1.6 ビリビリ秀才くん
あらすじ
一次試験を突破したシンとリア。その勢いで二次試験へと挑む。
洞窟からすぐのところにある、石造りの闘技場の上。そこに一次試験合格者が集められ、二次試験の説明が行われていた。多くの受験者が服や体を汚しており、一次試験の厳しさを物語る。人数もかなり減り、およそ80人ほどになっていた。
試験監督のフーベルトが厳しい面持ちで説明する。
「二次試験は、1対1の対人戦だ。クリティカル判定の一撃が決まったら終了。勝敗は関係なく、二人とも合格のこともあれば、逆もまた然り。互いの実力を存分に発揮してほしいと思う」
またしても手短に説明が行われ、対戦相手を決める抽選が行われた。シンの順番は第二試合。好戦的なシンは早めの対戦に満足している。
対してリアは第一試合、一気に顔が硬直する。しかし、何かが破裂したように、
「どうしましょう! シンさぁん!」
涙目でシンに飛びつく。対してシンは、極めて冷静にアドバイスする。
「お前の売りはその火力だ。それを開始直後に一発見せておけば大丈夫じゃないか?」
そんな話をしていると、正面から一人の男が近づいてくる。
「久しぶり、リア」
「アレン、あなたも入学試験を受けていたの⁉︎」
白髪で端正な顔立ちをした男だった。身長はシンより少し大きく、小顔で足が長くスタイルが良い。漆黒のブーツに銀色のジャケットとロングパンツが印象的で、腰には白銀のサーベルが光る。そのきらびやかな見た目は、どこかの王子のようであった。全身が太陽光を反射し、煌めいている。
シンはリアの発した『アレン』という名前からこの男を容易く認識した。
アレン=キルヒホッフ、銀(Ag)の能力者だ。あらかじめ蓄電しておいた電気を銀の高い電気伝導率によって自在に操る。宮廷お抱えの伝統のお家柄の騎士であり、さらにその実力は折り紙つきで、最年少で軍にスカウトされて既に実戦で活躍している。その実力と見た目から国民からの信頼を熱く、ファンも多い。サーベルを用いて電気を変幻自在に操る様子から『純銀の指揮者』の異名を持ち、次期王候補と囁かれている。
三人の話を聞いていた周囲も、にわかにざわめき始めた。
明確に、現時点で同世代からは一歩抜きん出た存在。
「アレンはいつ試合なの?」
「第二試合だよ」
「あら、ならシンとじゃない」
その瞬間、シンとアレンの間に火花が散る。その一触即発な雰囲気にリアはきょとんとしていたが、すぐに1試合目の召集がかかる。
リアがいなくなり、アレンはシンに向かって爽やかに言い放つ。
「お互い怪我のないように、ね」
言葉には現れないが、まるで自分が怪我することは想定していないかのように。
それを聞いたシンは、闘争心を隠すことなく睨みつけた。
「良い腕試しになる」
「腕試し?」
「世代最強――まずはそれくらいにならないと、王の右腕になんてなれるわけない」
再び二人の間沈黙が生まれる。しかし、数秒後、巨大な破裂音によってかき消された。
「この先は剣で語ることにしようか」
「悪くねえ」
その後、すぐに第2試合の招集がかかった。
□ □ □
服をさらにボロボロにし、髪の毛もボサボサになったリアが大きな声で叫ぶ。
「二人とも頑張ってくださいね!」
シンは力拳を作るポーズをとり、アレンは無言で指を鳴らしながら闘技場の真ん中へ向かっていく。
指定の位置につき、両者抜刀する。
「それでは、試合、始め!」
シンは目を凝らした。映るのは腰に付けられた黒い機械。アレンは左手でボタンを押すと、バチバチッと轟音を鳴らした。
おそらくあれがアレンの電撃の正体。腰にあるのは蓄電器のようなもので、そこから電気を供給しているのだろう。
対するシンもいつものように双刀を叩きつけて火花を散らし、炎を剣に纏わせた。勢い余った炎はシンの周りに拡散し、シンが炎の鎧を着ているかのように燃え盛る。
両者、これで戦闘の準備が整った。
互いの電気と炎の出力が、猛るように急上昇する。そして、同時に最高潮まで達したところで、両者剣を振るった。
「電撃!」
「爆火炎!」
電気と炎。同時に前方へ射出され、二人の中点で衝突した。
ほぼ互角。闘技場が悲鳴を上げた。床の石畳は所々ヒビが入り、風がフィールドの外にも襲う。他の受験者たちは必死に飛ばされないように踏ん張りつつも、このレベルの高い戦いを見逃さぬと言わんばかりに、目を凝らしていた。
