1.4 ピカピカ強気ガールとオドオド大男
あらすじ
洞窟攻略へ進むも、リアの生成した水素をシンの炎が撃ち抜き、二人は巨大な爆発に巻き込まれた。
「あ〜、酷い目にあったぜ」
シンとリアはボロボロになりながらとぼとぼと歩いていた。シンは服についた土を両手で払い落とす。
リアの巨大な水素気団を見事にシンが撃ち抜いた末路。
「本当に申し訳ありません〜」
涙目のリアは髪もボサボサになり、綺麗な白い肌も土に汚れてしまっている。
「俺たちの能力、相性悪くないか?」
二人は言葉数少なく、洞窟内を進んでいく。
「(こいつ、本当にポンコツだったんだなぁ)」
と、シンは呆れつつも、先ほどの二度の爆撃の威力には感嘆していた。威力だけなら十分すぎる、いや瞬間火力だけなら見たことのないレベルの化け物だ。
それからまた少し歩みを進めていくと、小部屋があった。床は半径5メートルほどの円形になっており、正面と左右に道が伸びている。急にいかにも人工物だと感じさせる構造である。
「ここで少し休めそうですね」
リアが息を大きく吐き出す。この独特の緊張感に精神的に疲れていた。そして何より、前衛で戦闘を担うシンの体力を心配していた。
「いや、すぐに進まなきゃいけない。道がいくつもあるということは、その分、敵が通る可能性も高いということだ。だが、ここで道を間違えるのはでかい。さて、どうするか……」
その時、左側の通路から足音が聞こえ、少しずつ大きくなってきていた。二人は息を潜めながら、足音のする方向をじっと見つめる。
現れたのは、男子と女子の二人組であった。その二人もシンとリアに気づくと、一気に警戒の色を強める。互いの牽制によって、無音の間が生まれた。シンは警戒しつつも二人の様子をじっと観察する。
男子の方は、大きな体には似合わず、空色の瞳で少し不安そうにこちらを見ている。灰色の髪に頬にはそばかすがあり、少し垂れ目のその男は、弾性力のありそうな樹脂で作られたと思われる大きな乳白色の弓を持っている。右手には金属製の矢も準備しており、今にも弓を引くことができる体制をとっている。
女子の方は、朱色のロングヘアーで、大きな山吹色の瞳がこちらを強い眼力で睨みつけている。短剣を携え、リアと同じくらいの身長であまり体は大きくはないが、そのつり目から放たれる警戒心はリアを萎縮させるには充分であった。小さな体に似合わず、服がはちきれそうでかわいそうなくらいの胸を持っている。別にこの胸がリアを威圧しているわけではない……と思うが。
シンとリアほどではないが、二人とも服はやや汚れ、髪は少し乱れている。やはりいくつかの戦闘を切り抜けてきた様子だ。
開口一番、相手の女子が一気に警戒を解き、両手を開いて呼びかける。
「ああ、そんなに警戒しないで。私たちは君たちと争うつもりはない。むしろ協力したいと思っているの」
この意外な一言に、シンは警戒を緩めずに問うた。
「協力……は願ってもいないことだが、ルール的にOKなのか?」
そのあたりに関しては何も情報を聞いていない。シンの頭にも案としては浮かんでいたが、リスクがあると感じていた。
その女子は予想していたかのように即答した。
「同じ場所同じ時間で行われる。そして、それぞれのグループが別のものを持って帰るというルール設定。これは協力できる環境を作っているとしか思えないわ。だって同じものを持って帰るルールの方が楽だもの。少なくとも運営はこういうケースを想定しているはず」
その論理には説得力があった。シンはリアとアイコンタクトを取って、協力するべくその女子に握手を求めた。
「シンだ。よろしく頼む」
「ラウラよ。あなた、見るからに前衛よね、私たち二人ともサポートタイプだから困っていたの」
女子の名前はラウラ=メンデレーエフ。ネオン(Ne)の能力者で、光――ネオンライトによるサポートを得意としているらしい。かなり頭が切れそうで、無駄のないスピーディな情報交換が行われた。
