狂化変異トロール迎撃戦①
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本作は「女王による国家運営」と「SF超文明」を組み合わせた戦記ファンタジーです。
内政、外交、巨大兵器、ロボット、戦争などがお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
◇
部隊は南西方面の城壁に集中させ、騎士団はユナの直衛に。
バキバキバキ……メキバキ
木々は狂化変異トロールの巨体に圧し潰され圧し折れていく音が兵士たちの緊張を刺激する。
『マスターへ報告、偵察探査用のドローンによる映像転送』
「あの背中の膨らみって何? なんだか荷物を背負ってるような」
『巨大な腫瘤のようなものと推測。内部スキャンをしていますが魔力が暴走気味なので分析に時間がかかります』
「とりあえず最初の作戦通りに、バジリスクで膝を撃ち抜いてから転倒。
断裂した足はネフィさんが焦熱魔法で焼き尽くしてもらい、その隙にターゲットポイントになった奴の肺にアポトーシス誘導弾こと腐滅弾を撃ち込む。
心臓への直撃は避ける。
ターゲットは口、口腔内か肺。そこが循環に乗せやすいポイントってことでいいわよね?」
『問題ありません』
魔導ゴーレム腕に乗りながら、操呪兵に合図を送る。
「女王陛下自ら先陣を務めらえるのだ! 我が命を賭してお守りするぞ!」
「おおおおおおおおおお!」
騎士団長ファルベリオスの勇ましい檄で士気が向上していく。
操呪兵の青年騎士が声をかけてきた。
「我らにとって女王陛下こそ忠誠を捧げるに値するお方です。
こうして先陣を切ってくださる王族など、久しくおりませんでした。戦場で駆けた先々代のアルシオン王を超える勇敢な女王として我ら騎士団は皆が陛下を尊敬しております」
「褒めても何も出ないわよ? でも生きて帰ってね、誰一人死んじゃダメだからね」
「へ、陛下!」
「だって、死んだら遺族年金が高くつくじゃない。ずーっと元気に定年まで務めて長生きしてたくさん税金納めてね」
「ははは! 陛下のそういう ツンデレ? な部分が皆大好きなのです」
(私ツンデレかな? 事実ではあるんだけどね)
30分もぜずに見えてきたのはあの狂化変異トロールの暴勢だった。
既に1km以上離れているのに吹き飛ばされてきた大木が近くの地面に突き刺さっている。
ユナは鹵獲して修理した魔導ゴーレム ナザールをパンパンと叩いた。
「近づいてちょうだい」
「はっ!」
『どうやらあの狂化変異トロールは、魔物を呼び寄せる何かフェロモンのようなものを放っているようです。スケイルウルフを捕食しているところです』
「魔導ゴーレム固定、バジリスク発射準備」
ユナの合図に合わせて魔導ゴーレムが着座して2,5m以上ある砲身を固定する。
「目標、トロール膝部 発射」
ゴウッ! と大地を揺らすような轟音と共に発射された20mm弾は再びトロールの膝を撃ち抜き、その膝は千切れぐらりと餌となったスケイルウルフごと地面に転倒する。
すかさずネフィリスはガルドが手綱を握る馬に同乗し千切れた右足を焼却するべく向かう。
そしてユナも、アポトーシス誘導弾 腐滅弾を装填した対物ライフルを同行してきた騎士の構える盾の上に砲身を固定した。これは地面に突きさせるように手を加えたもので数名の騎士が護衛についている。
ユナの放った腐滅弾は、そのままトロールが咆哮を上げる口の中に吸い込まれた。
いやはずだった。
それは奴の口の中から現れた。
巨大なムカデのようなものがにゅるりと現れ、その頭部に腐滅弾が命中する。
軽く見積もっても8mほどある巨大なムカデは腐滅弾を受けてバタバタと苦しみのあまりもがき暴れるが、やがて人間の頭蓋骨に似た頭部が黒く変色し腐り落ちて行った。
既に狂化変異トロールは右足を再生し起き上がろうとしていたが、両手を地面について再び咆哮を上げる。
「ゴガアアアアアアアアアアアアア!」
その時だった。背中にあった巨大な腫瘤が弾けた。
すると中から見たこともないような巨大なミミズや、あの頭部が頭蓋骨のムカデ、全長2mにもなる巨大ダニ、さらには不定形のアメーバのようなものまでが溢れ出てきたのだ。
「き、きもおおおおおおお!」
ユナは再び腐滅弾を撃とうとするも、迫る異形生物たちが周囲を蠢くために射線が確保できない。
「女王陛下をお守りしろおおおお!」
既に魔導ゴーレム ナザールが巨大ダニを蹴り飛ばして護衛にかけつけてくれている。
「全軍後退! 後退しなさい!」
ユナが命令を発するが、それでも騎士団と魔導ゴーレムはしんがりを務めてくれた。
ユナは用意していた自動小銃 MP5を連射しながら魔導ゴーレムの上で迎撃を続ける。
「女王陛下自らしんがりを務めていらっしゃる!」
この騎士団長の叫びに、部隊は混乱することなく毅然と士気を高めたままに撤退を遂行した。
後詰めにいた部隊が状況を受けて援軍に入り、死者がなく撤退をすることができたが騎士が10名ほど負傷。うち4名が重傷ですぐに治療院へと搬送された。
「陛下、ご安心ください。重傷ではありますが手足が折れたりしたぐらいで命に関わる怪我ではありませぬ」
「でも、ごめんなさい私のせいで」
「女王陛下、恐れながら申し上げます。処分はいずれ受けましょう」
騎士団長がファルベリオス返り血を浴びたその顔で告げた。
「女王陛下が無暗に謝罪してはなりません。あなたの指揮があったからこそ死者がいないのです、自信を持ってください」
「ありがとう騎士団長」
騎士団長ファルベリオスは40代前半のナイスミドルなおじさんで、女性からの人気も高い。
彼は本気でユナへ忠誠を捧げてくれていると分かるだけに、どうにも照れが出てしまう。
そして指揮について指摘された時、ユナの記憶にあるビジョンが浮かび上がってきた。
六本の腕を持ち赤銅色の肌をした、人?
その人が、優しく語り掛けてくれて、そして何か温かい光をくれた。
戦闘指揮をしている時、ユナは日常生活を含めて一番心が落ち着いているような感覚だということに改めて気づいた。
冷静に冷徹に、まるでゲーム盤を俯瞰しているかのように事態を把握している。
それが今、発動されようとしている。
ちょうど耕作のための畑を耕している王都城門外のエリアの少し先まで奴が近づいてきている。
お読みいただきありがとうございました。
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