この能力の力比べは時間が経つにつれて、ややアレンに形勢が傾く。そこでシンは炎を手前の地面に撃ち、砂煙に身を隠した。アレンは電撃を一度止め、電気を纏ったサーベルを引いて素早く水平に振る。
「水平電撃!」
地面と水平に扇型を描いた電撃が砂煙を切り裂く。しかし、シンの影はない。瞬間、視界が影に覆われる。
「(上か!)」
「双炎・墜!」
シンの双刀による上段斬りが完璧に決まった、かに思われたが、アレンは白銀の盾で間一髪防ぐ。
「(作ったのか⁉︎ この一瞬で⁉︎)」
「(見たことのない流派――古流の剣術か?)」
シンの体は宙に浮いている。その隙にアレンは右手のサーベルによる高速の突き四連撃を繰り出した。シンは2本の剣で一撃ずつは受けるが残る二撃が肩口にヒットし、たまらず後方に跳び退き間合いを取る。が、傷跡に痺れが走った。
電気による麻痺――
「くそ、汚ねえぞ……」
「すまないね、僕は性格が悪いんだ」
ただ、攻撃を決めたアレンも浮かない表情だ。
ギリギリで急所を回避してきた――
今まで高いレベルの世界でしのぎを削ってきたアレンにとって、同世代でこれほど腕の立つ相手と出会えることは予想外だった。
「(学校に通うのも、悪くはなさそうだ。だが、)」
それでも、まだ余裕はあった。
「(まだ発展途上)」
対するシンはアレンを今まで出会ったことのないほどの強敵と認識する。
「(強い。しかもまだ全力を出していないか)」
同世代最強格との距離は分かった。
だが、それがこの戦いを負けても良い理由にはならない。
試験なんかも関係ない。
目指すのは遥か高み。生半可な覚悟なんかじゃないんだ。
シンは再び双刀を強く握り直す。
わずかな空白の後、二人が選択した戦略は一致する。
接近戦。
二人の突進により間合いが一瞬にして詰まる。凄まじい剣撃の応酬が幕を開けた。シンの二刀流によるラッシュを、アレンはサーベルと盾で軽快に捌く。
何度も攻守が切り替わりながら、互いに決定打を探るも決着は付かない。接近戦が始まってから、その時間3分。
「(彼の動きの質が落ちない――)」
アレンの疑問は当然だった。落ちていくどころか、一撃ごとに動きが洗練されていく。
エレメントの撃ち合いでは明確にアレンに分があった。それでも接近戦を選んだのには、二つの理由がある。
一つ目は、シンの実力の底を知るため。
遠距離から完封しても、シンの実力を完全に知ることはできないと考えた。
そして二つ目は、アレンが剣術に高い実力とプライドも持っているからだった。
既に剣術が達人レベルに達しているアレンにとって、接近戦が最も安全で勝てる。
はずだった。
だが、シンもまた、達人レベルに及ぶ剣士で。
まだ見ぬ古流の達人に対し、アレンはその実力を推し量りかねていた。
まるで底の見えない沼に陥ったかのように。深く、深く、足を取られていく。
シンはこのまま押し切らんと、さらに攻勢を強める。
次第に状況はシンに傾いていた。筋肉に乳酸が溜まっていく感覚がアレンを襲う。
シンの動きが落ちないことには理由があった。
酸素強化。
シンはエレメントにより、酸素を体内に送り続けていた。つまり、常に酸素マスクをつけたような状態で戦っていたのだ。その差は歴然。そしてこの長期戦もシンの作戦通り。
「ウオォォォォォ!」
シンの重い一撃が、遂にサーベルを吹き飛ばす。
これで終わり――
シンの右手の長刀から繰り出された渾身の一撃は空を切った。炎が宙に弧を描く。その場の全員に時が止まったかのような錯覚が起こった。
アレンが懐に潜り込み胸部へのカウンターが決まっていた。腕をたたみ、左手にはサーベルが握られている。
無詠唱の物質変化。
「(剣を飛ばしたのは俺を誘い込むためか⁉︎ そこで盾を剣に変化させてのカウンター⁉︎)」
シンの敗着は経験不足。実戦経験が少ないシンが、駆け引きで負けた。
勝負は決し、シンは背中から倒れこむ。
空を見上げたまま歯を食いしばった。けれど、シンの手に握られた2本の刀から炎が消える。
シンは無力感に苛まれながら、静かに目を瞑って意識を失った。
この年のキラルス第一高校の入学試験は、無事に終了した。
だが、この日の彼らの出会いが時代に大きなうねりを生むことを、この時の誰も知る由はなかった。
入学試験編終了です。色んな仲間たちとの、高校生活が始まります。




