借金王
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本作は「女王による国家運営」と「SF超文明」を組み合わせた戦記ファンタジーです。
内政、外交、巨大兵器、ロボット、戦争などがお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
「まーた言ってるよあのおっさん」
ガルドが酒場で好みの女性冒険者を見かけると、口癖のように言い出す言葉がある。
「元勇者の俺と熱い夜の魔王バトルをしないかお嬢ちゃん?」
「えー自称勇者ってさすがに痛すぎない?」
「釣れないことを言うじゃないか、そんな悪いお口はこの俺が塞いでしまおうっおっと、すいません、ごめんなさい、剣を突きつけないでごめんよ」
切れた女性たちに剣を突きつけられてびびって逃げ帰る姿はもう、酒場の名物のようになっている。
狂化変異トロールの襲撃から数週間。復興は済み、魔導耕運機の活躍もあって開拓開墾事業は順調に進んでいる。
グスタフも王都の変化には驚き、商会支部の人員を増やすなど経済規模が確実に増えてきている。
灌漑事業も鹵獲後に工事用の改造をした魔導ゴーレムによる水路掘りのおかげで進捗状況はかなり良い。
そんなある日、ユナの元へやってきた人物がいる。
「あらガルドさんじゃないですか? トロール討伐時は多くの騎士たちを助けてくれたそうで、ありがとうございます」
「あのユナちゃん、そんなゴミを見るような目で見ないでくれよぉ。おっさんてのはな? 寂しいと死んじゃう生き物なんだぜ?」
「じゃあ地下の隔離部屋で数か月ぐらい閉じ込めてみましょうか?」
「怖いこと笑顔で言うねえこの子はいつも、あはははは」
「なあガルドのおっさん、どうせまた借金の話だろ? 何回目だよ」
「それが違うんだよ、護っち! 今回は確実な儲け話があってだな!」
「毎回言ってないか?」
「そうだ、新しい銃が完成したので試し撃ちしたかったの。あら、あんなところに良い的が」
「ちょ、ちょい待って! わ、分かった! じゃあ給料前借り! ね? それならいいでしょ?」
パンッ! ガルドの耳を銃弾が掠める。
「ひぃ!」
「その前借りも何回めですか? 既に半年分くらい前借りしてませんかね? ね?」
「す、すいませんでしたあああああああ!」
「はぁまったくもう」
「あいつ、あれで元勇者って名乗ってるんだぜ、そこそこ腕の立つ冒険者だったんじゃないかって噂だよ」
「ゼノもどうしてあんな人を拾ってくるのかしら。まあ悪い人では……、あれだけ借金まみれなら悪いか。よしよし仕事仕事」
・
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「兄貴ぃ!」
メイン通りから少し外れた酒場の前でしょんぼり歩くガルドに駆け寄る、快活で元気溢れる3つの足音。
「おう、お前らかなんだよ酒代貸してくれよ」
「兄貴大変です! ここだけの話、バルトの奴が儲け話見つけてきたんすよ!」
「はぁ? あの脳筋が儲け話だ? どうせ詐欺だよ詐欺。俺がどんだけ騙されてきたと思ってんだ」
「それがですね、お耳を拝借 ごにょごにょこしょこしょ」
「なんだと? 王都の地下に未発見のダンジョンだと?」
「このロッコが裏を取ってきましたけど、先々代の時代にちょっとした事件があって封印されてるらしいんですよ! でも兄貴なら! 勇者ならいけますって!」
「お、おう」
ロッコは朗らかそうな剣士で、バルトは大柄で人のよさそうな巨漢の斧戦士。そしてもう一人は小柄で短剣使いのシーフ、ミゲルだ。
「バルトやロッコとつるんでるせいで、俺たちはいっつも3バカとか呼ばれてますがねぇ、兄貴、今度こそ一攫千金狙いましょうや、ぐへへ」
「いいじゃねえか、じゃあ今日は前祝でぱーっといこうぜ」
「「「さすが兄貴!」」」
コツコツコツ……
「何やら景気の良さそうな話をしているようだね、ガルド」
「! て、てめえはドノヴァン! な、なんでリシュメアにいるんだよ!」
「それはあなたが借金を返さず逃げるからだ。さあ利息込みできっちり金貨300枚払ってもらうぞ」
背の高く痩せた男だった。黒い帽子に黒いコート、鷲鼻で目つきが鋭い60才ぐらいの男性。
「お、お前らずらかるぞ!」
「あ、兄貴待ってえええ!」
「ちっあいかわらず逃げ足だけは早いようだが、とりあえず奴が所属しているというリシュメアの女王に謁見を申し込んでみるか」
ドノヴァンは杖をつきながらもしっかりとした足取りで王城へすたすたと向かっていく。ガルドに逃げられたというのに、彼はどこか楽しそうに笑みを浮かべていた。
◇
ガルドの件で謁見というよりも面会を希望してきたのは、北部商業連合の債権回収担当者と名乗ったという。
もしや先王が何かの借金を踏み倒していたとかであれば、念のため話を聞いておかねばとユナはある程度覚悟しながらエメリッヒ財務相とゼノを伴って執務室で面会に応じた。
