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エレメント  作者: 梅雨川豪馬
3章 夏合宿編
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3.3 ふわふわ重戦車

あらすじ

夏合宿3日目。より実践的な訓練が始まる。

 3日目、午前に1日目と2日目の復習後に昼食を済ませ、特進科の20人が5人4チームに分けられる。一方、普通科の生徒は6人チームに分けられた。そして、午後のメニューが告げられる。

「これから、特進科のチームと普通科のチームで模擬戦を行なっていく。1試合5分までで、クリティカルヒット一撃で退場とする。最後に多く残っていた方の勝利だ。クリティカルの判断はこちらで行う。試合の間隔は2分として特進科は連続で試合をする」

 シンはたまに頷きながらこの説明を聞いていた。一人の数的数的は5人の連携でなんとかなる。問題は連続での試合で、後半になるほど厳しくなることは明白だ。いくら特進科と普通科の違いがあれど、普通科は特進科の3倍である12チームあるため、単純計算で3倍のオリジンと体力を使う。オリジンの総量は個人によってまちまちではあるが、普通科と言えど国内でトップである第一高校の生徒のレベルは高く、特進科の生徒の平均量は普通科の平均の1・5倍程度であろう。よって体術など物理攻撃でどれだけ戦えるかが重要になるだろう。2日半で練習した連携を実践できると同時に、スタミナをつけられるこの実践経験は貴重なものだと感じていた。

 なお普通科の生徒にとっては、人海戦術で格上を倒す訓練となる。警察が強力な能力者を相手にする時には実際にそのように対処する。

 シンは素直に良いメニューだと思った。

 フーベルトの考えには頭の下がるばかりだ。いつも的確なアドバイスを与え、生徒たちからの信頼も厚い。ゼルギウス王の頭脳は伊達ではないと事あるごとに感じる。欲を言えば生徒に対してもう少し堅さを無くして欲しいとは思っているが。

 フーベルトは一通り説明を終えると、20分後から開始すると告げ、解散させようとした時、表情を崩さないまま言った。

「ああ、忘れていた。特進科はキルされた回数に応じて罰ゲームがある。それからチームが負けた時にはもっと重いものを用意しているから、楽しみにしておくように」

 マルクとの模擬戦を許可したような、時折見せるフーベルトの遊び心。

 前言撤回。これはクソメニューだった。


 シンのチームは、シン、リア、ラウラ、モニカ、そしてベリエス=グメリンとなった。

「よろしくね〜」

「ああ、よろしくな、ベリエス」

 柔らかな物腰で挨拶するその男子生徒は巨漢だ。体は縦にも横にも大きいが、性格は温厚。クラスのゆるキャラ的存在で、皆から好かれている。緑色の髪の短髪は天然パーマがかかっており、背中には大きな盾と槍を携えている。彼のエレメントはタングステン(W)。高い比重をもつタングステンを生かした高い防御力を持つ。前線での盾役を担うことが多い。

