【第11章「卒業」】第1話「合格発表」
三月初旬。
放課後の部室には、いつもとは少し違う空気が流れていた。
静かというわけではない。
いつも通りみんな話しているし、活動もしている。
それなのに、どこか落ち着かない。
「まだかな」
夕花がスマホを見る。
「まだだな」
裕翔も答える。
「気になるね」
紬も小さく笑った。
その理由は簡単だった。
今日は和希と昴の合格発表の日だった。
二人とも受験勉強を頑張っていた。
冬の間、部活にもほとんど来られなかった。
だからこそ。
みんな結果が気になっていた。
透真も何度目か分からないくらいスマホを見ていた。
「まだ連絡ない?」
裕翔が聞く。
「ない」
透真は首を振る。
「大丈夫かな」
「大丈夫だろ」
薫が言う。
「そうだよ」
伊織も頷く。
「先輩たちですし」
琉衣まで当たり前のように言った。
それでも。
やっぱり気になる。
部室の時計の音が妙に大きく聞こえた。
その時だった。
ピコン。
透真のスマホが鳴る。
「あ」
全員が反応した。
透真は慌てて画面を見る。
そして。
「和希先輩!」
立ち上がる。
「え!?」
「どうだった!?」
みんなが一斉に集まってくる。
透真はメッセージを開いた。
そこには。
和希
『受かったよーーーーーー!』
一瞬。
部室が静かになる。
そして。
「やったーーー!!」
夕花が叫んだ。
「おめでとうございます!」
紬も嬉しそうに笑う。
「よかった……」
透真は心の底から安心した。
裕翔も笑う。
「さすが和希先輩」
「よかったな」
薫も小さく頷いた。
すぐにグループLINEがお祝いメッセージで埋まっていく。
『おめでとうございます!』
『やったー!』
『お疲れ様でした!』
その時だった。
また通知が鳴る。
「あ」
今度は誰よりも早く裕翔が言った。
「昴先輩だ」
全員が画面を見る。
昴
『合格した』
たった四文字。
でも。
「昴先輩だーー!!」
透真が笑った。
部室にまた歓声が上がる。
「おめでとうございます!」
「よかった……」
夕花が胸を撫で下ろす。
「これで一安心だね」
伊織も微笑んだ。
透真はスマホを握りしめる。
本当に良かった。
和希も。
昴も。
ちゃんと春を迎えられる。
そのことが自分のことみたいに嬉しかった。
しばらくして。
部室の空気は少し落ち着きを取り戻した。
「よかったな」
裕翔が呟く。
「うん」
透真も頷く。
窓の外では夕暮れが始まっていた。
冬は終わりに近付いている。
そして。
「来年は俺たちか」
ぽつりと裕翔が言った。
部室が少し静かになる。
二年生。
裕翔。
薫。
伊織。
夕花。
紬。
透真。
来年の今頃。
今度は自分たちが受験生だ。
「早いな」
薫が小さく言う。
「ほんとに」
夕花も苦笑した。
「まだ先だと思ってたのに」
透真はその言葉を聞きながら、少しだけ考える。
進路。
将来。
イルミネーションの日にも少し考えた。
でもまだ答えはない。
それでも。
時間は止まってくれない。
先輩たちが卒業する。
そしていつか。
自分たちも。
透真は窓の外を見た。
薄く色付いた春の空。
卒業の日は、もうすぐそこまで来ていた。
読んでいただきありがとうございます!
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