その乙女、女王になる
初めまして。ここまで読んでいただきありがとうございます。
本作は「女王による国家運営」と「SF超文明」を組み合わせた戦記ファンタジーです。
内政、外交、巨大兵器、ロボット、戦争などがお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
大陸中央部に位置するリシュメア王国の王都リシュタールは、幸運なことにあまり災害とは縁の薄い土地であり水資源も豊富なことから、昔ながらに穏やかな気風の人間が多い。
だが、それも5年前までの話しであり現在では奴隷制度が復活し、どこぞの誰々一家が奴隷落ちしたという噂が街のいたるところで、井戸端会議のように噂されていた。
路地裏には餓死した死体が転がり、治安の悪化は凄まじく街から逃げ出していく商人や民も多い。
ユナは12歳までこの王都でほぼ庶民と同じ生活をしていたため、愛着もあり親切で気さくな人が多いこの国が好きだった。
だが、この惨状には怒りがこみ上げるばかり。
今ではある貴族が売りに出した小さな別宅の隅で、僅かな使用人たちと一緒に暮らしている。
「ユナ様、実は王宮から緊急の連絡が入りました。すぐに王城へ来てほしいとのこと」
そう告げるのは幼い頃から仕えてくれている筆頭執事のゼノ。
50代だが背筋がピンとしたナイスミドルで凛々しいが教育関連にはとてもうるさく、小言も多い。ではあるが、ユナが心の底から信頼している人物でもある。
「王宮? はて? もしかして王宮は私がこの国の第七王女であることを覚えていたのかしら?」
「そう言ってやりますな。ですが覚悟なさってください、恐らくユナ様が考えているよりも事態は深刻であると思います。神聖ヴァルダリア帝国が我がリシュメア王国への侵攻を開始すると発表したため、主だった貴族やそれに従う騎士団や軍の大半が既に逃げ出しているのですから」
「シバタを連れてっていい?」
「護は騎士団の剣術教練に参加しているはずです」
「そうか、じゃあさっさと要件済ませてから約束してたエリスちゃんとこの宿屋の手伝いに行ってくるわね」
ゼノは答えなかった。
だがユナの表情に僅かな憂いがあるのをゼノは見逃さなかった。それは希望であって、予定ではないと分かっていたのだろう。
以前は美しさと調度品の豪華さが自慢であった王城は閑散としていた。たまに侍女侍従が暇そうに廊下を歩いているだけで、護衛の兵士も少ない。
宰相の執務室へ通されたユナとゼノ。
そこには急遽宰相に任じられた、というよりも押し付けられたラウル宰相とエメリッヒ財務相が待っていた。
「ユナ姫様におかれましてはご機嫌麗しゅう。16歳になられたばかりとは聞いておりましたが、これほどまでにお美しく成長なされておるとは」
エメリッヒ財務大臣は歯の浮くようなというより、やや驚きの目でユナを見ていた。
「たしかに……いえ、ユナ姫様、事態は想像以上に深刻です。
二日後に空位にあった王位につくことが決まっていた、第六王子のデオーチ王子が服毒自殺なさいました。これからの難局を想像するに繊細すぎるデオーチ様では耐えきれなかったのでしょう」
「それはご愁傷様です。まあ私はどの兄上様や姉上様にもお会いしたことがございませんので、なんというか悲しめずにすいません」
紺のドレスを纏っていたユナ姫の放つ近寄りがたいほどのオーラにラウルは気圧されていた。
悲しめなくてすいません という言葉をこの状況で口にできる胆力に驚きを隠せなかった。
「それで事態とはどういったものでございましょう?」
ゼノが助け船を出してくれた。果たしてどちらにだろうと、ユナは横目でゼノを見る。
「実は……王位継承できる人物がもう、いないのです。ユナ姫様を除いて、王族は全滅しました」
「それは大変……え?」
「そのまさかでございます、既に略式ではありますが戴冠式の準備は整っております。ユナ姫様は本日より、第32代 リシュメア王国 女王になるのです」
「正直、断って逃げ出したいぐらいだけど、ここまで末席とはいえ王家の禄を食んできた者として断るわけにはいかぬのでしょう? ね、ゼノ?」
