2.3 ギラギラ尊高マン
あらすじ
シンはキラルス第一高校のレベルの高さに度肝を抜かれるも、日々鍛錬を続ける。
第一高校の授業は多岐に渡る。
数学や量子力学、護身術などをはじめとする必修授業と、剣術や薬学、兵法などそれぞれの個性にあった選択授業に分けられる。また、もちろんエレメントについての授業もある。元素生成やエレメント制御などは必修科目、元素解析学やエレメント歴史学などは選択科目だ。選択授業に関しては他学年を合同になることもある。
シン、アレン、ラウラは剣術Ⅰの授業を取っていた。体育館での授業であり、今は5分の休憩中だ。講師が王の頭脳フーベルトということもあり、人気授業だ。この授業は1年生のみが受けている。
「なんかこの授業って堅苦しくねえ?」
シンがフーベルトに聞こえるか聞こえないかの声でアレンとラウラに話しかける。
「ばか! 声が大きいわよ!」
「ラウラ、君の方が大きい。大体シン、君は自己流すぎるんだ。剣に無駄が多すぎる」
アレンがシンをたしなめる。
「でも、この型ってやつは意味があるのか? 俺には自由さが無くなって、かえって弱くなる気がするんだが」
はあ、とアレンは少し呆れたようにたしなめた。
「君は何もわかっていないな。各部位に最短で打ち込むことが出来るから型っていうものが存在するんだ。当然これだけでは強くなれないが、今の君にはぴったりだぞ」
「へぇ、そんなもんかね」
シンは大人しく引き下がった。彼は合理性というものを重んじる傾向にある。アレンの言うことが正しいのなら、願ってもいない鍛錬になる。
ただ、この型というものは一朝一夕で身につくようなものではない。周りは慣れた動きでこなすものの、今までこのような指導を受けて来なかったシンはかなり手こずった。雰囲気で真似してみると本人にとってはできているように感じるが、あらゆるところで注意される。アレンとラウラが付きっきりで練習していた。
すると、一人の男が三人の元に近づいてきた。
「型もできない田舎者がいるとはな」
明らかに喧嘩を売ってきたその男はシンも見覚えのある一年だった。
金色の短髪を立たせ、筋肉隆々としたその姿からは、言葉同様に高圧的な印象を受ける。細い目と眉がシンたちを鋭く睨み、顎を少し上げ、シンとアレンよりも高い位置から見下ろす形だ。ふんっと鼻で息を吹き、アレンの方を見る。
マルク=プランケット。金(Au)の能力者である。学校指定のえんじ色のジャージを背景に、金の剣がやけに目立つ。背筋はピンと伸び、出で立ちはいかにも上流階級といった感じで、プライドが高そうなやつ、とシンは内心で思っていた。
シンは波風を立てるのは好まない。適当にあしらってこの場をやり過ごそうと考える。
「君も大変だな、アレン=ブレッヘルト。しかし、他人のことばかり気にするのもどうかと思うぞ。主席をとって当たり前とでも思っているのかもしれないが……」
どうやらこのマルクという男は、アレンに対してライバル心を燃やしているらしい。
「それなら心配無用だ。今のところ僕と良い勝負になるのはいないから。まだ期待できそうな彼に何とか頑張って僕に追いついて欲しいと思っているんだよ」
シンはやや左頬を引きつらせる。マルクはさらに鋭い目つきでアレンを睨みつけ、血管を浮き上がらせる。
「それは僕が彼に劣っているということかな?」
「いや、そんなことではないよ。まあ、今のところ同じくらいじゃないか?」
「ふざけるな!」
怒号が体育館に響き、生徒全員がビクッとして振り向く。不穏な空気が流れる。
「そこまで言うのなら、シン、僕と決闘してもらおうか。そして勝ったら次はアレン、貴様が相手だ。」
「何の騒ぎだ?」
フーベルトが歩み寄る。シンは止めてくれよ、と思いながらも、周りもヒソヒソと話し出し、注目している。
「決闘をさせていただけませんか?」
マルクのその言葉に、フーベルトは眉をひそめた。
この第一高校では、何か揉めた時に決闘という手段をよく取る。昔からの伝統だそうだ。シンは伝統といったものが大嫌いだった。まるで合理的でないものばかりだからだ。
「……授業中だ。模擬戦、というなら構わんが」
マルクは少し考えて、小さく頷いた。
「……ええ、それで構いません」
「では、全員中央に集まりなさい」
ちょっと。まだ自分は何も言っていないのですが。
フーベルトが声をかけると、生徒たちは面白がりながらゾロゾロと集まる。
「シン、頑張れ」
「負けるんじゃないわよ」
アレンとラウラも付いていく。プルプルと震えていたシンがついに我慢の限界を迎える。
「ちょっと待て! 勝手に進めないでくれ!」
アレンのせいで、早速波風が立ってしまった。
□ □ □
「今回の模擬戦は授業の一環。剣術のみとし、エレメントの使用は禁止とする。一本先に取った方の勝ちだ」
四角い白の線を囲むように他の生徒たちは立ったり座ったりし、そのセンターライン付近でラウラとアレンがフーベルトの隣に立っている。
シンは指定の位置に立つと双刀を鞘から引き抜き、白銀と漆黒の刀身が姿を見せた。対するマルクはどうやら左利きのようで、剣を左手に持っている。
「ゴールド・ジェネレーション。スタイルチェンジ」