「ユナ女王陛下。拝謁が叶い恐悦至極でございます」
「ありがとう。お互い時間がない身のようですから、すぐに本題から参りましょう。
「お噂通りの方で安心しました。私はドノヴァンと申すいわば借金回収のための取り立て屋をしております。
闇金などとは違い北部商業連合指定の正規代行業者でございます。
その上で今回女王陛下に拝謁させて頂いた理由は、ガルドという男の借金についてでございます」
「ガルド……彼が借金を? まあ、ありそうというかあって当たり前か」
「はい。既に金貨3000枚を超える借金の返済が済んでいません」
「3,金貨3000枚って 3億レーネ!?」
「そうですね、北部商業連合の主だったザーロ金貨では3億4000万レーネほどになり、さらにこれに延滞分の利息を足すとおよそ5億レーネになります」
「利率については悪質な高利貸しになっていない?」
「はい、商業連合で運用されている共通規格での利率になります。ちなみにガルドは20年ほど利息分をちょっぴり払っては逃げ回っているのです」
「「「……」」」
「今ガルドはこちらで助言役、相談役として仕事をしているとか。なれば給与を差し押さえていただけないでしょうか?」
「それはちょっと無理な相談です。ドノヴァンさん。理由は既に半年分ほど前借りしてるからよ」
「なんと、そこまでの恥知らずであったとは」
「まったくその通りね、ゼノ、今すぐ奴を捕まえてここへ連れてきて。ああ、手足の10本ぐらいなら許可するわ」
「かしこまりました」
「しかしユナ陛下の手腕、我らが北部商業連合にも響いております。新しい女王はお飾りだと思ったら、先々代に匹敵する賢王であると、賢女王ですな」
「ん~ドノヴァンさん、あなた、ちゃんと取り立てする気あるのかしら?」
「ほう、さすがは陛下。実は北部商業連合よりの書状を預かっております。もちろん取り立てはやる気なのですがね、あの男にはあまり期待はしていませんので」
「見なくてもわかるけど、どうせ魔導耕運機を売れっていうことよね?」
「ほう、さすがはユナ女王陛下。いかほどでしたらお売りいただけるのでしょうか?」
「あれってね、特殊な魔道具なのよ。
あの魔導耕運機自体はそうね、希少素材も一部使ってるから一台1000万レーネほどかしら?」
「1000万でよろしいのですか?」
「そうね、充分利益はでるのだけど、問題はそこじゃないのよ?」
ドノヴァンは自分が冷や汗をかいていることにようやく気づいた。
(この娘、なんという頭の回転の良さだ。しかし1000万レーネとは当初の予想価格の半分以下、これは良い商売になるかもしれません)
「きっとあなたはこう思っているのでしょう? 予想の半額以下だと」
「なっ!?」
「いいのよ。リサーチは必要、むしろちゃんとしてくれてありがとう。取引相手としてしっかりビジネスができる相手のほうが信頼に値するもの」
「は、ありがとうございます」
「あれはね、動かすのにちょーっと特殊な加工をした魔石が必要なのよ。動力魔石とでも言うべきかしら?」
「動力魔石、でございますか」
「約一日持つ動力魔石なんだけど、加工したりするのに経費もかかるのよ、なので一つ1万レーネほどしちゃうのよね」
「……はははははは! これはしてやられました。
なるほど、そうなれば北部商業連合はこれからもずっとリシュメア王国から動力魔石を買わなければいけなくなる。
すなわちある程度良好な関係を続けなければいけない。
それは今のリシュメアにとっても価値のある外交実績となりましょうな」
「了解いたしました。それでは魔導耕運機を10台お譲りいただけないでしょうか? 評判次第ではさらに追加注文も。そして動力魔石ですが、そうですね、リシュメアが施した特殊加工は真似しようとしても難しいものなのでございましょう」
「そうね、あれを動かすのだから特殊な、特殊な加工になるのよ」
「分かりました。では動力魔石を1000個購入いたします」
「まいどあり♪ 細かい契約書は後日ということにしましょう」
満面の笑みで握手をするこの美少女すぎる女王に、ドノヴァンは負けた、そう胸に刻むことになった。
「まあガルドについては好きに連れて帰ってちょうだい。あの極潰しにはもうあきれ果てているのよ」
「ほう、あのガルドがこれで大人しく捕まるとお思いで?」
「こっちはノータッチよ、好きに連れていけばいいわ」
「いえそういう意味ではございません、私が言いたいのは奴が撒き散らすトラブルがこれで終わりになると本当に思いますか?」
「……うっ不安になってきた」
「さきほど街で見つけたとき、一攫千金とか大儲けとか言っていたのでよからぬことを企んでいないか」
「! す、すぐにガルドを探しだして! トラブルが起きる前にいいいい!」
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