「左様でございますな、ではそのような略式はさっさと済ませて本題を進めてしまいましょう。その方がユナ様らしいかと」
「分かってるわね、ゼノ。じゃあさっさと済ませます、ラウル分からぬことばかりなので頼みます」
「はっ! ではこちらへ」
ラウルとエメリッヒに案内されたのは玉座であった。
そこにはラウルたちの他には誰もおらず、その静寂さと閑古鳥の泣いている玉座はこの国の未来そのもののような気配すら漂っている。
用意されていたお盆の上には、やけに豪華でユナの目から見ても豪華すぎてセンスの悪い王冠がのっていた。
「はい、じゃあ王位継ぎまーす、はいかぶった終わり」
「ちょ、ちょっとユナ様!」エメリッヒが慌てて釘を刺すも、ゼノは涼しい顔でラウルは苦笑しながら王冠を受け取った。
セミロングで輝く白銀の銀髪をハーフツインに結んでいるため、美しくもかわいい美少女女王が誕生してしまったのだとエメリッヒは何とか受け入れようとしている。
それにしても、世が世ならユナを巡って戦争が起きても仕方がないと思えるほどの美貌を備えているため、ラウルは本気で時代の不遇さを嘆いていた。
「ではこれにてリシュメア王国 第32代 女王 ユナ が誕生しました」
「それで? ヴァルダリア帝国軍はどこまで来ているのかしら?」
その切り替えの早さにラウルは舌を巻いた。それはエメリッヒも感じているようで、ユナ以外の王位継承者たちでは得られないような打てば響く感覚に思わず呻き声をあげそうになっている。
「そこまで把握されていたのですねユナ女王」
「女王って慣れないし、この場ではユナでいいわよ。
帝国軍がどれだけの規模か、いつ到着か、我が軍の戦力は? 迎撃するならどこか? もしくは降伏の条件があるのか? などなど教えてほしいわ」
さっそくここでは嫌だとさきほどの執務室に戻りながら、ラウル宰相は現状報告を歩きながら続けるのだった。
「神聖ヴァルダリア帝国軍の軍勢は今のところ 魔導ゴーレムが5機、歩兵約2万。 彼等の要求は、王族の処刑。この際だから条件の詳細を提示しますが、卒倒しないでくださいね、えっと四肢を切り落としての処刑。敵軍の到着時期は不明です、何より人手不足で」
「あらまぁ随分とご丁寧に」
ラウルはユナとゼノの落ち着きぶりに度肝を抜かれていた。
状況を把握できていないという訳ではない。
情報の一つとして受け止めているのだ。この要求を聞いた他の王族たちは皆卒倒するか、泡吹いて錯乱するか、錯乱して周囲の者へ切りかかるなど、多種多様な高潔すぎる反応を示したというのに。
「主だった貴族たちが兵を連れて領地ごと降伏、領地に連れ帰ってしまってから帝国への帰順を示すなど、残った兵の実動数はおよそ300」
「随分残ってくれたわね。ありがたい」
「そう、とらえますか。それでユナ様はどのように対処するのでしょう?」
「まずは情報収集、ゼノ、お願いするわね。それと早くシバタをよこして、あのおばか、どうせどこかで昼寝でもしてるんでしょうけど」
「仰せのままに」
ゼノが素早く立ち去ると、ユナはラウルとエメリッヒを見て頭を下げる。
「どうかこの難局を乗り切るために力を貸してください。私は帝国軍を撤退させることができたら、次にやるべきことは奴隷制度の廃止と農政改革と考えています。
馬鹿貴族たちが重税を課しすぎて、領内の農業が壊滅的な被害を受けてしまっているのは見過ごせません。
すでに改革の準備は進めているから、あなたたちは供出可能な魔石を集めてちょうだい」
「ま、魔石ですか?」
「城内にある魔石でいいわ」
「それでしたら、宮廷魔導士の工房にそれなりの数はありましょうが、半数以上逃げ出しているのでどうなっているか」
「すぐ、今すぐに持ってきて。値打ちがなさそうなという判断はいらない、魔力があるかどうかで判断するの」
「か、かしこまりました」
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