1.5 激戦、水龍ロボ
あらすじ
ネオンの能力者ラウラとサマリウムの能力者のフリードを仲間に加え、4人は遂に目的地の水龍の住処へと到達する。
細く天井の低い道を少し進むと、足元には3センチくらいの水が張っていた。水は透明というよりも少し青みがかっていて、触ってみるとかなり冷たい。ポタポタと水滴の落ちる音が洞窟内に響き、薄気味悪さを感じる。
四人はそれまでの隊列を維持しつつ、探索を続けていた。途中からザーという音が断続的に聞こえ出し、だんだんと大きくなっていく。
高さ60センチほどの穴をくぐると、大きな空間が姿を現した。つぼ形のような形をしたその空間は、奥行きおよそ50メートル、幅およそ30メートルほどで、奥には巨大な滝が勢いよく水を流している。中心には直径3メートルほどの円形の穴が存在し、奥から流れてきている水が下まで流れていっているようである。
「あの穴に水龍が隠れているわ」
ラウラのその忠告を聞いたパーティはゆっくりと忍び足で移動していく。奥を見ると、ラウラたち二人の必要としていた赤い水晶が見える。シンたちの必要としている真珠のようなものは見えない。
これで真珠がなかったらとんだ無駄足だが。
シンの心配をよそに水龍が姿を現すことはなく、パーティは穴を横目に奥までたどり着くことに成功する。ラウラは水晶を採取し、ポーチにしまう。やはりこの周りにも真珠と思しきものはない。
「幸運にも水龍はいないみたいだしこのまま帰りましょうか。真珠は他の場所を探してみましょう」
「そうだな」
そう言って、シンとラウラが振り向いた瞬間、大きな野太い咆哮とともに穴から水龍が勢いよく飛び出してきた。鋭い目を持ち、顔の紺青色の鱗を逆立たせ、ヒゲを揺らしながら、こちらを凝視してくる。やや顔よりも薄い青色をした体は滑らかにうねっており、各パーツがロボットとは思えない精巧な造りをしている。
これまでのロボットたちとは一線を画す、空想上の生物をまるで生きているかのように再現するその技術力。一瞬目を奪われるも、目を凝らすと首元には白く綺麗な球体があった。
「……あれは、真珠」
フリードがぼそりと呟く。
「そうか、じゃああれを倒せってことだな」
学校側の思惑を悟ったシンはニヤリと笑う。水龍を睨みつけ、膝を曲げて戦闘態勢に入った。
鋭い牙を持った水龍が大きく口を開け、再び咆哮を放つ。それを合図に決戦の火蓋が切って落とされた。
「まずは奴の行動パターンを掴む。それまではヒットアンドアウェイで行くぞ」
シンたちは強敵を相手に、まずは慎重な戦い方を選択する。この洞窟内にはロボットの敵しかいない。プログラムによる攻撃であるため、シンはパターンを掴むことが重要だと判断した。
シンは中距離の間合いから、炎を飛ばし水龍の注意を引く。水龍はシンを目がけて何度も水のブレス攻撃を試みるが、シンは華麗な身のこなしに回避した。その隙にラウラは側面から斬撃を決めるが、刃が通らない。
「そんな……鉄をも断ち切る特別製の短剣よ⁉︎」
フリードも弓で攻撃するが、鱗のような外装を貫くことは叶わない。
「ダメ……」
再度水龍のターン。連続のブレスは範囲・速度共に先ほどより上回っている。
だが、シンの脚力の前に捉えることはできない。
「そんな水鉄砲なんか当たるかよ!」
シンは双剣を振りかぶり、渾身の一撃を放つ。
「爆大火炎!」
双剣から飛ばされた業火は水龍に近づくにつれてたちまち大きくなっていき、水龍の体全てを覆い尽くす。炎は奥の壁まで到達し、壁に生えた苔など植物を燃やす。水龍にも当然炎は燃え移り、鱗やヒゲを紅く染め上げる。しかし、水龍は一度穴に潜ることで、炎を鎮火してしまった。火を水で鎮火するあたりにかなり高度なプログラムがされていることが伺える。
「(やはり、相性が悪い……)」
懸念していた相性の悪さを露呈し、シンの顔が曇る。
水龍もブレス攻撃を諦め、体を使った物理攻撃に切り替える。四人は間一髪躱すも、陣形が崩れてしまう。
「まとまっていると危険だ! ここは二つに別れるぞ!」
続く体当たりをかわしながら、シンとリアが正面に、ラウラとフリードが水龍の後方に構える。
「(さて、どうしたもんかな……)」
体力には限りがある。いつまでもブレス攻撃を躱し続けることはできない。
シンが逡巡していると、ラウラが声を上げる。
「もう一度注意を引いて! 1日1回の大技で……今度こそ、断ち斬るわ」
そう言うと、ラウラは短剣を両手で包み、グッと力を込めながら集中する。すると、短剣は赤橙色に発色し出す。
「電子励起光!」
シンたちも何が何やらわからないが、水龍への攻撃を続ける。水龍がラウラの方を向き、突撃しようとした瞬間、フリードの磁力で曲げられた矢が水龍の目にピンポイントにヒットし、水龍は悶え苦しむ。
1本目の攻撃は、目の後ろに放っている。それが布石となり、付着させたサマリウム磁石によって矢の軌道を制御してみせた。
