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その乙女、機動要塞 ~転生女王は超文明で滅びゆく王国を救う~  作者: 星乃渚(旧:鈴片ひかり)


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狂化変異トロール迎撃戦②

ここまで読んでいただきありがとうございます。

本作は「女王による国家運営」と「SF超文明」を組み合わせた戦記ファンタジーです。

内政、外交、巨大兵器、ロボット、戦争などがお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

 だが、違和感がユナにはあった。


「ノルン、少し進行速度落ちてない?」


 『当初は魔物の血と泥による汚れであると思われましたが、どうやらマスターが撃ち込んだ腐滅弾が命中し死滅したあのドクロ百足の死肉を踏みつけたことで左足がアポトーシス誘導剤が付着した模様。

 さらにそこから浸食が広がり膝下部分の運動機能が失われていると想定します』


「だったら放っておけば」

 『いえ、狂化変異トロールはそのことに気づき始めており、自切へ至る可能性があります。さらには付着量が少なかったため、これ以上の浸食が期待できません。

 やはり中枢部、口腔内、肺、肺胞、大動脈付近への着弾が不可欠でしょう』


 狂化変異トロールは雄たけびを上げながら王都へ近づいていた。

 やはり左足を引きずっているような動きに見える。


 ユナは残った右足へバジリスクを構える。

 魔導ゴーレムが射撃体制のため固定化を開始。


 動きが緩慢になったことで狙いやすくなっている。


 『照準補正開始、ターゲットロック』


 再び轟音と共に発射された20mm弾が狂化変異トロールの左膝へ命中しなかった。

 バランスを崩して膝をついたことにより、間一髪避けてしまう。


「なんて奴なの! もう一発!」

 膝をついてるため、今度はもっと狙いやすい。


 そう狙いを定め再びバジリスクが火を噴いた。


「え!?」

 赤黒い血を撒き散らしながら吹き飛んだものがある。

 奴の左手首だった。


「本能的にかばったっていうの!?」

 『残弾ゼロ。製造プラントのシステムを腐滅弾へ転用したため、再生産は資材不足のため不可能』


「げげっ!」


 『なんらかの方法で奴を転倒させなければ射程の問題がクリアできません。腐滅弾も残り一発です』


「ね、ネフィリスさんは!?」


「陛下! ネフィリス殿は焦熱魔法で確実に切除部位ならびに周辺を焼いているためしばらくこれそうにないようです!」


 馬上で騎士団長が報告してくれる。


「やばっ」

 ユナの中で計画が崩れていく。

 押し寄せる不安をなんとか推し止め、冷静な判断をしないといけない。


 千切れた手首の対処も!

 そう思った時、あの狂化変異トロールは自ら手首を広いあげ雑にくっつけたのだ。


 白い煙がジュウと立ち込めるとすぐに動き始めてしまう。


「なんて魔物なんだ!」

 騎士たちがその圧倒的な生命力に驚きの声をあげてしまう。

 (現状戦力で奴を転倒させるのは難しい、なら私が高所から撃つしかない)


 ユナは魔導ゴーレムから飛び降りる。

「私が城壁から撃ちます、皆は退避を!」


 騎士たちが護衛にと続くが、その時には奴らもやってきていた。

 狂化変異トロールから生まれたあの異形生物たちが、まるで一つの意志を持ったように王都の城壁へと向かってきたのだ。


「あの異形な魔物を攻撃しろ! 打ち取るんだ!」


 騎士団が巨大ダニや芋虫の群れに突撃していく。


 ランスで貫かれながらも暴れる巨大ダニや、口から糸を吐く芋虫にからめとられる騎士たち。


 ユナは必死に城壁からもらったロープで引き上げられて上に登るも、それでも距離がある。


「動きすぎて狙いが」


 あの狂化変異トロールは唸りながら、赤い目を光らせながら、城壁の周囲をのろのろと練り歩き様子をうかがうような動きを見せている。


「せめて動きが止まれば」


「動きを止めればいいんだよな」

「うん、でもって!?」


 そこには大太刀 春暁を背負った柴田護の姿があった。

「シバタ! なんで寝てないと!」

「いいや寝たらすっきりした! ってことであいつの足止めてくるよ、行ってきますユナ」


 護はそっとユナの頬に手を触れる。


 そのまま城壁を飛び降りた護は襲い掛かるドクロ百足の首を一撃で切り飛ばすと、青白く光るオーラを全身に纏いながら尋常ではない速度であの狂化変異トロールへ肉薄する。


 まるで護衛のように控えていた異形生物の集団。それは巨大カマキリがゴキブリと融合したようなものや、全身牙だらけの巨大線虫、そのような生命の尊厳を冒涜するような異形生物が蠢ている。


「陽炎の術!」


 護が春暁を構えながら走る姿が揺らぐ。それはゆらゆらといくつもの護が現れ、異形の化け物共を翻弄する。


 そして本体の護は木を蹴って跳躍すると、奴の腰ほどの高さから狂化変異トロールの左膝に向けて春暁を構えた。


「天魔封神流 奥義! 断界!」


 青いオーラがのった刀身で薙ぎ払われたのは膝というよりも空間だった。


 音もなく切断された足。

 ゴモオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 護だから出来た行動だろう。

 剣技がある者であっても増殖を恐れて切り落とせなかった。

 だが護は迷わず行動した。

 ユナのために。


 ただユナのためだけに。


 そのまま護は倒れた背中へ飛び乗ると頭を目指す。


「し、シバタ!」

 収納していた対物狙撃銃を取り出したユナは城壁から奴の口腔を狙う。


 ボゴガアアアアアアアアアアアアア!

