3.2 ひえひえ冷徹クイーンとへらへら陽気プリンス
あらすじ
夏合宿2日目。1日目を発展させた訓練が始まる。
2日目の内容は3対2の連携訓練だった。これは両チームとも生徒で構成される。
3人チームのセオリーとしては相手2人を分断することである。そうすることで相手の連携を封じることができ、戦闘を有利に進めることができる。逆に2人チームとしては、二人で連携して広範囲攻撃で一掃するか、集中攻撃で一人ずつ減らすかの2パターンある。
3対2の戦いは、実戦において出てきやすい。実戦では基本2~5人程度の小隊で動くことが多く、交戦が始まった時にはそれくらいの人数になるからだ。また、3対1は明確に3人側が有利でよっぽどの力の差が無ければひっくり返せないが、3対2なら2人側の連携次第で充分に戦えるのも違いだ。例えば時間を稼ぐだけでも、他の戦闘が進んだり援軍の到着によって状況が好転することもある。
この訓練で最も存在感を示したのが、ハンナ=ベルトリウスだった。空色の髪をポニーテールに束ね、切れ目ではあるが大きな瞳と通った鼻筋、やや小ぶりの唇のバランスは整っている。165センチほどの長身で、出るところは出て締まるところは締まるという抜群のスタイル。いかにもクールビューティーと言う感じで、学内からの人気も高い。特に女子から。
彼女の能力はフロン(F)だ。フロンは蒸発しやすい特性を生かして、蒸気潜熱、いわゆる気化熱を利用して、「冷たい熱」を作り出す。冷却機にも使われる元素であるフロンは、一時期オゾン層の破壊の原因であるとして利用をやめていたが、エレメントの研究によってフロンを大気中に排出しない冷却器が製造されるようになったことで再び利用されるようになっている。
彼女がこの訓練で活躍をした要因は、彼女のエレメントと使う武器、二丁拳銃の力が大いに発揮されたことである。
彼女の力が最大限発揮された試合があった。3人チームがラウラ、ハンナと、翡翠色の髪をした男、ニクラスだ。
ニクラス=ソルベー。髪の毛を立たせ眉は釣り上がっており、身長も180センチ以上ある。その風貌といつも長袖の制服を腕まくりし、筋肉質の腕をあらわにしていることもあって初対面では皆が恐怖を覚えがちだ。しかし、会話をすると途端にその印象はガラッと変わる。要するに、底抜けに明るい。
「おーす! ラウラっちとハンナっちじゃん! 楽しみだー! よろしくぅ!」
今日も相変わらずの元気にラウラは目が死んだまま半笑い。
「うん……まぁ……よろしく」
ハンナは眉間にシワを寄せ明らかに拒絶反応を示す。
「…………」
「あっれー? ハンナっち元気なくなぁい? テンション上げてこーぜっ!」
「うるさい、死ね」
入学当初から学内でも人気のあったハンナは入学直後に容姿端麗、お家柄もかなり良い先輩に告白された。その先輩はかなり自信があったらしく、一年の教室の前で告白したのだが、あっさりと玉砕した。そしてその理由をはっきりと告げた。
「弱い人に興味はない」
それでも食い下がる先輩を振り払い、眉間に銃口を突きつけ、尻もちをついたその先輩をゴミを見るかのような目で見下したその一件から、隠れファンはいても誰も声をかけられなくなってしまった。
だが、このニクラスに関しては例外であった。ハンナはいつも嫌がっているようだが。
ニクラスの能力は銅(Cu)である。元々は剣士であり、普段は剣と盾を持っている。が、銅の高い展性と延性(薄く広がる性質と延びやすい性質)を生かして剣を鞭のように変形させたりするのが特徴的だ。そのため前衛も後衛もできるオールラウンダーである。彼の性格と似て、つかみどころのない柔軟な戦闘を持ち前のセンスでこなすことができる。
「まったく照れ屋さんだなぁ〜」
「死ね」
我慢の限界に達したハンナは腰の左右についた拳銃のうちの右手側の銃を目にも留まらぬ速さで掴み、発砲した。銃弾はニクラスの左耳のわずかに横を通り、10メートルほど後ろにいたシンの右耳横を髪の毛にかすりつつ通過し、壁にめり込んだ。シンは口を開いたまま驚愕の表情でハンナの方を見るが、文句を言う勇気はない。