そしてラウラも動き出す。赤橙色に発光する短剣を構え、素早い動きで水龍の顔の下まで移動したラウラは、そのスピードのまま斬撃を目にも留まらぬ速さで5回叩き込んだ。すると、先ほどまで全くはの通らなかった皮膚が綺麗な切り口を残す。中の導線がかなりの本数斬られているのが目に入った。
攻撃を終えたラウラは、息を切らしながらもシンの横へ復帰する。
「一体何をしたんだ?」
「ネオンはレーシック手術などに使われるエキシマレーザーを構成する元素よ。エキシマレーザーは、分子レベルで物質を切断し得ることが可能できるの。だいぶオリジンと体力を使うんだけどね」
水龍は我慢ならず体を大きくうねり、暴れ出す。
「もう少しだ、俺があそこから体内に炎を流し込む」
暴れる水龍はシンの方へ顔から突貫した。シンは回避し、カウンターを叩き込もうとするも、勢い余った水龍は滝のある壁に突っ込む。すると滝は大きく崩れ、奥から一気に水が溢れ出した。
「(マズいっ!!)」
四人は濁流に飲み込まれる。水はたちまち体よりも高い位置まで増え、体が水に浮き顔も水中に沈む。シンはエレメントにより酸素の気団を顔の周り配置し、急造の酸素ボンベを生み出した。他の仲間たちを見ると水勢に飲まれ、ただ流されるばかりだ。
瞬間、リアが目の前を苦しそうに目を閉じながら横切って行く。先ほどの会話が脳裏に浮かんだ。
『ずっと私を守ってくださいますか?』
今日の朝出会ったばかりの相手だ。だが、守らなければならないという感情が巻き上がる。
もうあんな想いになるのは御免だ。
「(守らないと、必ず!)」
シンは目一杯手を伸ばし、リアの腕を掴んだ。
その刹那、シンは不思議な感覚に陥る。それは初めてエレメントを使うことができた時と同じものだった。理由はわからないが現象のイメージが浮かび、こうやって力を込めれば発動するのだという直感。その感覚を頼りにシンは力を込める。
「(ウォォォォォッッッッッ!!!)」
濁流はいつの間にか収まっていた。それも重力に反した状態で。シン以外は気絶しているが、四人全員が水の上にいた。シンは膝をつきながらリアを抱きかかえた状態で、滝が割れたように囲われている。依然水は穴に流れ込んでいるが、シン達のいるところだけは安定していた。
「(これは俺がやったんだよな?)」
このあり得ないような現実を、直感だけを頼りに解釈する。
「(リアのエレメントだけでは扱うことができなかったH2O(水)を俺のエレメントが補完したってことか?)」
そんな技術聞いたことがない。いや、それ以上に――
この溢れてくるオリジンは何だ?
リアに触れる部分から、湯水のようにオリジンが流れてくる。
そんなことを考えている間に水龍は再び暴れ出した。怒り狂ったように首を振りながら、水を撒き散らして迫ってくる。シンはその感覚を頼りに、両サイドの水をうねらせながら顔面にぶつけた。
リアから伝わる膨大なオリジンが、その水柱に強い膂力を与える。
水龍の勢いは減衰し、シンの制御によって方向を変えられて壁に顎を打ちつけた。その衝撃で、気絶していたリアが目を覚ます。
「こ、これは……どうなっているんですか⁉︎」
驚きを隠せないと言うよりも未だ夢の中にいるような感覚のリアにシンは答える。
「それは後で説明する。とりあえず奴の周りに水素を凝縮してくれ。特大のだ」
リアは何もわからず抱きかかえられたまま、右手を伸ばして力を込める。
「できました!」
「よし!」
その声と同時にシンは手のひらに炎を生み出す。シンの額に苦悶のシワが寄る。
オリジンを使いすぎていた。でも、これで終わり。
「速火炎!」
緋色の炎が一直線に水龍に向かう。
まさに一閃。
水龍に当たろうかと言うところで、視界は爆発に包まれた。
未だに膝下くらいまで水に満たされている小部屋に水龍は動きを止めて横たわっている。シンは首元にあった真珠を引っぺがし、ポーチにしまった。
後方ではラウラとフリードも目を覚ましているが、何が起きたのかは理解していない様子で、辺りを見回している。
シン自身も先ほどの戦闘を振り返っていた。特に最後に見舞われた不思議な感覚を。確かなことはまだ何もわからないが、それでもシンは一つの答えに辿り着いていた。
シンの瞳はリアをまっすぐと見据え、
「さあ、帰ろう。一次試験、突破だ」
ボロボロになり、体もびしょびしょに濡れ、体には疲労感に満ちていた。だが、彼らは互いをねぎらうように笑みを交わした。
出口間近になり、ラウラとフリードとは別れた。二人きりになり、先に話しかけたのはリアの方だった。
「先ほどは、いえ、今日ずっと助けていただいてありがとうございました」
シンは小さく笑って、少しだけ考えた。
このリアという少女の存在を。
彼女の膨大なオリジン。そして、シンが水を操れたという謎。
答えなんて出やしなかった。けれど一つ、確信めいたことがある。
俺とリアは、最高のパートナーになれる。
本気でそうシンは思う。
洞窟の出口が見え、久方ぶりの太陽光が二人の生還を祝福した。




