その乙女、困り果てる
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本作は「女王による国家運営」と「SF超文明」を組み合わせた戦記ファンタジーです。
内政、外交、巨大兵器、ロボット、戦争などがお好きな方に楽しんでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
◇
巨大トロールは王都リシュタールから北部穀倉地帯のバルナ村方面ではなく、南西部の森を通過中との報告がはいる。
グスタフが入手したのは近隣で活動していた冒険者パーティーからやばいのを見たという話を聞き、移動方向から王都が危ないかもしれないと知らせてくれたという。
ラウルの話によると時間的に後1日ほどで、馬車で4時間ほどの距離。
巨大トロールは魔物の棲息域で魔物を捕まえては捕食しているので移動速度が緩慢である。魔物によって救われている面があるのは皮肉だ。
ユナや騎士団、ラウルまでもが現場に向かったが、街道から僅かにそれた森の中から頭が飛び出ている状況にはユナは呆れて物が言えなくなりそうだった。
「でかすぎでしょ」
50人ほどの騎士団が護衛陣形を取ってくれているが、同行してきた魔導ゴーレムがかわいく見えるほどにトロールは巨大で、しかも5mほどはあるオウルベアを頭からスナック感覚でぼりぼり食べているではないか。
全員が逃げ出したくなるのを必死に堪えている状況のもと魔導ゴーレムが膝をついて、対魔獣重狙撃銃バジリスクを構える。
実際には構えるというより、銃を固定するための三脚としての役目がでかい。こうすることでユナがトリガーを引いても反動は魔導ゴーレムが受けてくれる。
スコープを覗き、丁度オウルベアを食べ終えて盛大なげっぷをしている毛むくじゃらの顔が視界に入る。
見るからに不潔醜悪で、しかも目があらぬ方向をぎょろぎょろしており血走り真っ赤な光を放っていた。
それはとてもよくない気配を放っているようにユナには見えた。
『照準補正入ります。目標 巨大トロール 左膝関節部。 砲身固定、トリガー預けます マスター任意のタイミングでどうぞ』
すーっと息を吐き、止まったところで一気に引き金を引く。
その轟音と衝撃は、魔導ゴーレムでさえずんっと揺れるほどであり着弾したトロールは突如左膝下が砕けて吹き飛ばされたことで
「ブモオオオオオオオオオオオ!」
と大地が揺れるほどの雄たけびをしながら転倒していく。
ズドオオオオオオン! その振動は震度2ぐらいはあるのではないかと思うほどで、ユナは立ち込める土煙を確認しつつ頭頸部へC4爆弾の投擲を命じる。
「今よ投げて!」
各自が粘着性の高い魔物の分泌物を縫ったC4爆弾を一斉に投擲する。
顔や頭、首など20個ほどの爆弾が確実にくっついたのを確認する。
「みんな離れて! できるだけ遠くに!」
グモオオオ!
雄たけびを上げるトロールが起き上がろうと体幹を起こそうとしたときだった。
「やめなさい!」
細い手がユナのリモコンを取り上げる。
「ちょっと何してるの!?」
その声は女性だった。
「あれを見なさい!」
「え?」
そこには信じられないものがあった。
切断された左足がぐにょぐにょと蠢き肉塊となって手足が生えてきているのだ。
「雑な攻撃したらああやって個体が増えるはずよ! あれに似た不滅の化け物を私は見たことがある!」
そう強い語気で告げるのは、黒い外套に胸元が開いたローブを着ている美しいダークエルフの女性だった。
年のころは20代前半。
「あなたは!?」
「ネフィリス。それよりあの足から生まれた化け物は私が始末するから、あなたたちは撤退しなさい!」
さらに蠢き、頭のようなものまでが生まれつつある肉塊に対し、ネフィリスは呪文を詠唱し発動したのだ。
「灼熱の爆炎よ、炎の壁となって焼きつくせ! クリムゾンウォール!」
蠢く肉塊を包囲するように吹き出た業火の壁はぐるりと肉塊を覆うと猛烈な火力で焼き尽くす。
巨大トロールの足にはもう左足が生えてきており、顔についた異物を嫌って振り払ってしまっていた。
『C4爆弾 全て外れました。巨大トロール一時的に撤退するようです』
「こちらも撤退よ、ネフィリスさん 一緒に来てもらえる?」
「了解したわ。でもこいつを焼き尽くせたかを確認しないとね」
結局のところ、炭化するまで焼き尽くされたトロールの左足だったものは再生することなくやがて灰になっていった。
その後、馬車でフードをとったネフィリスの美しさに思わずユナは見惚れてしまっていた。
「きれい~めっちゃかわいい」
「ちょ、ちょっとあなたのほうがかわいいわよ」
ダークエルフの魔導士ネフィリスは褒められたのが意外だったのか、少々照れている。
「あのどうして助けてくれたんですか?」
「トロール族はダークエルフを容赦なく食らうのよ。故郷の村がトロールに滅ぼされたと聞いて最近目撃情報もあって調べていたの」
「トロールってあれほどの再生力をみんな持ってるものなんですか?」
「いいえ持たないわ。足を切ったら足が生えてくるけど、切った手足もしばらくぴくぴくはしていても、そこから新たなトロールが産まれるなんて話、私も聞いたことがない」
「じゃあ頭を吹き飛ばさなくて正解ね」
「そうしたら、大小様々なトロールが生まれて王都を襲っていたかもしれないわね」
「うひゃ。これは困った」
その後のトロールは再生したエネルギーを補給するかのごとく、周辺の魔物を食らいまくっていた。
自我のようなものはもはやあったとは思えず、毛むくじゃらの身体は血にまみれ、赤い巨人のような雰囲気さえ放ち始めている。
獣のように四足歩行をしたかと思いきや、二足歩行で遠くを見回して咆哮する。
また奴の体からには妙な異変が生じ始めていた。
背中が膨れ上がりまるで荷物を背負っているかのような姿へ変化を始めている。
そして恐れていた通り、狂化トロールは王都へとゆっくり歩み始めたのだ。
その目を赤く光らせて。
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ユナの執務室でネフィリスは出されたお茶を飲みながら言葉を続けた。
「あんなのもはやトロールとは呼べない化け物よ」
対策会議が始まる中、ユナはノルンと話し合うべく私室で少し休憩させてもらうことにする。
ソファに腰かけゆっくりとため息をつきながらユナは問いかける。
「それで何か対抗できそうな方法は見つかったの?」
『いくつかの方法を検討中ですが、どれも細胞片をばらまきかねず、超高温で一気に焼き尽くす以外の方法は難しいようです。しかも爆発を伴わないやり方で』
「ねえ、私が頼んでいたあれは分析できた?」
『はい。やはり単体の細胞でも驚異的な再生能力を有していますが、少量では代謝が維持できずに死滅しました。かなり燃費の悪い体のようですが、食糧を断って餓死させる方法は難しそうです』
「ダンジョンに放り込んで隔離するとか?」
『検討しましたが、王都近郊のダンジョンで狂化トロールが入れる入り口を有するダンジョンがありません』
「だめか~大口径ビーム砲で焼き切るってのは?」
『およそ87%の細胞を焼き尽くすことが可能ではありますが、その巨体ゆえ身体全部を焼き切るのが難しいです。また現状で対応可能なビーム兵器の開発が資材とエネルギー不足により困難です』
「う~ なんでこう面倒な魔物なのよ、まったく!」
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