「そういえば昨日の訓練、体調不良で休んでたって聞いたけど、大丈夫だったのか?」

「うん。ちょっと前日食べ過ぎちゃって」

「食べ過ぎかよ……」

「ここの料理は美味し過ぎてダメだよ〜。それにバイキング形式だし」

 確かにこの合宿所の料理は絶品だった。孤島であるからなのか、海の幸は豊富で、きのみのような果物もどれも美味しい。肉だって霜が降っていた。

「ほ、本当ですよ! もっと不味くしてほしいです!」

 話に加わってきたのはモニカだ。モニカは人見知りが激しく、特に慣れていない男子とはあまり話せないのだが、ベリエスに関してはその柔和な性格からか例外なようだ。

「いや、不味くするのは困るだろ」

「だって、このままでは困りますよ!」

「もしかして、モニカ太ったか?」

 がーん、とモニカは頭を抱える。その様子を見ていたリアが呆れたように呟く。

「シンさん、本当にデリカシーないですよね」

 自己紹介が終わった頃に、フーベルトが特進科の生徒たちを集合させた。

「これからの合宿では、このチームで動くことになる。その際に各自で色々と考えていってもらいたいことがある」

 生徒たちは真剣にフーベルトの話を聞いていた。

「自分はそのチームで何ができるのか。どんな役割があるのか。どうすれば周りと上手く調和していけるのか。どうすれば自分の力が一番活きるのか。どうすれば仲間の力が一番活きるのか。それらを考える上で最も重要になってくるのは、自分の長所と短所を考えることだ。自分の長所をどのように活かすか。自分の短所をいかに補うのか。それがチームを組む最大の利点となる」

 シンは心の中で自問する。

 自分の長所と短所とは?

 剣術は秀でている自負はあるが、まだアレンには敵わない。戦況を一変させるほどの瞬間火力はリアに劣るし、知識はラウラには到底及ばない。遠距離攻撃やサポートはフリードやモニカが優れている。

 強くなりたい、ならなければいけない。そう思ってはいたが、実際には強さには様々な種類がある。周りの援護がなければ前衛は敵に近づく前にやられてしまうように、互いに支え合わなければならない。

 フーベルトの言葉は漠然と強さを考えていたシンに一石を投じた。

 求める強さ――および、求められる強さ。

 すぐに答えは出ない。色んな挫折や困難を乗り越えた先に、その答えがあるのだと直感はしていた。


   □ □ □


 それから20分後に、メニューが始まった。序盤は想定通り、特進科が普通科を圧倒した。卓越したエレメントの技術のみならず、剣術や体術といった基本的な能力でも特進科は秀でていた。一人の数的不利はものともしないほどに。

 ここで特に活躍したのはリアだ。リアの広範囲にわたる爆撃を相手は止められない。さらにリアはオリジンの保有量も膨大で、簡単には枯渇しなかった。

不動壁(イムーバブル)!」

 それをカバーするのがベリエス。圧倒的な物量のタングステンで、相手の侵攻と遠距離攻撃を完封する。

 しかし、訓練がちょうど半分の1時間に到達しようとしたあたりで、リアに疲れが見え始めた。それからはシンたちの消耗戦に突入する。最初にオリジンが切れたのはモニカ、それからベリエス、ラウラと続いた。

「くそっ!」

 常に押し込まれる展開が続く。前衛のシンとベリエス、中衛のラウラが突破され、後衛のリアとモニカに危険が迫る。シンは必死に生み出した火炎を放つ。

「ばか、シン! オリジンを使い過ぎよ!」

 その瞬間、シンに途方もない倦怠感が襲う。オリジンの枯渇を直感的に把握した。

 前衛が突破された時の後衛ほど無力なものはない。

 シンは後衛のリアとモニカがやられるのを歯噛みして見ることしかできなかった。

 オリジンが尽きたシン達の戦いはどんどんと苦しくなっていった。物理攻撃だけでは遠距離攻撃を避けられずに、じわじわとダメージが効いてくる。全体の半分では誰も退場せずにいたが、残りは散々な結果だった。他のチームも同様だったが、アレンだけは違った。

 一人だけ次元が異なる。そう思わせるのには充分すぎる無双。

 全ての攻撃が的確に敵を排除する。まるで子供をあしらうように攻撃を受け流す。

 その判断に淀みがない。時には、味方を囮にして敵をまとめて一掃した。

 最後まで一度も退場しなかったのはアレン一人。アレンはチームでの負けも無かった――全てアレンが敵を殲滅したため、罰ゲームなしはアレンのみ。それ以外の生徒は平均10回の罰となった。

 シンはまたしてもアレンに水をあけられる結果だ。

「それでは、お先に」

 にこりと笑みを見せて、そそくさと宿舎の方へ歩いていく。

「あ、フーベルト先生。罰ゲームは何を?」

「筋トレだ。オリジンが枯渇していてもできるだろう?」

 その後は案の定、皆で地獄を分かち合うことになった。

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