男子の名前はフリードリヒ=リーバー。ラウラからはフリードと呼ばれていた。永久磁石にも使われるサマリウム(Sm)の能力者で、磁力を生かしたサポートと弓による遠距離攻撃を得意としているらしい。後衛タイプに向いている能力と言えよう。
彼らのミッションは赤色の水晶を持ち帰ること。そして、その場所はわかっているという。しかし、その手前には水龍のロボットが待ち構えており、少し交戦したが歯が立たず、あえなく撤退してきたようだ。
「水龍か、そいつがいる水辺なら俺たちが必要な真珠もあるかもしれないな」
目的の場所が幸運にも一致したことで、進む道がすぐに決まる。話し合いの結果、シンが前衛、リアとラウラが中衛、フリードが後衛に決まり(リアは広い場所でしか攻撃しないと約束させ)、準備は整った
「それじゃあ進むか。フリードもよろしくな」
「よろしく…………」
フリードがシンの差し出した手を握る。
「しかし、あんたたちボロボロじゃないの、本当に大丈夫?」
「いや、だからだな、それはこの爆裂娘が……」
「え? まさかさっきの地響きって……」
そんな話をしていると、正面通路から犬型、コウモリ型、人型のロボットが続々と小部屋に入ってきた。総勢15体ほどの集団がこちらに威嚇をする。人型はマネキンのように滑らかな曲線によるシルエットを持ち、ツルツルの顔と、目元には黒い液晶画面を持っている。
「ちょうどいいな、お互い自己紹介と行こうぜ」
「そうね、隊列は崩さないでよ」
「はわわわ。大丈夫なんですかぁ?」
「………………………………」
好戦的な二人をよそに、リアとフリードは顔を引きつらせる。
だが、先制したのは意外にもフリードだった。右腕を伸ばし、大男らしい重低音で小さな声を発した。
「磁石生成」
その瞬間、金属製のロボットたちは強力な力に引っ張られる。犬型とコウモリ型は為す術なく中央に集められ、人型はその細い足で踏ん張り、動きを止めた。
「いいな、それ」
この好機にシンがすかさず反応する。
「爆火炎!」
双刀を交差させながら縦に振り抜き、特大の劫火が全ての敵を飲み込む。コウモリ型を全て撃墜するも、炎の中から犬型が飛び出し、後ろからは人型もついてくる。一気に押し込まれそうになるも、ここはラウラが援護する。両手を胸の前に並べ、壁を作るように構える。
「閃光!」
閃光がラウラの前方を襲う。どうやら敵を視認できなくなると、攻撃を一度止めるアルゴリズムになっているらしい。一瞬ひるんだ犬型にすかさず右手の短剣を叩き込み、続いて左手を地面について回し蹴りを放つ。遠心力を存分に生かした強烈な蹴りは、犬型を壁まで吹き飛ばし戦闘不能に陥らせた。
ひるんだ犬型のもう一匹をシンもすかさず双刀でなぎ払い、犬型を全滅させる。
残るは人型2体。シンの炎も効いている様子はなく、淡々とこちらへ歩いてくる。
「奴らはしぶとそうだな」
シンの呼びかけにラウラが答える。
「ええ、多分生半可な攻撃は効かない」
「あのロボットは、かなり人間に近い構造をしているはずだ。狙うは頭か心臓だろう」
「でも、装甲がかなり固そうよ」
「フリード、奴らの隙を作れるか?」
フリードは無言で頷く。その直後、2体の人型が地面を強く蹴った。
金属製の弓を強く引き、フリードは大きな弧を描く矢を2本放つ。しかし、人間と同じレベルの反応をする人型は、素早く前転しながら矢を回避した。ロボットとは思えない滑らかな動き。
その瞬間、フリードは拳を強く握り、小さく呟く。
「磁石矢」
金属製の矢は突如にして方向を変え、人型の横っ腹を射抜き、2体同士を衝突させる。
「上出来だ」
シンは素早く2体の懐にしゃがみこみながら飛び込み、双刀を構えながら突貫する。
「双炎・尖」
勢いよく突きつけられた双刀はそれぞれ2体の人型の胸部を貫く。
「体内からの攻撃はならどんなに硬くても効くだろっ!」
その瞬間、体内で発火し顔全体を煙で包まれながら膝から崩れ落ちた。
それから四人は快調に洞窟内を攻略していく。
前衛のシンの高い攻撃力を主なダメージソースに、中衛のラウラが援護しながら後衛のフリードが弓で射撃していく。バランスよく連携することで隊列が崩されることもないまま進んでいく