 暴れて痛みで首を振るトロールだったが、奴は一瞬だけ動きを止める。


 護が現れ大太刀 春暁であの赤い両目を切り裂いたのだ。


 光が断たれたことにより動きを止めた狂化変異トロールに対し、ユナが最後の腐滅弾を発射する。


 その瞬間は正に時が止まったように静かだった。


 護は一気に距離を取りながら倒れている騎士をかついで避難していく。


 その咆哮はまるでガラスが割れるような音だったとユナは記憶している。


 びくっ! 2度3度震えたかに見えた狂化変異トロールの肉体に黒い染みが現れると、それはドミノ倒しのように全身に広がって暴れていた手が千切れて落ちる。


 下顎が腐り落ち、右手の肘先が腐り落ち飛び出た骨も黒く染まって崩れていく。


 騎士たちは傷ついた仲間に肩を貸しながらその光景を目に焼き付けた。


 もはや暴れることも咆哮することもできなくなったあの破壊の化身は、数分もするとただの黒い腐肉でもないただの灰となって崩れ落ちたのだ。


 皆、歓声もあげずただ見つめることしかできずにいた。


 そして遠くで火炎の柱が空を焦がす。

 ネフィリスが切断した足を焼却処分してくれていたのだろう。


 不思議なことに、あの異形の魔物たちは動きを止め、そして狂化変異トロールと同じように黒く崩れていった。


 その静寂を破った存在がいた。


「みんなああああああああああああああああ!

 勝ったどおおおおおおおおおお!」


「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」


 騎士たち一般兵たちの勝どきと歓声が王都リシュタール南西城壁へ響き渡る。


 それは王都内にいた民衆にも届き、返礼のように王都へ木霊する。


 しばしその余韻を楽しむかのように笑顔で皆に手を振っていたユナの元に護が帰ってきた。


「ユナ!」

 その護の姿にユナは思わず吹き出した。


 褒めてと言わんばかりの満面な笑顔。

「もう、まったく無茶して! 褒めてもらえると思ったら大間違いよ!」

「え、ええええ!? そんなぁ」

 あまりの落ち込み具合にさすがにかわいそうになったユナは、護の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「ユナ!?」

「うん、君のおかげだよ。ありがとうがんばってくれて」

「うん! がんばった!」


 少なからず犠牲者が出た。

 騎士団の死者は6名。

 あの数の異形な化け物相手によく善戦したとガルドは言った。

 騎士団長ファルベリオスは悲しみながらも、言った。


「陛下、部下の死を悲しんでくださるそのような女王陛下にお仕えできるのは至極の誉です。ですが、これ以上は嘆かないでください。


 名誉の戦死。騎士にとってこれは誉なのです。敬愛する女王陛下や愛する王都を守って誇り高く戦った部下たちは我らの誇りです」


 騎士たちの遺体の前で泣き崩れるユナを見て、皆が泣いた。

「我らが女王は、本気で我らのことを心配してくださるお方なのだ。

 このような主君を持てたことは、なんという幸せなのだろう」


 ユナは犠牲になった騎士の遺族たちの家を一件一件訪れて深く頭を下げた。

 皆、その女王の行動に涙し、幼い子供には膝をついて抱きしめた。


「ごめんね、ごめんね」


 女王としての自覚がない。そう評価する者たちもいたかもしれない。

 だが、最も危険な戦場で先頭に立って戦った女王を攻められる者はいない。


 実際のところ、ユナは二日ほど引きこもって泣いて過ごした。

 顔見知りの騎士の遺体が何度も浮かんでは消えていく。


 だが、結局のところお腹が空いてキッチンで食べる物を探していたところを護に見つかってからかわれていた。


「やっぱりお腹減ってったんじゃん。みんなあああああああ! ユナがキッチンで食い物探してるぞおおおお!」

「ちょやめてよばか!」


 少し硬くなったパンを懐に入れて隠そうとしているユナを見て、リアが泣き崩れた。

「ユナ様ああああああああ! よがっだだああああああ! もう、もう出てこないんじゃないかって よがっだあああああ!」


「ちょっとリア! もう、そんなに泣いたら、私がもう泣けないじゃない、ごめんね心配かけて」


「ユナさまああああああ!」


 本来であればメイドが女王に抱き着いて号泣するなどあってはいけないのだが、そんな様子を見ていたゼノはそっとハンカチを差し出す。


 そしてゼノは客間にいたネフィリスを訪ねた。


「あんたからやってくるとは意外だったわ。なんでこんな場所にいるのよ? 最初見た時は意識飛びかけたわ」


「私がここにいるのはユナ様にお仕えする、そのためですよ」


「あの力は脅威だわ。でも、あのトロールの力、やっぱりあれが絡んでるとしか思えないの」

「……あれですか。あなたが来た時からその可能性については危惧しておりましたが、そうなると……ユナ様にはもっとお力をつけていただかねばなりませんな」


「そうね、ということで私もここでやっかいになるわ。だから給金はたっぷりちょうだいね」

「ユナ様に報告はしてもらいますが、さっそくですが一つ頼みたい仕事があるのですよ」


「さっそく面倒そうな予感」



お読みいただきありがとうございました。


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