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【第11章】第5話「卒業式」

卒業式当日。


春の訪れを感じる柔らかな陽射しが校舎を照らしていた。


朝から学校はどこか特別な空気に包まれている。


校門には保護者の姿があり、廊下では卒業生たちが友人と写真を撮っていた。


笑い声が聞こえる。


けれど、その奥には少しだけ寂しさも混じっているようだった。


在校生である透真たちは、決められた時間に体育館へ向かった。


整然と並べられた椅子。


壇上に飾られた花。


静かに流れる式典の空気。


透真は在校生席へ座りながら、前方に並ぶ卒業生たちを見つめていた。


その中には当然、和希と昴の姿もある。


いつも見ていた制服姿。


それなのに今日は少し違って見えた。


卒業生としてそこに座っているからだろうか。


式が始まる。


校長先生の話。


来賓の祝辞。


送辞。


答辞。


静かに時間が流れていく。


透真は真面目に聞いていたはずなのに、どこか落ち着かなかった。


視線は何度も前方へ向いてしまう。


和希。


昴。


あと少しで卒業する先輩たち。


その事実を頭では理解している。


それでもまだ実感は薄かった。


まるで明日も普通に部室へ来るような気がしていた。


そんなはずはないのに。


やがて卒業証書授与が始まる。


担任の先生が一人ずつ名前を呼び上げていく。


卒業生たちが立ち上がる。


静かな体育館に名前が響く。


透真は自然と背筋を伸ばした。


そして。


「橘 和希」


名前が呼ばれる。


和希が立ち上がった。


その姿を見た瞬間、透真は小さく息を呑む。


いつもの和希だった。


でも。


いつもの和希ではなかった。


堂々と前を向いて歩く姿は、どこか遠く感じる。


壇上へ向かう背中を見ながら、透真は目を離せなかった。


続いて。


「一ノ瀬 昴」


昴の名前が呼ばれる。


昴は静かに立ち上がった。


余計な動きはない。


いつも通り落ち着いている。


それなのに。


その背中もまた、普段とは違って見えた。


透真は二人の姿を見つめる。


和希の背中。


昴の背中。


文化祭。


観測会。


イルミネーション。


冬の観測会。


たくさんの思い出が頭の中をよぎる。


部長を引き継いだ日。


「よろしくな、部長」


そう言われた日のことも思い出した。


そして。


不意に胸の奥がきゅっと締め付けられる。


卒業するんだ。


その瞬間だった。


今までどこか現実感のなかった言葉が、初めて本当の意味を持った。


卒業する。


和希が。


昴が。


先輩たちが。


この学校を離れていく。


透真は静かに拳を握る。


寂しい。


その気持ちは確かにあった。


けれど、それだけではない。


二人は前へ進む。


自分たちも前へ進む。


それはきっと悲しいことではない。


だから透真は、ただまっすぐ先輩たちの背中を見つめた。


卒業証書を受け取る姿を。


未来へ向かって歩く姿を。


しっかりと目に焼き付けるように。


春の陽射しが体育館の窓から差し込み、卒業生たちを照らしていた。


その光景は、透真の記憶の中にずっと残り続ける気がした。


読んでいただきありがとうございます!

ー

毎日21時に投稿予定です५✍⋆*

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