役人たちからも一目置かれるほどで、会ったことはないものの姉たちが嫉妬して嫌がらせをしてきたこともあるらしい。


 だがそんな姉二人は既に毒殺しあって鬼籍に入っている。


「女王陛下、魔石が届きましたがお運びしてもよろしいでしょうか?」


「お願いするわねゼノ」


 ゼノがノック後に入ってきて、思わず魔石が入った木箱を落してしまう。それがつま先の上に落ちて「ぬおおおお!」と悶絶している姿がおかしくて思わずユナは吹き出してしまった。


「じょ、女王陛下!? なんという恰好を!」

「あら、これから女王の服はこれで行くわ。私が女王なんだから、好きなかわいい服着てもいいでしょ?」


「なっなんという、まあそうですね、分かりました。何よりお似合いです」


 ゼノは諦めた様子ではあったが、魔石入り木箱を持ってきたシバタはあっけらかんと微笑む。

「ユナ 似合ってるじゃん」

「でしょ? 前から着たかったの(前世で憧れてた女子高の制服なのだ。ベージュ色のブレザーと臙脂色のチェックスカートがめっちゃかわいいのだ!)」


「うん、着たいのを着るのがいい」

「ってことで君は私の護衛なんだから、これ着るのよ」

「俺? へぇこれかぁ」

「ってここで脱がないの! 自室で着替えなさい」

「おう」

 服を受け取ると、ゼノは興味があるのかついていく。どうやら同じ高校の男子制服のようである。


 部屋で1人になったところでユナは口を開いた。


「さてノルン、帝国軍の侵攻状況を教えてちょうだい」


 『イエスマイマスター 敵軍情報の前に報告すべき事案があります。


 女王に就任したことで、マスターのクラス : 機動要塞 のクラスランクが上がり、フェイズ1 警備室 から、フェイズ2 防衛区画 へレベルアップしました 』


「なんですと!? じゃあ武器いっぱいある? 帝国軍皆殺しにできる?」


 『実績解除された兵器群はありますが、基礎素材、エネルギー源となる魔石などが圧倒的に、大幅に、大量に必要なので製造すら 不可能 です』


「そんな強調しなくても……」


 『現状で可能なことは、防衛区画倉庫へ物資の収納と取り出し、小型ドローンによる情報収集、そしてマスターの武装 PBA-01 ぐらいでしょうか』


「そうかドローン使えるようになったのね。それで状況は?」


 『はい、敵軍はピナス川を渡り明日の朝には王都リシュタール目前のグラスフィール草原へ到着するでしょう』


「明日の朝か、ってもう24時間切ってるのね。今からだと罠を設置するのも無理そう。もらった魔石の質は良さそうだから、簡易地雷なら作れそうだと思ったけど」


 『既に斥候が王都近くで潜伏しているため、設置は不可能でしょう。どう対抗されますか? 尚、機動要塞の疑似人格ユニットノルンこと私は、王都からの退避を推奨します』


「まあそうだろうけど、これって意外と敵には弱点あったりすると思うのよ。私が図書館などで今まで接種してきた数多くの軍記戦記、架空戦記 SF戦記 SFオペラによるとね。

 あちらさんとしては、今回のリシュメア侵攻って、かなり楽で安全な仕事だと思うのよ。


 魔導ゴーレム5機もあれば王都の整備怠ってる城壁なんてすぐに壊せるし、そこから兵士を送りこめばもう、300程度の兵なら犠牲なんてほぼ出ないで勝てるでしょう?」


 『はい。この世界の基本攻城戦術は頑強で最大の破壊力を持つ魔導ゴーレムが同時に複数の城壁を破壊して兵士を突入させるという戦法です。


 なのでこの時点で戦意喪失して降伏や、戦わずして降伏さえありえる状況と思われます』


「まさにそれこそが穴よ。その一点において最大の戦力が最大の弱点になりうるのよ」


 『マスターの意図が分かりません』


「あなたにも分からないの? 超銀河団を支配したという異世界の超銀河帝国の遺産、超次元霊子コンピューターのあなたが?」


 『想定パターンは100数十億以上ありますが、どれを選択してよいか分かりません』


「やってもらいたいことがあるの、PBA-01について、もらった魔石使えば多少の強化できるでしょ?」


 『可能になります。思念イメージ受信、早急に調整に入ります』


「だったら今日はおいしいご飯食べて早く寝ましょう。明日は早起きになりそうだから」


 ユナは寝る前に命令を一つだけ下した。


 いつも通りに行動しなさい


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