1.3 ポンコツ爆裂娘
あらすじ
高校へと到着したシン。2人1組で洞窟内の指定されたアイテムを持ち帰るという一次試験に挑む。
バスで20分ほど山の方へ移動したところに洞窟は構えていた。巨大な岩にいくつもの穴が空いており、おそらく入り口なのであろう。受験者たちは一人ずつ指示された穴の前に誘導された。
「相方って、お前かよぉ〜」
「なんでそんな嫌そうなんですかぁ。よろしくお願いしますね、シンさん」
可愛らしい屈託のない笑顔。それに対してシンは、真剣な表情でこれからの試験について思考を巡らせる。
「(二人一組の探索ミッション。どう考えても、二人の協力が必要だが、それ以前にパートナーの能力に左右される。まずは、お互いの能力の確認、それから洞窟内で他の受験者との鉢合わせがありうる、か。連携の慣れないうちはできるだけ戦闘は避けたい。いや、むしろ他の受験者との協力……はできるのか?)」
シンは振り向いてリアに話しかける。
「リア、お互いの能力を確認しておこう。知っていると思うが、俺は酸素の能力者で炎を操る。基本的には前衛を主としているが、後衛もできないことはない」
「私は、水素(H)の能力者です。あまり戦うことは得意ではないので、私が後衛ですね」
「水素、か。お前も非金属じゃないか。じゃあ水とかを使えるのか? かなり使い勝手が良さそうだけど」
「いえ、水はかなりの上級者にならないと使えないんです。。今はまだ純粋な水素しか使えないんですよ」
「ん? じゃあどうやって戦うんだ?」
「水素爆発ですっ」
「物騒だな」
「火には言われたくないですよ!」
などと話しているうちに、受験者たちの準備は整い、各自異なる入り口の前で準備運動などをしていた。
「準備は整ったな。では、これから一次試験を始める。制限時間は1時間だ。それでは、始め」
フーベルトの澄んだ声が響き渡った。
洞窟内は薄暗く、視認可能なのはおおよそ10メートルほど。じめっとした空気ではあるが、ひんやりとして少し肌寒い。どこからか水滴の落ちる音がしていて、あとは二人の足音しか聞こえない。横幅5メートルほどの洞窟を二人は進んでいく。
どうやらこの洞窟は昔は炭鉱として使われていたようで、壁面のあちこちに鋭利な刃物で掘られたような跡があり、その周りには小さな輝く石の欠けらも散乱している。
二人のミッションは、直径1センチ以上の真珠を持ち帰ること。おそらく水辺での戦闘になると考えたシンは、自分の能力との相性の悪さを自覚していた。だが、地元では負けなしの強さであった自信がシンを支えている。
「なんだか……気味の悪いところですね」
後方のリアが3メートルほど後ろから声をかける。
「確かにな。でも、ここは学校に完璧に管理されているらしいから、落盤事故とかは起きないだろう。むしろ危険なのは……おっと、早速お出ましだぞ」
シンの目の前には、2体の犬型ロボットが待ち構えていた。大きさは中型犬程度で、カクカクした輪郭に似合わずなめらかに足を動かして、シンの左右に分かれながら攻撃の機会をうかがっている。対象を認識しているのか、目元の黒い液晶が緑色に発光している。
ニュース記事で見たことがある。犬型の軍事ロボットだ。
シンも腰の剣帯につけた双刀を鞘から抜く。
右手の長刀は白銀の刀身、左手の小太刀は漆黒の刀身が姿を現した。
長さの異なる双刀を携えた二刀流剣士。それがシンの戦闘スタイルだ。
「いくぞ」
シンは両手にそれぞれ持っている2本の刀を交差させ、長刀を小太刀に強く叩きつけた。2体の敵は、若干の時差を置いてシンに飛びかかる。その瞬間、短刀から鳴る乾いた金属音と共に発生した火花が燃え盛る業火へと変化した。突如現れた緋色の炎が暗い空間を照らす。
「双炎・廻」
双刀は炎を纏い、素早い回転斬りと共に美しい二つの緋色の円を描き、二つの金属片を壁に叩きつけた。