2人チームはシンとアレンである。世代最強格のアレンは言わずもがな、シンも身体能力においては学年でトップクラスに位置する。この2人を相手にするのはかなりの難易度。周りもそのような目で対戦を見ていた。
「足は引っ張らないでおくれよ?」
「そっくりそのまま返してやるよ」
試合開始直後、シンは広範囲攻撃を繰り出した。
「全火炎!」
灼熱の業火が三人を包み込む。入学試験の頃とは桁違いの熱量である。1学期に鍛えた基礎がシンの能力を高めていた。ラウラとニクラスの前衛2人も、その予想以上の威力に回避が遅れている。しかし、シンの炎が直撃しようかというその瞬間にハンナがそっと呟く。
「氷結」
3人の前に白い壁が生み出される。ハンナが空気中の水蒸気を凝固させ氷の壁を作り出していた。シンの炎によって壁は無くなったが3人とも無傷で、下には溶けて残った水が残るばかり。
その直後に今度はアレンがシンの上から飛び出し、広範囲攻撃が三¥3人を襲う。
「広電撃!」
地面に向けられた青白い電撃は大きな雷鳴とともに地面を這って高速で迫る。
「避雷銅!」
それをニクラスが剣と盾を先端が丸い棒状に変化させる。即席の避雷針だ。アレンの強烈な一撃も受け流すことに成功する。
そして、ハンナの6連射を皮切りに3人の反撃が始まった。
6つの弾丸はわずかにタイミングをずらしてシンとアレンに3発ずつ襲いかかる。これらは自然に避けやすいように動くと、2人は逆方向であり分断されてしまう絶妙な射撃であった。これに気づいたのはアレンのみ。アレンは銃弾の通り過ぎるギリギリのラインを強引にシンと同じ方向に避ける。しかしそこには既に体制を立て直していたラウラが突っ込んでいた。アレンはラウラの攻撃にも対応し、回避するもシンとは分断された。
それからはシンとラウラ、アレンとニクラスのマッチアップとなった。それぞれのマッチアップにおいてはシン、アレンの方が勝るものの、ハンナは2人に対して正確無比な射撃と足などをエレメントで凍結することによって攻めきることを許さない。
対して3人チームも常に押しているものの、ここぞというところでのシンとアレンの高い攻撃力による反撃に遭い、そのまま制限時間が切れて引き分けになった。
しかし、数的有利を生かして格上相手に優勢を保ったこの試合は講師たちに高く評価されると同時に、生徒たちへの見本になった。
□ □ □
アレンが部屋に戻った時、ちょうど廊下の逆側から来た風呂上がりのマルクと出くわす。
アレンとマルクは相部屋だった。
「お疲れ」
「…………」
マルクは黙って鍵を開け、部屋の中へと入っていく。そして、窓際に荷物を置いて振り返った。
「貴様、どういうつもりだ? アレン=キルヒホッフ」
その言葉の真意を探るように、アレンは小さく首を傾げた。
「敵に塩を送るような真似をして」
アレンはすぐにそれがシンに対する助言についてだと察する。
「マルク、君は視野が狭いのが欠点だ」
「クラスメイトは敵ではなく仲間だ、と言いたいのか?」
「なんだ、分かっているじゃないか」
アレンは大袈裟に驚いたようなリアクションをしてみせる。
「戦争は一人ではできない。それにこれは自分のためだよ」
ふふんと不敵に笑って告げた。
「強い仲間に囲まれると、自分も成長できるからね。王ゼルギウス率いる、黄金世代がそうだったように」
それを聞いたマルクは、不服そうだ。
「そんな回りくどいやり方を……」
「知らなかったかい? 僕は性格が悪いんだ」
食えない奴だ、とマルクは煮え切らないまま、マルクはベッドに腰を掛けて武器の直剣の手入れを始めた。それを見て、アレンも風呂の準備をして部屋を出た。
アレンはここ2日間のクラスメイトの姿を思い出す。充分に基礎力は備わった。
そして、思う。
この合宿中に、みんなの意識を一段階引き上げる。
ついてこられない者は、置いていくだけだ、と。