シンもラウラの高い運動神経と戦闘センス、そしてフリードの冷静沈着な判断と正確無比な射撃に舌を巻いていた。
リアはというと……パーティの応援担当に任命された。特大の瞬間火力を持つが、広い空間以外で攻撃したら自滅することが目に見えている。そのためその後戦闘に加わることはなく、後衛のさらに後ろで後方からの奇襲を見張るだけであった。
「もうすぐ水龍の住処よ」
パーティは、洞窟にあった小さな横穴で休憩をすることにした。まずはラウラとフリードが見張りをしながら、シンとリアが強敵と戦う準備をする。シンは剣をぶら下げるベルトに取り付けられたポーチから栄養剤を二つ取り出した。
エレメントは無制限に使えるものではない。許容量を超えて使用するとオーバーヒートを起こし、頭痛や吐き気といった体調不良を引き起こす。代謝と同じように徐々に回復していくもので、これはその回復速度を高める栄養剤だ。
シンは慣れた手つきで蓋を開け、一つをリアに手渡す。
「ありがとうございます……」
覇気のないその声にシンは耳を掻くしかできない。しばらくの沈黙の後で、ゆっくりとリアが口を開いた。
「私は……弱い自分が嫌です」
「だからこの学校で強くなろうと思ったのに……また助けられてばっかりです」
シンは拳を強く握り、振り絞るようにして声を出す。
酷かもしれない。けれど、はっきりと言うべきだと思った。
「だったら、強くなるしかないだろ。目指すものがあるのなら」
シンの瞳はブレない。見据える先は、遥か至高。
「俺は将来、この戦争を、地獄のような戦いを終わらせる英雄になるんだ。だから俺は世界で二番目に強くならなきゃいけない。それがどれだけ遠い場所なのかも分かってる。自分が足りないことも分かってる」
現実をしっかりと見据えた上での帰結。
「でもその弱さは、足を止める理由にはならない」
シンという男は、そういう男だった。
そして、キラルス第一高校という場所は、そういう者たちが集まる場所だ。
それを聞いたリアは、静かに顔を上げる。
「シンさんと話すと、勇気が出てきますね」
ふっと、リアが笑った。
「私も、誰かを守れるようになりたいです」
その笑顔で、シンは洞窟内にいたことも忘れてしまう。記憶の奥底に眠るものが蘇ってくる。
そう、あの時自分は故郷バイゼの広大な花畑の中央にいた。リアではないその少女――エレナも色白で大きな瞳だった。二人の目が重なり合う。
守れなかった――忌まわしき記憶。
いや、弱気になるな。あれは過去だ。
でも、もう誰にも負けない。弱者は誰も守れないから。
シンは若干の静寂の後、口を開こうとするが、
「そろそろいいかしら?」
ラウラの不意打ちにシンは横っ飛びして壁に張り付く。
「き、急に入ってくんなよ!」
「なに? なんかやらしいことでもするつもりだった?」
「んなわけないだろ!」
なんだか、リアといると調子が狂う。
シンが無理やり話を終わらせ、二人は横穴から出る。再び二人きりになって、少しの間静かな時間が訪れる。
「なあ、リア、お前の攻撃手段って水素爆発しかないのか?」
「はい。でも、起爆するときについ水素が散らばってしまってうまく制御できないんです」
「起爆が苦手なのか……確かにオリジンが要りそうだもんな」
先人たちはエレメントを扱う時に使うエネルギーのことをオリジンと名付けた。使用者は空間に自分の元素を生み出したり、その元素の状態を変えたり、他の元素と結合したりするすべての動作にオリジンを必要とする。オリジンの総量は人によって違い、修練していくことで増えていく。オリジンは基本的に目には見えないが、元素を生成する時のみほのかに発光する。
シンも炎を操るとき、着火するオリジンが要らないように剣から発生する火花に酸素を送り込むことで炎を大きくしている。着火するのも起爆させるのも、要は元素を励起状態にしなければならないということ。それには相当のエネルギーが必要で、高い練度を必要とすることが理解できた。
そうこう話しているうちに二人の準備も整って、いよいよ水龍のいる水辺へと足を運ぶのであった。