シンは双刀をブンッと左右に斬り払う。纏っていた炎が消え、その流れのまま鞘に収めた。
「こんなものか」
呆気にとられていたリアも一瞬で起こった出来事を理解し、シンに歩み寄り、上目遣いで服の腕の部分を両手で掴んだ。
「すごい……すごいじゃないですか!」
朝飯前のことであったが、シンもまだ15歳。女の子にこう褒められるのには慣れていなかった。が、嬉しいという気持ちを知られるのも嫌で、照れ隠しという高等技術を披露する。
「ば、ばかっ! んなこと言ってないで早く行くぞ!」
洞窟内はかなり入り組んでいた。幾つもの分かれ道に目印をつけながら二人は進んで行く。数度の戦闘も前衛のシンのみで難なく済ました。ここでも自分の力が十分通用することを実感し、シンは安堵する。そしてまた分かれ道が待っていた。
その時、右の道から再び犬型ロボットで先ほどより少し大きい個体が現れる。無駄な戦闘を避けるため、左に進もうとする。が、左からはコウモリに似たロボットが七体、空中で羽ばたいていた。犬型とは異なり、緩やかなカーブで描かれたフォルムをしており、やはりこのロボットも本物と同じようななめらかな動きである。
「一旦退くぞ! まとめて相手をする!」
「ダメです!」
後方には、ヘビの形をした1メートルほどの大きさのロボットが舌を出して威嚇していた。
マズい、囲まれた――
徐々に増えていた敵。そして、前後からの挟み撃ちによる窮地。
まるでデザインされたかのような違和感を感じつつも、シンは淀みなく判断を下す。
「リア、そのヘビの相手を頼む! 時間稼ぎだけで構わない!」
「はい!」
一気に高まった緊張感が二人に重くのしかかる。シンは必死に頭を働かせ、最善の手を考え出していく。
「大火炎!」
シンは双刀を横に振りながら叩き合わせることで巨大な炎を生み出し、その勢いのまま宙にいるコウモリに向けてその緋色の火球を飛ばした。飛ばされた炎の塊は左の通路一帯を焼き尽くし、コウモリも例外ではない。しかし、直後には犬型がシンに飛びかかっていた。シンは双刀を交差させ、攻撃を受け止めるだけで精一杯だった。壁際まで押し込まれ、ドスンと背中に衝撃が走る。力を振り絞り、犬型を振り払った。リアを視界の端で捉える。
「あんまり近づくと、痛い目を見ますよ!」
両手を前に伸ばし、ソプラノの声で叫ぶ。
「水素爆発!」
短く、大きい破裂音とともに一帯を爆風が襲う。とてつもない威力に、洞窟の壁すら悲鳴を上げ、その場の全てを吹き飛ばす。そう、シンとリア自身をも。
「おいぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっ!!!!!!!」
静まり返った洞窟内にシンの声が響き渡る。
「なんで俺らまで吹き飛ばしてんだよっ!!!!!」
「すみません〜まだ制御しきれないんですよぉ」
壁に叩きつけられたリアは涙目で謝罪する。シンもリアも服はボロボロになり、顔には土がこびりついている。しかし、その威力によって、爆撃をもろに浴びたヘビ型は見るも無残な姿になっていた。
「だから言ったじゃないですかぁ、痛い目を見るって~」
「痛い目って自分のことかよ!」
リアに説教でもしてやろうかと考えたが、思いもよらず受けた爆撃により、忘れていたことを思い出す。そうだ、まだ犬型が残っていた。犬型はシンから標的を変え、リアの方へ一直線で走り出す。リアでは対応しきれないと判断し、シンが反応する。
「速火炎!」
先ほどよりも細く、速い炎が犬型を貫かんとする。が、その鋭い炎は、リアが攻撃しようとして集めていた水素の気団を先に貫いた。
水素に火を近づけると、爆発する。この世の不変原理だ。
瞬間、先ほどのリプレイのように爆音と爆風のデュエットが二人に無慈悲な衝撃を与えた。