するとマルクの前の空間が発光するとともに金の塊が現れ、それが盾の形に変化した。シンはこんな簡単に金を生み出せるんじゃあ金の価格がエレメントが発現する前の百分の一の価格になるわけだと納得する。
マルクは盾を右手に持ち、二人ともジャージの上にヘッドギアや胸当て、レッグガードなど指定の防具を装着し、真剣な顔つきで開始の掛け声を待つ。
「模擬戦、開始!」
先に動いたのはシンだった。一気に間合いを詰め、マルクから見て左側、剣を持っている方のわずかに違う角度から同時に二つの斬撃を繰り出す。マルクは体をひねり、盾と剣で一撃ずつ受ける。
「(隙がでかい!)」
マルクは左下方からカウンターを放つ。左利きとの対戦経験が少ないシンは、珍しい軌道の攻撃に反応が少し遅れる。マルクは勝利を確信する。
「(取った!)」
しかし、シンは攻撃の勢いのまま、その場で回転し、そのまま水平の回転斬りを放った。白と黒のコントラストが綺麗な円を描く。
シンとマルクの剣の三つの軌道はわずかにかすめた。シンの斬撃はマルクの脇腹に、マルクの斬撃はシンの腹部にほぼ同時に直撃し、二人は吹っ飛んだ。
「ふむ、マルクの攻撃の方がやや早く、急所にヒットした。この勝負はマルクの勝ちとする」
わずか10秒足らずの呆気ない幕切れに、周りの生徒たちは物足りなそうな表情である。
二人は立ち上がるも、マルクは少しふらついていた。シンの予想不可能な動きに受身が少し遅れたのだ。
アレンがマルクの方に歩み寄り、尋ねる。
「面白いよね、あの剣術。あ、どうする? 僕ともやるかい?」
「いや、今日はもういい」
というと終業のチャイムが体育館に響き渡った。マルクは防具を外し、そのまま体育館を立ち去った。今度はシンの方に近づく。
「剣に無駄がなければ君の方が先に決まっていたよ」
シンは黙ったまま防具を外す。キラルスに来てから、負け続きの自分に悔しさを滲ませた。だが、それと同時に、今まで経験してこなかったレベルの高さを誇るここでの修練は、どれだけ自分を強くするのか、という期待も感じていた。
このままではいけない。だが、高校生活は3年ある。
「これから……、これからだ」
シンは誰にも聞こえない声で自分に言い聞かせた。
□ □ □
「シンさん。マルクさんと喧嘩したって本当ですか?」
隣の席に座るリアがぐっと体を机に乗り出して、そっぽを向くシンの顔を強引に覗き込む。
「いやぁ、喧嘩じゃないよ、決闘っぽい模擬戦」
「もっと物騒じゃないですかぁ。大丈夫だったんですか?」
リアは悲壮な表情で依然シンを見つめる。
「まあ大丈夫だったといえば大丈夫だったな」
「ええ、大丈夫じゃなかったといえば大丈夫じゃないわね」
口を挟んだのはアレンとラウラ。
今はエレメント基礎学の授業中。全員必修の授業のため、いつものメンバーが集結している。
「もう……、やっぱり大丈夫じゃなかったんですね」
「そんなにシンが心配?」
ラウラが意地悪そうにリアを後ろから突っつく。
「別にそんなのじゃないですけど」
リアは頬を紅潮させ、今度はリアがそっぽを向いてしまった。
大体アレンが余計なことを言わなければ何も起こらなかっただろうとアレンの方を睨みつけるが、アレンは頭の上に?マークを浮かべている。
教室の後方にたむろしているそんなシン達を他所に、授業は進んでいく。
「えー、そんな風に、エレメントは使用者の心理状態を反映するのじゃ。怒りは時にエレメントの力を上昇させる。じゃが、繊細な力のコントロールが必要な時には失敗する。常に安定した力を出すためには心を安定させなければいけないのだから、簡単ではないのぉ」
年老いた白髪で立派な髭をたくわえた講師は、シン達の私語に気づいているのかわからないが、淡々と話を続ける。
「では、ここで質問。エレメントを使用する上で最も効果を高めるものはなんじゃ? そこのグループ、誰か答えい」
その講師が杖で差したのは、シン達。やはり私語に気づいていたようだ。
「想像力、ですかね?」
アレンが答えると、講師は自分のヒゲを撫でながら、
「その通りじゃ。想像力、イマジネーションじゃな。どんな効果を及ぼすのか鮮明にイメージできているほど、エレメントの完成度は高まる。技の名前を口に出すことも、手っ取り早くイマジネーションの補完になることは皆は知っていると思うが」
技名を唱えることは必須ではないが、自身の中で名前と現象を即座に結び付けやすい。
「技を何度も繰り返し発動すると、より鮮明なイメージができるようになるから、より高い効果を発揮する。我々が練度と呼ぶものは日々の鍛錬によって積み上げられるものなのじゃ」
そのタイミングで終業のチャイムが鳴った。講師はヨボヨボとした足取りで前のドアから出て行き、生徒達もぞろぞろと後ろのドアから出ていく。
生徒の大半が出て行った後で、教室の前の方から声が聞こえてくる。目の前ではオリジンが発光している。
「うおぉぉぉ! 頑張れ、俺のイマジネーション!」
翡翠色の髪の男が作っていたのは、裸の女性の銅像だった。
「あいつ、バカだよな」
「バカだ」
「バカね」
「バカです」
「バカだね……」
その男は隣の桜色の髪の女子に思いっきり蹴飛ばされた。




